■追記



「この扉は開けてはダメよ」

北の魔女はそう言った。
温かそうな兎の毛皮の襟巻きをしたきれな魔女だ。

「どうしてですか?」
「魔女の秘密よ。」
「あなたの秘密?」
「ええ。」

決して開けてはダメよ。
そう念を押した。

魔女は優しかった。
暖炉は暖かくて、ご飯はおいしかった。
魔女は僕の名前を呼ぶと、ただ僕の頭を撫でた。
膝に座らせて本を読んでくれた。絵本では無かったけれど魔女の心地いい声が聞けるならどんな本でも素敵に感じた。

「琥雪さん」

初めてこの家に来てからふた月たった。雪が溶け始めている。

「琥雪さん」

名前を呼ぶけれど返事がない。僕は家中の扉を開けて名前を呼んだ。最後に残ったのは開けてはいけない扉だった。

『開けてはダメよ。』
『魔女の秘密よ。』
『だから、決して開けてはダメよ。』

頭に響く声とは裏腹に僕の手は金のドアノブに伸びて、そして、

「ダメよ。」

ひゅっ、と情けない音が鳴った。

「帰れなくなるわ。それは、嫌でしょう。」
「別に、かまいません。」
「え?」
「あんな、場所に帰るくらないなら、あなたの側にいたい。ずっと、ずっと。だから」

ドアノブは簡単に回った、魔女の制止も無視してドアを引いた。













何年経っただろう。また冬になった。
あの時何が起きたか分からないままだ。気が付くと魔女が泣きそうな顔で僕をひしと抱き締めていた。僕の手の甲には不思議な紋様が刻まれていて、不安に思うよりも、これで一緒に居られるという安心感が大きかった。

魔女は変わらず美しいままだ。

「琥雪さん、」
「ん?」
「今年は来るでしょうか?僕のように迷い込む子供が。」
「どうかしらね。」

あの扉は魔法で隠されてしまいもう何処にも見当たらない。



北の森の魔女
はじめから隠しておけばよかったのに、どうしてそうしなかったのかは、きいても無意味なのでしょうね。



***わけわからん
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