青の嗚咽
雨がふると、『空が泣いている』と誰かが言った。雨が空の涙なら、雷は空の嗚咽なのかもしれないと幼い頃に思ったことがある。そうすると夕立の前は不思議で堪らなかった。空に水銀をポロリと溢したような儚く、淡い閃光。それが後に大雨を連れてくることを知らなかった僕は、泣いていないのに嗚咽をもらす空が不思議だった。
「あ、」
「どうかしましたか?」
正面玄関を出たところで、ポタッ と地面に円が現れてだんだんそれが地面の色を変えていった。夕立だ。僕たちは正面玄関に逆戻りをするはめになった。
「夕立ですから、しばらく待てば止むでしょう。」
「…そうね」
大粒の雨は夕陽を浴びてキラキラしながら地面を跳ねている。
「きれい…」
琥雪さんがぽつり呟いて鞄を僕に預けて雨の中に飛び込んで行った。
「琥雪さん!?」
僕の驚きと心配をよそに雨の中で無邪気に笑う彼女は陽の光に透けて見えてそのまま消えてしまいそうだった。
「何やってるんですか!?」
思わず僕も飛び出して琥雪さんの腕を掴んで玄関に連れ戻す。その腕の冷たさが不安を煽った。
「手、熱いね。」
「琥雪さんが冷たいんですよ。」
今日はどうも話が噛み合わない日らしい。
「もう少ししたら、虹がでるんじゃないかな。」
琥雪さんがそう言うと雨があがって、遠くの空に虹ができた。
「ほら、きれい。」
110529