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 次の日俺はアジトを包み込む妙な雰囲気と物音に目が覚めた。 どうやら昨日の連中がこのアジトへと侵入しようと扉をこじ開けようとしているらしい。 昨日の今日でとは思ったが、相手が相手なだけにシンタローは一瞬身構えながら決意したような顔で部屋を後にした。
「セトッダメだよこの程度じゃすぐに蹴り破られちゃう!」
 カノとセトとコノハが必死に扉を抑えていた。 半ばコノハの力で破られていない扉を不安そうに女子たちが見つめている。
 俺のせいで皆が危ない目にあっているのがたえられなくて人知れずに拳を握った。
「……。」
 考えろ、考えるんだ。 この無駄に良い頭はこういう時のためにあるんじゃないのかよ。
「お兄ちゃん……」
「大丈夫だ、お前らに危害なんて加えさせねぇ。」
 そうだ、相手の狙いは恐らく俺一人。 だったら、答えは一つじゃないか。
「キドっ皆を連れて奥の部屋にっ、もう限界だよ!」
「わ、分かった!」
 カノの言葉を受け、キドはマリーやモモ、ヒビヤを連れて奥の部屋へと走って行く。
「シンタロー君も早く!」
 最後までコノハは扉を抑え続ける係を自らかって出たらしい。 カノとセトは立ちすくんでいるシンタローの手を掴みキドたちの後を追いかける。 なんとしてもシンタローを護らなければ。 あんな危ない任務に一人で挑んでくれたシンタローのためにも。
 奥の部屋、女の子達とシンタローを守るようにセトとカノは立つ。 そして玄関の方からコノハの声が響いた。
「皆っ扉、開くよ!」
 コノハがすごいスピードで玄関からかけてきた数秒後、扉が大きな音を立てて開かれた。 子供の力で大人に叶うはずもなく、皆が取り押さえられてしまった中で犯人のボスであろう男が告げた。
「如月シンタロー君。 取引をしようじゃないか。」
「……取引?」
「君が俺達の出した要求を飲むなら、この子達は危害を加えずに解放しよう。」
 取引、なんてきれいな言葉を使ったが要するに要求を飲まなければ危害を加えるということなのだろう。 こんなの取引じゃない、脅迫じゃないか。
「――そっちの要求は?」
「シンタローさん!」
 要求を飲んではいけない、相手の思うつぼだとセトが言いかけるが口をふさがれてしまい言うことは叶わなかった。
「大人しく君が俺達の物になってくれれば、他の子達はどうでもいいのさ。 大丈夫、乱暴はしない――大人しく従ってくれるならね。 仲間は失いたくないだろう?」
 怖くないといえば嘘になるけど、仲間を失うことのほうが今は怖い。 だから俺は、自分を犠牲にしてでも居場所をくれて優しくしてくれた仲間たちを守る。
「……分かった。」
 皆が目でやめろと言っているのがわかった。 でも、この場でこの要求を飲まなければ皆に危害が加えられるんだ。 なんとしてもそれだけは阻止しなければいけない。 だって、俺に出来るのなんてこれくらいじゃないか。 体力があるわけじゃないし、むしろ無いに近い。 だから、ごめん。
 俺の答えに満足したのか、ボスらしき男はシンタローに笑いかける。
「じゃあ、シンタロー君こっちへ来ててくれるかな?」
 その言葉に従って俺は犯人のボスらしき男の元へと歩いていく。 俺が犯人のボスの側に着いた時点で、皆は開放された。 内心恐怖でいっぱいだけれど、これは俺が招いてしまった結果だから、せめて俺に皆を護らせてくれ。
 だけど、黙って捕まってやるつもりなんてない。 この男たちは目の能力のことを知らない連中だ、だとしたらそれを使って抵抗すれば少ない人数でも十分対抗し得る。 だとしたら、俺が今やるべきことは一つだ。
 セトの瞳をじっと見つめた。 それは昨日彼に言った心を読めという合図。
「――ッ」
 気がついたのかセトはハッとして、瞬間、瞳を赤くした。 俺の言いたいことはこれで彼を通して仲間に伝わるはずだ。 後は皆を信じるだけ。 心配をかけないように皆に笑いかけると、妹であるモモは泣きそうになりながらカノの静止を振りきりそうな勢いで暴れている。
「良かったね。 シンタロー君のお陰で命拾いして。 じゃあ、この子はもらっていくね。」
 そう告げると犯人たちはシンタローを抱え、アジトを去っていった。 残されたキド達は、悔しさを抱えながら連れさられる彼を見ているだけ。
「……セト、シンタロー君はなんて?」
 静けさの中でカノはセトに話しかけた。 セトが能力を使っていたことをカノは見抜いていたようだ。
「大丈夫だ、心配するな――シンタローさんの心を読んだ時一番最初にそれが見えたっす。 それ以降は、犯人たちの傾向や言動から考えた作戦っすね。」
 よくあの短時間でここまで精密に練られた作戦を考えられたものだと、セトは感心するしか出来ない。 怖かったはずだ、あんな厳つい男たちについていくのは。 その証拠にこちらへ微笑みかけた彼の手は、震えていた。
「シンタロー……ふるえてた……」
 マリーは心配そうに犯人たちが出て行ったドアを見つめながら言った。
「怖かったはずっす……それなのにシンタローさん、俺達の安全ばっかり考えてっ……」
「セト、シンタローが考えた作戦を詳しく教えてくれ。」
 真剣な目、カノは直ぐ察した。 大切な団員が攫われたのだ、当然の反応だろう。
「わかったっす。」
 おおまかに彼が考えた作戦を書けばこうだ。
 相手は目の能力のことを知らないただの一般人。 だとしたら能力を使えば戦況をいくらでも有利にすることが出来る。 モモとマリーのコンビがいれば大人数の動きを止めることが可能であり、カノの能力があれば彼ら犯罪集団の一人になりきってしまうことだって出来る。 キドの能力を使えば、最低限のリスクで内部に乗り込むことができるし、ヒビヤの能力を使えばシンタローの居場所を見つけることが出来る。 コノハの体力を使えば恐らくシンタローやマリーを担いで安全圏まで逃げることが可能であり、そして、エネ――彼女はシンタローが連れ去られた時点で行動を開始していて、シンタローがこっそりと持っている発信機を頼りにアジトを特定、そして彼らの大切な情報を盗む。 そしてそれを匿名で警察に送り、予め警察に連絡しておけば事は終了というわけだ。
「すごいな、これをあの短時間で……」
 作戦を聴いたキドは感心したように呟いた。 モモからシンタローは頭がいいとは聞いていたが、まさかここまでとは…頭がいいだけじゃない、観察力も、洞察力も彼は持ち合わせているのだろう。 一番敵にしてはいけない団員だと思う。
「助けよう、シンタローを。」
 キドのつぶやきに一同は頷いて、行動を開始した。 まず、戻ってきたエネの情報を頼りにカノやセトが敵側のアジトを偵察に行き、それを元に作戦を決行するタイミングなどを話し合う。 皆の瞳は真剣そのものであり、大切な仲間をさらわれた怒りが目に宿っている。
「決まったな。 ――じゃあ決行は明後日。 それまで俺とカノとセトは敵側の戦力や、監視。 コノハは明後日に備えてたっぷりねぎまくってたっぷり寝ておけ。 マリーやモモもバテないように休めよ。 ヒビヤもな。」
 作戦を決行するのに一番適していたのは明後日だ。 急がばまわれというやつで、こういう時に一番危険なのは焦りである。 その日、明後日の作戦に備え早めに休息することにしたメカクシ団メンバーはそれぞれにシンタローの心配をしながら眠りの世界へと旅立っていった。
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