白い残像に溶けていく君


眠い。凄く眠い。いつも眠いけど、今日は一段と眠い。今日が金曜でよかった。
ご飯はいいや。課題も特にない。帰ったらシャワーを浴びて寝よう。

この時、まさかあんな深い眠りにつくとは微塵も思っていなかった。






目を開けると広大な平原にいた。
ああ、夢だ。とわかったけれど、そのまま平原に立ち尽くした。天を仰ぎ見ると手が届きそうなほどの星空があった。

「また…」

星が今にも墜ちそうで星雲も銀河も見える。
全宇宙を凝縮したらこんな感じなのかもしれない。うるさいほどの瞬きとひしめきあう極彩色の雲。
目を閉じ、耳を塞ぐ。
この夢は初めてじゃない。見始めたのは、彼女が白い煙となって空に消えてしまってからだ。
ここは、彼女と私が語り合った夢物語の世界と酷似している。
私と彼女が創った唯ひとつの世界だ。

「有李…。」

有李。私は彼女を探す。居るか居ないかと訊かれれば、後者の方の確率が高い。けれど、私は平原を歩き続ける。居てほしい、居ないでほしい、ぐるぐると相対する想いが巡る。その中に確立しているのは、探すという言葉。

「有李、有李、有李…」

この世界で一度も彼女を見たことがない。私の夢なのに、彼女は居ない。

「有李、兄さんがよく笑うようになったの…。」

居なくてもいい。聞いていて。

「きっと、彼女のおかげ。けど、兄さんね、凄く臆病になったみたい。」

有李。それでも兄さんは人を好きになろうとしている。

「見守ってあげて。私は兄さんには何もしてあげられないから…」


有李。郁にぃもちょっと変わってきたよ。これも、彼女のおかげなの。

ねぇ、有李。
私、いま人生で、一番役立たずなんだよ。
きっとね。





「…、…っ、琥雪っ!」


三度、目を開けると、兄さんのドアップ。同じような顔をドアップでみるのは何とも言いようがない。

「きょ、…なんようび?」

喉がひきつってうまく言葉を発せない。寝すぎたらしい。

「ほら、水。月曜の午後だ。いったい、何時から寝たんだ。夜久たちが心配してたぞ。勿論、俺もな。」
「確か、金曜の夕方。」

水を飲んでいくらか喋りやすくなった。今日が月曜なら大方3日ほど眠り続けたらしい。

「久しぶりだな。2日以上眠り続けるのは。」
「うん。1年に1回あるかないかだから。でも、ちいさいときよりは少し違うんだけどね。」
「違う?」
「夢を見るの。」
「…そうか」

兄さんはそれ以上特に何も言わなかった。
兄さんは薄々、私の夢に気がついてるのかもしれない。
今も、昔も、変なところだけこの人は聡いのだから。




睡眠中ラビット



110119


  
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