甘く上気した頬で、まちぶせ
夏。
じりじりと照り付ける太陽に、綿あめみたくふくれた入道雲、セミの声。夏休みにはまだ遠くて、日中は外に出るのを躊躇う。夏は苦手。
きちり と制服を着こなすのは私にとっては拷問だ。第2ボタンまであけたブラウスには指定のリボンが結ばれることなくダラリと垂れている。
「ダメだよ。琥雪ちゃん。」
それを注意するのは、兄さんと陽日先生と今、目の前にいる金久保先輩だ。
「また第2ボタンまであけて…」
「暑いのでこのほうが楽なんです。」
「ダメ。ただでさえ男だらけなんだから。」
金久保先輩は器用にボタンをとめてリボンを結んだ。きれいなちょうちょ結び。
「…」
「ほどいちゃダメだよ。」
にこにこ。人好きのいい微笑みをたたえているけど、その奥は黒い。
「返事は?」
「…わかりました。」
「うん、いいこ。」
そう言って私の頭を撫でる。この人の癖のようなもので、私はよく撫でられる。
「購買に行こっか。アイス食べよう。」
「いいですね。」
購買でぎゅぎゅっとを一本。金久保先輩がこれまた器用に半分に分けた。
「はい、はんぶんこ。」
「はんぶんこですね。」
近くの木陰で食べる。木陰はわりと涼しいから好き。夏に必須なのは下敷きと日陰にあるコンクリの壁だと思う。
「琥雪ちゃんは夏は好き?」
「苦手です。暑いし、汗かくし、私はすぐバテちゃうので余計。」
「そうなんだ。」
「先輩は?」
「うーん、そうだな…僕は夏が好きだよ。インターハイもあるしね。」
「…行けるといいですね。」
「うん。今年こそって、思ってる。」
弓を持てば、まだ感覚は残っているのかもしれない。私にはもうどうでもいい、消えてしまっても構わない感覚。記憶の海の底に沈めた過去。
「あ…ごめんね。こんな話。」
「いえ、応援しますね。」
「ありがとう。」
110209
同じ科なのに絡みが無いことに気がついた。