薄暗い廃墟の中、カノは前方に居るセトとシンタローもどきの何かを警戒しながら歩く。 その様子をキドが不思議そうに見る中、カノはふとあることを思い出す。 確かセトは肘に怪我があったはずだ、と。
今のセトは廃墟の中が暑いのか、普段よりも袖をめくっていて両方の肘を見ることはたやすい。 気配を消しつつ、違和感のないように確かめてみれば、左右どちらの肘にも怪我などはなかった。 だからといって、あのスレの53番に書き込んだセトが嘘を言っているなんてことは絶対に無い。 あれは、あのスレの53番と44番そして、36番に書き込んだのはセトで間違いはないのだ。
だとしたら今この場にいるセトは「ニセモノ」である、というのが結論である。
「……ちょっと待って。」
薄暗い廊下で、カノははっきりとそう呟いた。 その声に怪訝そうにセトもどきの誰かは振り向いて、セトと同じような笑みを浮かべた。
「どうしたの?」
ほら、この口調。 絶対にこいつはセトじゃない。 隣にいるシンタロー君だってこんな状況でそんな無表情など出来るわけ無いじゃないか。 此処は、彼が苦手な幽霊がわんさかいる場所で、薄暗い不気味な場所だ。 入った時は僅かな物音にさえビビっていた彼がこんなに早くにこの場になれるはずはない。
「……さっきから君達さ、セトとシンタロー君の姿を使って色々やってるみたいだけど欺ききれてないよ?」
カノのその言葉に、セトもどきの誰かとシンタロー君もどきの誰かは振り返って態とらしく疑問を口にした。
「カノ?」
「どうしたんだよ。」
でも、いまさらどんなこと言われたって無駄だ。
「――アンタ等、一体誰だって言ってんだよ。 この偽物野郎。」
「か、カノさん!?」
「カノ!? お前一体何を!」
ぽかんと物事を見ていた桃とキドが慌てて声を上げるが、カノは止まらない。
「何をって、もしかしてキドもキサラギちゃんも目の前にいる二人がホンモノだって思ってたの?」
ちょっと怒りを宿した声でカノは呟いた。
「……え? どういう、ことですか?」
「カノ……?」
この答えだと二人は今の今までホンモノだと疑わなかったのだろう。 まあ、仕方ないとはいえ少し残念だ。
「ホンモノのセトなら僕らに合流して一番最初にマリーのところへ駆け寄るし、ホンモノシンタロー君ならこんな不気味な場所でそんな無表情できるはずがない。 ――なにより、セトもどきの誰かにはホンモノと決定的な違いがあるよ。 セトはさっきの天井崩落で肘に怪我を負っていたんだ。 シンタローくんにも怪我がある。 なのに、目の前のアンタには左右どちらの肘にも怪我なんて無いよね。 確認したからとぼけても無駄だよ。」
二人を睨みつけながらカノは言い放った。 当の二人といえば、無表情を決め込んでいて何を考えているのか理解することが出来ない。
その状態で何分か経過した頃、セトもどきの誰かが口を開いた。
「あーあ、せっかくうまく化けれたと思ったのになぁ。」
残念そうな演技をしながら目の前のセトもどきの誰かは言ってみせ、ニヤリと笑う。
「つまんないなぁ。こんなに早くバレるなんてさー。」
目の前のシンタロー君もどきの誰かはセトもどきの誰か同様わざとらしい演技をしながら笑い、次の瞬間無表情に戻って口を再び開いた。
「アタリだよ。 さっすがだね! ――まあ、想定の範囲内だし別にいっか。 ね?」
「そうだね。」
セトもどきの誰かと、シンタロー君もどきの誰かは、ニヤリと笑って姿を変えた――否、これがきっと本来の彼らの姿なのだろう。
「……ホンモノの二人はどうしたの?」
「そんなことよりさー、ゲームしようよ。 日付が変わるまでにこの家のどこかに閉じ込めているホンモノの二人を見つけ出すことができれば君たちの勝ち。 僕らは潔く成仏して君たちをこの家から返してあげる。 ――でも、もしも日付が変わるまでに二人を見つけられなかったら、ホンモノの二人は死ぬ。 そして、僕らが彼らのかわりに人間になるんだ〜 拒否権はないよ? どうせ君たちはこの場所から出ることなんて出来ないんだからさ。」
カノの質問に答えずに一方的に話しだしたのはシンタロー君に化けていた方だった。 そして、カノは彼が言った言葉のとある部分を復唱している。
「……死ぬ?」
「まぁ、せいぜいがんばってね!」
それだけを言い残し、その二人はぱっと消える。 カラン、とセトの携帯が地面に落ちて周りは静寂に包まれた。
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