裏路地をシンタローの手を引きながらアルフレッドは走る。 掲示板への書き込みが終わりそれをポケットにしまいながら後ろをチラリと振り返る。 アーサーが付いてきていることを確認して、シンタローへと視線を移す。
「ごめんね、俺達の厄介事に巻き込んじゃって…」
「い、いえ…」
息を乱しながら必死に走るが、やはり引きこもりだった自分には体力がない為に足がガクガクしてきた。 こういう時に自分の体力の無さを自覚するなんて皮肉なものだ。
「アル後方約5メートルのところに敵5人。」
「了解、どうする後ろの。」
「俺と菊が片付けるからお前はシンタローを守ってろ。」
そう言ってアーサーは、張り切った様子で宣言する。 何か策でもあるのだろうか。
「分かった君に任せるよ、だけどくれぐれも気をつけてくれよ? 殺さないであげてね? いくらなんでもこれだけで殺されるのはかわいそうだぞ。」
「え?」
シンタローは耳を疑うことしか出来ない、普通そこ怪我しないでねとか言う場面ではないのか?
「おいおい、シンタローが引いてるだろ…」
「あ、ごめん…俺達結構修羅場潜り抜けてるからさ…だから、その…えぇと、なんて言えばいいんだろう…ねぇ、アーサー…」
困った様子でアーサーに助けを求めると諦めたようにアーサーはため息をつく。
「頭のいいシンタローのことだから多分薄々感づいているんじゃないかと想うんだが、俺達は人間じゃない。」
「アーサーさん、アルフレッドさん、貴方達は一体…。」
薄々感じていた違和感、それはこの人達が途方もない時間を生きてきたのではないかとそんな常識を超えた考えだった。
「俺達の本当の名前はね、シンタロー。 アメリカ合衆国と、イギリス…まぁ、イギリスは日本で勝手に呼ばれている名前だけど正式名称呼ぶと長いから察してくれよ?」
「…え、じゃあ貴方達はまさか国人と呼ばれる存在…なんですか?」
聴いたことは在った、それはテレビニュースや解説番組とかでチラリと出てくるだけの存在。 誰もその存在のことを知らない、けれど知っているそんな人間たちの間では曖昧な夢物語みたいなもの。 まさか本当に居たなんて。
「そう。 まぁ、その名称も人間が勝手に呼んでいるだけだけどね。 俺達みたいに特殊だと、結構厄介な奴らに狙われたりするんだよ。」
「まぁ人間がやることなんてたかが知れてるし、大体の場合俺達を人間じゃないって知らずに狙うんだ。 面白いぞ? 心臓撃ちぬいたのに数分で立ち上がる俺達の顔を見た時の犯人たちのあのビックリしたような顔…」
「君ねぇ…」
「え? …じゃあ貴方達は心臓を打ち抜かれてもその…死なない…んですか?」
「まぁね。 俺達が死ぬのはそれは国が消えるときさ。 まぁ、気持ち悪いだろうけど今は我慢してくれよ。」
「き、気持ち悪くなんか無い…です!」
そんなことで気持ち悪がる奴なんかがいたら、それは心の狭い人間だ。 俺を昔いじめていたような人間たちだったら気持ち悪がっただろう。 頭がいいからなんて馬鹿げた理由で俺をいじめた心の狭い奴らと俺は違う。 それにこの人達は俺を助けてくれたし今だって俺を護ってくれているじゃないか。 この状況で彼らを気持ち悪がるなんて出来るわけがない。
「ありがとう…っと、来たみたいだね。 俺の後ろに隠れていてくれそうしたら君は安全だから。」
「は、はいって…あれ?そう言えばアーサーさんは…?」
そういえば先程からアーサーの姿が見えなかった。 俺のそんな問にアルフレッドさんはにっこり笑って答えるのみだ。 ポカーンとその場に立っていれば、黒ずくめのいかにも悪い事していますっていう人たちが黒光りするものを片手に追いついてきた。 シンタローの後ろには壁だ、逃げるところもない。 この状況からアルフレッドさんとアーサーさんはどうするつもりなんだろう。
「もう逃げ場はねぇぞ!」
犯人って本当にこういう事言うんだ、と我ながら冷静に頭のなかで突っ込みをしているとアルフレッドさんは不敵に笑う。
「君たちさあ…勝ち誇っているように言ってるけど、そんな余裕敵の前で見せるもんじゃないよ? だから…」
「こんな簡単に」
「後ろを取られてしまうんですよ?」
アルフレッドの言葉に続けたのはアーサーさんと綺麗な低音の声、そう本田菊さんだ。 気づけばリーダーと思わしき人物以外はみんな地面に倒れていた。 菊さんをよく見ればその手にはあまりお目にかかることのない日本刀が握られており、リーダと思わしき人物の首筋にくっつけられている。 アーサーさんはまた何処から持ってきたのか小さいナイフをリーダと思わしき男の首筋に当てている。 日本刀とナイフに首を狙われちゃあさすがに抵抗できないだろう。
「うわ…すげぇかっこいい…」
思わず口に出して言えば、アルフレッドさんとアーサーさん、そして菊さんがぷっと吹き出し笑顔でありがとうとお礼を言い、その後、あっけなく倒された犯人グループは菊さん、アルフレッドさん、アーサーさんの手によって警察に引き渡されていった。
そこへやってきたのはメカクシ団のみんなだ。 エネが知らせてくれたのかもしれない。
「シンタロー大丈夫か!?」
「お兄ちゃん!平気!?」
見事にハモったキドとモモの声を耳にいれながら、俺は菊さん達にメンバーの紹介をした。 アーサーさんは何故かメカクシ団のメンツを微妙な表情で見ていたけど一体何なんだろう。
「…アーサー?」
それに気付いたのかアルフレッドはアーサーの顔を心配して覗きこんだ。
「……へぇ、メデューサの子孫に不思議な目の能力がある子達か。 珍しいものが見れたもんだ。」
そのアーサーさんの言葉にキドたちは固まってしまう。
「なんで、俺達のこと…」
キドがやっとの想いでそれを口に出せば、アーサーさんは優しく笑い何故か菊の方を向く。
「菊、場所を変えたいんだがいいか?」
「そうですね、こんなところで話をしてても仕方ありませんし私の家にでもいかがですか?」
「で、でも…」
「まぁまぁ、そんな警戒しないでくださいな。 私たちは怪しいものではありませんよ? ねぇ、シンタローくん。」
そう言って菊さんは俺の瞳をまっすぐに見て微笑んだ。 俺が慌てて頷けば、菊さんは満足したかのようにまた微笑む。 その光景にキドたちは首をひねるばかりだ。 しかし、この人達の正体を知ってしまったからこの反応は仕方ないと想う。 だって祖国様が目の前に居るのだから。
菊さんが回してくれた車に乗りやってきたのは、そう遠くないところだ。 そこには立派な日本家屋が建っておりその余りにも壮大過ぎる立ち姿に俺達は目を奪われていれば、菊さんが玄関を開けてどうぞと笑顔で家にいれてくれた。
「あ、あのアーサーさん聞いてもいいですか?」
ドキドキバクバクしながらシンタローはアーサーに話しかける。
「なんだ?」
「黒い人達が来た時、アーサーさんはどうやってあの人達の後ろに?」
「ああ、それはな…」
聞けばアーサーさんは、俺達が話している最中ずっと後ろを警戒していたらしく敵が近づいてきたのと行き止まりが近づいてきたのを確認したらすぐに壁を使って上に飛び上がって犯人グループたちに気づかれないように後ろにそっと着地してナイフを突きつけたのだそう。 ちなみにそのナイフは護身用に仕込んであるのだとか。
「す、すご…」
「あはは、アーサーの本気はまだまだこんなものじゃないんだぞ? スーパーの立て篭もり事件に出くわした時に犯人がアーサーの地雷踏みつけてガチギレした時の彼の怖さに比べればこのくらいまだまださ。」
彼ったら10人近く居た銀行強盗を一人でケチらせちゃったんだぞ、と信じられなさそうな事を笑顔で言ってのける彼はすごい。 それをやったアーサーさんはもっとすごいけど。 っていうかスーパーの立て篭もり事件って何だかデジャヴ感じるんだけど。
「立て篭もり事件…」
「そういうアルだってこの間うっかり出くわしたテロ犯の一人の腰を足蹴り一つで粉砕してたじゃねぇか。 アイツもう一生立てねぇらしいぞカワイソーに。」
「え?」
メカクシ団のみんなが二人の会話をポカーンとしながら聞いていれば、お茶を入れ終わった菊さんがため息を付いて補足をしてくれた。
「ちなみに補足しておくとですね、私達を狙えばその犯人さんはどういう事情があったとしても、私達の正体を知らなかったとしても、そんなの関係なしに一生牢屋に打ち込まれますよ。 海外では、国家反逆罪が適用されるようなところもあるんだそうです。」
あまり知りたくなかった情報を笑顔で行ってくれた菊さんにポカーンとしていた。
「私たちは国そのものですから、時間の流れとともに私達に危害を加える者へ対する罰も重くなっていったんですよ。 内心複雑なんてすけどね、仕方ないんです。 …あっと、そろそろネットの皆さんに報告をしなければいけませんね、心配をかけてしまいます。」
そう言って、菊さんは自室へ向かいいつも使っているノートパソコンを持ってまた戻ってきた。 それをたちあげてなれた様子でシンタローが立てたスレを開く。
「さて、経緯の説明はどうします? シンタローくんがします?」
「俺が立てたスレなんで、俺が。」
「そうですか、分かりました。 じゃあ私は貴方が書き込み終わるまで黙っていることにしますね。」
そうして俺はポケットにしまったままのスマートフォンを取り出す。 すると、エネの顔がドアップで表示されて思わずびっくりしてしまう。
「え、エネか…ビックリしただろ…」
「もう! ご主人私を忘れていましたね!?」
「悪かったって… ほら、経緯説明するからスレひらけよ。」
ご立腹しているエネを何とかなだめてスレを開き、何から説明しようか脳内でまとめていた所ふとアーサーさんの視線が気になった。 こちらを見ているというわけではなく、彼はなにもないところを微妙な顔で見つめているのだ。 どうしたんだろう。
「ご主人?」
「あ、いや、なんでもねぇよ。」
気にならないわけではないが、今は経緯の説明をするべきだろう。 シンタローはスマートフォンへと再び視線を落とした。
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