砂糖を唇に塩分を瞳に
むしゃくしゃする。
この気持ちは単純に嫉妬だ。
この僕が、
「僕だからって油断し過ぎだよ、」
たった一人の少女に、
「琥雪。」
焦がれる。
鍵をかけた教材室の最奥、男女が二人きり、壁に追い込んで逃げ場を無くして、最近よくある安い少女漫画のような光景だけど、そんな安さで片付けられては困る。
「水嶋、先生…?」
怖がらせてる。そんなの解ってる。
「郁、でしょ?」
震える唇に噛みついた。
揺れる紫に僕だけを写しているのかと思うとたまらなく愛しくなった。
琥雪は酸素が欲しいのか、止めて欲しいのか、僕の胸を叩いて抵抗した。
今まで僕はわりと器用だと思っていたのに、琥雪を前にすると不器用なる。伝えたい言葉はたくさんあるのに、そのどれもが薄っぺらく感じる。
「琥雪、」
好き。
たったそれだけだけど、なかなか声帯が震えない。それほど琥雪が特別なんだ。
「…僕、は、…琥雪のことが好きだ、…愛してる。」
琥雪を抱きよせて、やっと出せた声はみっともないくらい、震えていた。
とん と琥雪が僕にもたれ掛かったかと思うと、皺ができるくらいYシャツを握った。
「私だって、……好き、」
目線が交わる。
「…ずっと、ずっと前から、ワケわかんないくらい、郁が、好き、っん」
今度はやさしいキスをする。溢れた涙をキスで拭えば、琥雪は真っ赤になった。涙はしょっぱくて、でも、口付けと心は甘くて。
もう、言葉なんて要らない気がした。
恋たちは軈て、融けて、ひとつに
110520