僕だけが知らないでいる
放課後の図書室で見たことのある姿があった。
「この間はありがとう。」
話しかけると彼女はキョトンとした顔で俺を見た。
「………ああ、あのときの。どういたしまして?」
彼女、星月琥雪の手元には六法全書。なぜ…。
「弁護士にでもなるの?」
「まさか。単なる知識欲を満たしているだけよ。」
そう言う彼女の回りにはさまざまなジャンルの本が積み上げられていた。ライトノベルやファンタジー、エッセイに古典、料理本、裁縫、歴史、今の六法全書も含めよう。
「そう言えば、私、貴方の名前知らないわ。」
「え、ああ、言ってなかったな。東月錫也です。よろしく。」
「星月琥雪。よろしく。」
「月子からよく話は聞いてるよ。」
星月さんは六法全書に飽きたのか、別の本を手にとった。『世界拷問集』…。
「そんなのあったんだ…。」
「私も今日初めて見つけたの。…グロいわ。」
ぱたん。
その本は閉じられて、ぱらり と別の本が開かれた。今度は鉱石図鑑。
彼女は恐らく博識なんだろうと思う。あのラムネも本から得た知識かもしれない。
相席してもいいと許可をとって、俺も読書をはじめた。
ぱたん!
鉱石図鑑が閉じられた。
「…帰る。」
星月さんは大量の本を抱えて席を立った。どうやら知識欲が満たされたらしい。
星月さんを追いかけて、本を取り上げる。
「手伝うよ。」
「…ありがとう。」
本のもとの場所を教えてもらいながら返していく。
「目についたものをとっていくから、いつもジャンルが固定されないの。」
「でも、それで博識になったんだろ?」
「所詮、付け焼き刃よ。あ、」
「ん?」
すべての本を棚に戻し終えると、ある本が彼女の目にとまったらしい。
「私は東月にこれをおすすめするよ。」
提示された本のタイトルは『科学で料理はおいしくできる!』。
「今日はありがとう。」
星月さんは俺に本を渡して帰ってしまって、 俺は呆然とその後ろ姿を見送っていた。
手元にある本は借りて帰ろうと思う。
110327