世界の余白に美しい物を埋めて
雪が深い。夜なんかは音が消える。私はこの時間がたまらなく愛しかった。
隣の温もりから離れて、窓際へ。冷気が肌をさして、目が覚める。やはり何か羽織るべきだったかなとうまく働かない頭の隅で思う。何故か、彼のいるベッドに戻ろうとは思わなかった。もう少しだけと窓にはりついていたら、後ろから抱き締められた。この時、私の体が随分冷えていることがわかった。
「何、してるの?」
起き抜けで少し掠れた声が鼓膜を揺さぶる。
「雪を見ていただけ。起こしてごめんね。」
「いいよ。そんなことより冷えてるね。」
紅茶でも淹れようか? 暖房をいれながら聞かれるそんな問いにちょっと嬉しくなって不安になる。
「ホットミルクがいいな。」
「はいはい。」
郁はいろんな意味で大人。ちゃんと成人してるし、そういう経験だって多い。だから、時々どうしようもなく不安になるし、こんな風に不安になってると子供っぽいかなって自己嫌悪。これをぐるぐる繰り返す。悪循環の完成だ。
「はい、どうぞ。」
「…ありがとう」
だから、いつも不安。2人の時も、特に街に出掛けるときは嫌。大人の女の人とかが郁をみてきゃーきゃーするから。
「難しい顔してるね。どうかした?」
「なんでも、ない…」
マグカップをテーブルに置いて、腕に抱きつく。ぎゅーっとすると郁はクスリと笑って私の頭を撫でてくれる。
「眠くなっちゃった?」
本当は知ってるんだ、私が不安がっていること。郁はそれを訊いてこないし、私も言わない。だって、ほんのちょっとしたことでその不安は消えてしまうから。これはきっと郁の魔法。
「おやすみ、琥雪。愛してる。」
その一言と郁の温もりがあれば、もう大丈夫。郁が発する幾憶の言葉のなかでそれが特別味を持つのは私にだけだから。
額にキスして愛してる。
110726