憂いを喰むカメレオン
「お、星月じゃん。」
「…犬飼」
放課後の裏庭に木を見上げている星月がいた。
なぜか猫じゃらしを手に持って。
「何してんだ?」
「…猫が木に登ったのはいいけど降りれないみたい。」
確かに子猫が木の上で鳴いていた。
「エノコログサで誘ってみたんだけどダメ。」
そういいながら俺に向かって無表情で猫じゃらしを振る。不覚にもクるものがあった。
いや、俺に振られても。
「仕方ねぇな。」
俺はその木に登って、その猫を難なく救出し、猫を星月に手渡すと本人は面食らっていた。
「ほら。」
「…ありがとう、犬飼。」
猫に幸せそうに頬擦りしながら言うもんだから、今度は俺が面食らった。
「猫が好きなのか?」
「うん。犬か猫なら猫が好き。」
「俺は両方好きだな。」
あのまま、二人で猫を構っている。星月は相変わらず猫じゃらしを手にしたままだ。
「バカよね。」
「ん?」
「降りれないくせに、登るんだから。」
「まぁ、理性なんてものを引っ提げて生きているのは人間くらいなもんだからな。」
猫は気持ち良さそうに星月の膝の上にいる。
「そう言う私もバカなんだけどね。」
「いや、それはねぇよ。」
「伝えたいのに、伝わらない。言いたいのに、言えない。届けたいのに、届かない。…手を伸ばしても、掴むのは空虚。知っていて手を伸ばしているの。バカの一つ覚えみたいにね。」
瞳の憂いが色濃くなったのを見逃さなかった。
たぶん、俺みたいな人間はその隙間には入れやしないんだと感じた。星月が誰を想っているかなんて、俺は微塵も知らないけど、見守っていたいと俺は思う。
俺の淡すぎる恋心は鉛で固めて、忘却の海に沈めてしまおう。
「俺は、バカの一つ覚えでいいと思うぜ。」
「バカにそれを言われてもねぇ。」
「お前ぇ…」
「ばーか。」
そうすれば、俺は笑ってやれる。
110212