03
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 とある建物の前、メカクシ団メンバーは物陰から息を潜めて見上げていた。 その建物は届いた招待状の中に同封されていた地図に示されていた場所。
「ここ、か。」
 そうキドが手に持つ鉄の棒をぎゅっと握りしめて建物を睨みつけた。
「どうやって中に入ろうか。」
 カノが目をやる先に見えるのは正面入口。 しかし、そこから入るわけにも行かずにキョロキョロと当たりを見回した。
 コソコソとするメカクシ団を尻目に、大きなため息を吐いた貴音は立ち上がって言う。
「招待状あるんだから正面から入りゃいいのよ。」
「ちょ、ちょっと貴音!」
「ほら、早く行くわよ。 こんな所で時間食ってる場合じゃないでしょう。」
 そう言って、黒く光る銃を片手に目の据わった状態の貴音が歩き出した。 遥が其れに続いて、残りのメンバーも慌てて追いかける。
「なんだ、扉開いてるじゃない。」
 無造作に手をかけた扉のドアノブに手をかけて開ければすんなりと開いた。
「貴音……」
 遥は貴音の名前を呟く。 彼女の震える手をみて、抱いている怒りの大きさを悟る。 大切な仲間をこんな目に合わされたのだから怒りを覚えるのは当然だし、僕だって怒っているけど、其の中でも彼女の怒りが一番大きいと思える。
「行こう。」
 皆にそう言い、遥は貴音の跡を追いかける。 中に入ってまず気になったのは、異様に静かなこの建物だ。 人の気配なんてまるでない、電気がついているだけのただの空き家のような雰囲気。
「……こっち。」
 貴音はそんな建物の中でも迷わずに進んでいく。 何を頼りに進んでいるのかは分からないが、手に持っているスマフォから察するに事前に色々と調べてきたのだろう。
 ふと、貴音は立ち止まって後に続く皆を見ていく。 ナイフ、鉄パイプ、自衛のために持ってきた色々な武器が見えた。
「その武器、あくまでも自衛のために使いなさいよ。」
「なんで?」
「私達はあくまでもシンタローとセトを助けるためにきたの。 この組織を壊滅させに来たわけじゃないわ。」
「……そうだね、わかった。」
 カノがそう言って頷くと、手に持っているナイフをしまう。
「多分、だけど……あの扉の先に、何かしらあるとおもう。」
 あの先にある部屋は、この組織のメインとなる研究室。 あの先に、恐らく待ち受けているのだろう人物を思い、武器を握るがはっとしてその手を離す。
「行くわよ。」
 そういって貴音と遥が大きな扉を開ける。 その先に待ち受けるように立っていたのは白衣をきた一人の男。 背後は大きな布で仕切られていた。
 仕切られて居る布の前に立つ白衣を着た男は、私達を見るなりニヤリとわらった。 そんな態度の相手にむっとした貴音は言葉を投げる。
「何笑ってんのよ。」
「開幕一言がそれとは、恐れ入る。」
「なに、丁寧な言葉が欲しいわけ? 招待していただきありがとうございますって言えば満足すんの?」
「怒らないで欲しいなぁ。」
「怒らない要素なんてどこにあんのよ。」
 貴音と男の言い合いのような雰囲気になってきた頃、カタンと小さな物音が響く。 白衣を着た男はその物音が響いてきた方へと目を向けてニヤリと笑った。
「……シンタローと幸助はどこですか?」
 少しトーン低めのアヤノの声が静かな室内に響いて、白衣を着た男はふっと笑って先ほど音が聞こえてきた方角へなにやら合図を送った。
 白衣を着た男の背後の不自然に仕切られていたその布が、ばっと落ちて。
「――っ!」
 その先に見えたのは、一人の男とその側に崩れ落ちるようにして座っているセトの姿。
 手には鈍色の手枷のようなものも見える。
「セト!」
 カノがそう言って名前を呼ぶけれど彼は反応しない。
 貴音はセトのことをじっと見て、何かに気がつく。 セトは、震えていたのだ。
 うつむく彼の表情は前髪で隠され見えず、カノの呼び声にも反応しないそんな状態のセトに貴音は嫌な予感が的中してしまったと拳を握る。
「セトに何をしたの。」
 マリーが白衣を着た男を睨んで問い詰めるが、ニヤリと笑うだけで何も答えない。 気になったのはセトの傍らに寄り添っている男だ。
 見る限りだとセトの耳元で何かをささやいて居るようだが、何を言っているのかは分からなかった。
 ふと、セトに寄り添う男が何かを渡す。
「……なに、を、」
 カノの動揺した声が響いた。 当然だ。 セトに渡されたのは大ぶりのサバイバルナイフだったのだから。
 そのナイフをセトは確かに握って、ふらりと立ち上がって震える手でそのナイフの切っ先をカノに向ける。
 荒い息と、震える手、彼が何かに怯えているのは明白だ。 でも、状況がよく理解できない。
 呆然と立ちすくむ私たちに、白衣を着た男は言う。
「君たちには分からないだろうね。 彼が何に怯えているのか。」
 あざ笑うかのような表情にカノは思わずナイフをとってしまった。 そんなカノの様子にセトの肩はびくっと揺れる。
 そんな様子を見て、貴音は目を見開いた。

「まさか、そんな……」

 セトが怯えているのは、白衣を着た男でも彼に寄り添う男でもない。 彼が怯えているのは紛れも無い私達だ。 切っ先を向けているのも、私達。
 つまり、セトが今殺意を向けているのは。
 セトの顔が上がる。 前髪の下に見える彼の確かな殺意のこもったその瞳はいつものような輝きはなく、どこまでも暗い絶望を灯す。
「ころ、さなきゃ……」
 そう自分に言い聞かせるように呟いたセトは、ナイフを握って走りだした。
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