如月伸太郎が鹿野修哉に対し無関心へと至る流れ
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 鹿野修哉、そいつの存在を知ったのはデパートで起きたテロに巻き込まれた時だった。 妙に馴れ馴れしく、妙にいけ好かないそいつは不思議な力を使いこなし、仲間たちと協力をしてテロを解決へと導いたのだ。 その際巻き込まれた俺は気を失い、目が覚めたらアジトと呼ばれている場所へと連れてこられてきていた。
 なんだここ、なんて呟いて部屋の内部を見回す。 すると現れたのは見知らぬ奴と、凄く見知ったやつだった。
「……なんで、モモが居るんだ?」
「私ねメカクシ団に入ったんだ!」
 俺の問には答えずに意気揚々と口にしたとても怪しげなその団体の中に、先ほどのアイツも居た。 表面上はニコニコと笑いかけてくるそいつをは軽く自己紹介をしてくれたが、俺はひと目で感じた。
 こいつが嫌いだ、と。
 理由はわからなくて、ただあの態度とかが俺は無理なのかもしれない。
 それから何気なくメカクシ団とかいう奴等との日々が始まってしばらくして、俺は知る。
 あの時のあの不思議な能力についてのことを。 あの鹿野修哉とかいう奴の能力の詳細も、知ってしまったのだ。 その瞬間俺は昔から溜め込んでいた疑問を思い出してしまった。
「……まさかな。」
 その時は鹿野修哉とアヤノの関係も全く分からなくて、俺の思い過ごしだなんて無理やり納得した。
 でも、そんな納得でさえも覆すような出来事が起きたのだ。

 ――アジトで、アヤノとその両親と一緒に映る鹿野修哉の写真を見つけてしまったから。
「義理の、姉弟だと……?」
 そう、鹿野修哉はアヤノが度々口にしていた姉弟だったのだ。
「……そうか、そうだったんだ。」
 ニヤリと笑って、崩れ落ちた。 その瞬間、とてつもない量の記憶が流れてくるのを感じ、吐き気に口元を抑える。 なんだ、何が起こったんだなんて考える暇も無く、側にあった鏡を覗いてみれば俺の瞳はアヤノのマフラーのように赤く染まっている。
「目に焼き付ける、か。 そうか、俺は。」
 そう、俺は誓いをたてたのだ。 あの日、マリーと。
「……なんで、忘れてたんだこんな大切なこと。」
 この世界がループしているということ、そして、何よりも。
 俺が苦しんで、悩んで、痛みに耐えぬいた日々を踏みにじった鹿野修哉の所業の数々を。
「――あ、はは。 ははは。」
 なんだ、俺なんであんなバレバレな演技に気が付かなかったんだ。 アヤノはあんな表情をしない。 アヤノはあんなこと俺に言わない。 そうだ、アレはアヤノじゃない、鹿野修哉が能力を使って化けた姿なんだ。
「なんだ、俺、アイツに嫌われてなんかなかったんだ……」
 そう安心すると共に、俺の鹿野修哉に対する嫌悪感は完全なる無関心へと変化を遂げた。
 カノに対し何も思えなくなった。
 アイツがヘラヘラして俺の事を馬鹿にしたとしても俺はふーんとしか思えない。 そんな態度の俺にアイツは日々追い詰められているようだ。 チラチラと俺の方を見て様子を伺っているのに俺が気が付かないわけ無いだろ?な?
「ね、ねぇシンタロー君。」
「……。」
「聴いてる?」
「……。」
「ねぇってば。」
「うるせぇよ。」
 凄く面倒臭そうに対応する俺に鹿野修哉はイライラをつのらせているようだ。
「あのさぁ、何で君僕に対してそんな辛辣なの? 僕のこと嫌いなの?」
「……。」
「ねぇってば。」
「あのさぁ、お前はゲームする時回りにいる一般人に対して何か感情を持つのか?」
 溜息を吐きながら言う俺にまたも鹿野修哉のイライラは増していく。
「はっ、はぁ? なんでゲームの話になるのさ!僕はまじめに――」
「質問に対して丁寧に答えてやったんだろ?」
「……へ、へぇ。 そう言うこと。 君は僕のこと嫌いなんだ?」
「嫌い? 何で俺がお前に対してそんな疲れる感情もたなきゃいけねぇんだ。」
「……え?」
「お前さぁ、好きの反対が嫌いなんて想ってるクチだろ? ちげぇよ、好きの反対はな、”無関心”なんだぜ?」
 そう言ってのける俺に、鹿野修哉は目を見開く。
「……つまり、君は僕に対して好きでも嫌いでもなくて、」
「お前に対して持つ感情なんてねぇな。 どうでもいいわ。」
 無表情でそういう俺に鹿野修哉は拳を握ると、無言で走り去っていく。
 俺はそれを目で追うこともなく、スマートフォンに目を向けた。 それからしばらくし、再び鹿野修哉は俺の前に姿を見せる。
「ねぇ、シンタロー君。 僕、君に何かしたの?」
「それをてめぇが聞くのか。」
「言ってくれなきゃわからないよ!」
「言って良いのか? キドも、セトも、マリーも、皆が居るこの空間で俺に対しお前が行った全てを?」
 鹿野修哉の荒げた声に何事かと集まってきた皆にはっとして目を向けるカノはめげずに口を開く。
「い、いいよ?」
「――お前がアヤノになりすまして学校に来て、俺にアヤノの姿でボロクソ言ったり、俺が学校を休んだ日に俺になりすまして周りに嫌われようとアヤノと先輩たちに対して色々酷いことを言ったり、他にもあるぞ?」
「なっ、なんで、君―」
「お前は知らないだろ。 お前のせいで俺が何を無くした、なんて。 考えたこともないんだろ? そうだよなぁ。 お前は俺が大嫌いなんだもんな。」
 はっとして鹿野修哉は崩れ落ちた。
「なんでお前が傷ついた顔をするんだ? おかしいだろ? だって、散々人の心を弄んで、他人の傷口を抉って来たんだろ? なのにそれを自分がやられたらいっちょ前に被害者面か。 いい身分だな?」
「ち、違う、僕は――」
「お前の事情なんて知らねぇよ。 俺はどうでもいいやつの事情を考慮してやるほどの懐の広さなんざ持ち合わせていねぇからな。 謝る必要はないぞ? 謝られた所で、俺はお前を許さない。」
 そう言い放つ俺に崩れ落ちた鹿野修哉は涙を流す。
「いいよな、そうやって泣けば姉弟が助けてくれたもんな。 励まして、一緒にいてくれる奴がお前には居たんだもんな。 泣けるのって幸せだよな。 羨ましいよ、鹿野修哉君。」

 そう言い放った俺はスマートフォンをポケットに突っ込んで無言でアジトを出て行った。
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