宇宙を頂戴






幼い頃。悲しくてどうしようもなくなったときに外に出て上を見ると当たり前のように蒼い空が在った。太陽が夜をつれてくるのだと思うと堪らなくそれが愛しく思えたのを今でも憶えている。

「おにーちゃん。」
「ん?ああ、わかったわかった。」

両親が共働きのせいか私は兄さんにべったりで、太陽が夜をつれてくると毎日のように兄さんに望遠鏡を出してもらっていた。

「ほら。」
「ありがと!」

環境が環境だったのか星の知識は自然と身に付いた。

「何が見える?」
「えと、アンドロメダぎんが!」

たくさんの星の名前とその星たちの噺は兄さんが教えてくれた。

「ふしぎだね。当たり前に空があって宇宙があるのに、宇宙の先にあるものをだれも知らないなんて。」
「本当だな。」
「知りたいなぁ…ねぇ、おにーちゃん」

***

「宇宙を頂戴、か…」
「随分懐かしい台詞だな。」
「うん。なんとなく、思い出してみた。」

あの後、兄さんに『宇宙をちょうだい』と言って困らせた。あのときの兄さんの顔は傑作だった。

「珍しいお前のワガママだったなぁ。お前は昔から我が儘を言わないやつだったからな。」
「ほしいとか言う前に既に家にあったりしたからね。」
「そう言えば、お前は昔は郁たちを嫌っていたな。」
「やめて、恥ずかしい…」
「何の話?」
「はぁ…」
「ちょっと、溜め息は酷いんじゃないの?」

兄さん、郁にぃ、陽日先生。この3人+私で星見会をしているけど、陽日先生は泥酔して寝てしまったので放置。

「琥雪の昔話。」
「兄さん…」
「ああ、泣き虫だったころの。僕嫌われてたよねぇ。」
「ちょっと、」
「郁たちに俺をとられると思ったんだろ?」
「……………」
「あ、拗ねた。」

二人の言っていることは事実だから否定できないけど、掘り返されるのはかなり恥ずかしい。

「ま、俺たちにとっちゃ、いい思い出だ。」
「そうだね。」


頭を撫でる兄さんの掌が泣きたくなるくらい優しくて、手を握る郁にぃの大きな掌が切なさを孕んでいて、私は声を押し殺して泣いた。

ここにいない彼女の存在が未だに私たちを締め付けていた。







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