泡沫になった幻影





最近、貧血気味みたいだ。起き上がるときや、立ち上がるときに酷い目眩がする。

次は移動教室だから、早く行かないと。みんなは先に行ってしまった。あの先生はいろいろやっかいだから。

目眩も治まらないまま、教室を出て廊下を歩く、壁に手を添えてないと転けそうだ。目眩は治まるどころか悪化している気がする。やっぱり目眩が治まるのを待つべきだったのかもしれない。

階段に差し掛かったときに一際大きな目眩に襲われた。

まずい。

そう思ったときには既に視界は反転していた。


※※※


階段を上がっているとペンが落ちていた。誰かの落とし物だろうと気にせずに視線をあげると盛大にぶち撒かれたペンと教材。何事かと階段を駆け上がって、息をのんだ。


生気無く横たわる躯。


「琥雪!?大丈夫!?琥雪!!」

脈は?呼吸は?
確認するもそれらはひどく弱々しく感じられた。
早く保健室に、そう思い抱き上げると軽い。ちゃんと触れているのに、少しの衝撃で消えそうな儚さを感じた。いつもなら走らない廊下を走りながら、もっと早く走れと言い聞かせながら、どうか、消えないで、僕の前から居なくならないで。と。




保健室に着いてからは琥太にぃが血相を変えながらも冷静に対処して、琥雪は総合病院に。琥太にぃはその付き添いで不在。
僕は琥太にぃからの連絡を携帯を握りしめて待っていた。

握りしめていた携帯が震える。

「琥太にぃ、琥雪ちゃんは」
[落ち着け、郁。琥雪は無事だ。]

無事。
その言葉だけで安心した。

[目立った怪我は特にない。足の捻挫くらいだな。頭を打った可能性もあるから1週間の検査入院だそうだ。]
「そう……」
[ああ。郁、これは琥雪の家族として言わせてくれ、ありがとう。]

この時、琥太にぃの声が少しだけ震えていたのに、僕は気づかないフリをした。僕の声の方がよっぽど震えていたから。



失うことの悲しさと寂しさを僕らは知っているから。










110206


  
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