01
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 その手紙が来たのは、1週間前の事。
 最初は普通の内容の手紙だったのは覚えている。 今覚えばそれは、本当の目的を俺に悟られないようにするためだったのだろう。
 事件が起こったのはそれから丁度一週間後。 不意に、薄暗く細い路地から伸びてきた手に為す術もなく、連れ込まれて瞬く間もなく黒いワゴンに載せられた。
 何が何だかわからぬままワゴンの中で、後ろで手を縛られて、口に布をかまされて、そして目隠しをされて――そのあまりの手際の良さに驚いていたのもつかの間。
 腕に、ちくっとした痛みが走った。
 それから間もなく、体に力が入らなくなって態勢を崩した俺は為す術もなく成り行きのままに耳を澄ましていればふと見知った声が響いて、はっとした。
 間違いなくそれは、セトの声だったから。 何でこの場所にセトの声がするのか、そんなの話の内容を聞けば嫌でも理解してしまう。
 俺が、あっけなく捕まったせいで、セトがこんな事件に巻き込まれるは目になってしまった。 優しいアイツは俺を放ってなんて置けないだろう。 そんな優しい気持ちを利用して居るのだろう。

 くそ、なんで体に力が入らないんだよ。 なんで、俺はこんなにも無力で役立たずなんだよ。 なんで、セトに何も言ってあげられないんだ。
 セトは役立たずなんかじゃない、本当に役立たずなのは俺で、無能なのも俺で、皆に迷惑をかけているのも俺だ。

 無理やり車の外へ連れ出され、首に少しチクっとした痛みが走った。 それは恐らくナイフのようなものだったのだろう。 それが俺の首に当てられているとなればこれはどう聞いても俺をダシにしてセトをおびき寄せて、セトを連れ去ろうとする現場だ。
 全部、俺のせい。 全部、俺が。
 俺、が―――。

 なんで、何でなんだよ。
 なんで、指も、足も、手も、体を支えることだって出来ないんだ。 数分前まで当たり前に出来ていたはずだろ。 なのに何で出来ないんだよ。
 簡単だろ。 お前は役立たずなんかじゃないって言葉をかけるのはカンだんだろ。 口を開いて声を出せばいいんだ。
 くそ、これじゃ俺ができることなんて何もない。

 ――あ、れ?

 そもそも俺って、メカクシ団の役にたっていたっけ?
 分からない、思い出せない。 俺、メカクシ団に入ってからなにか、したんだっけ? どうしてだろう、俺、メカクシ団に迷惑をかけている記憶しか出てこない。
 もしかして、いや、もしかしなくても。
 俺が一番役立たず、なんじゃないのか? 今だって、セトに迷惑をかけて何も出来ずにされるがままの俺が一番、無能で役立たずなんじゃないのか?
 あ、あ――そうか。
 考えることもない。 最初から真実は目の前にあったんじゃないか。

 だって元々、俺は、独りだったし、誰かに迷惑かけてばかりの生活をしていたし、そんな俺が誰かの役に立っているはずなんてないじゃないか。
 自惚れるのもいいところだ。

 セト、お前は役立たずじゃない。 本当の役立たずは――俺なんだから。

 そう自覚した瞬間、俺の中の何かが音をたてて崩壊した。



 早朝、まだ日も登りきっていない時間帯に一台の白いワゴン車が郊外の倉庫群の中を走っていた。
「先生ダメ、スマートフォン電源切ってあるみたいで入れない。」
「そうか……」
「あーっもう、虱潰しに倉庫回ってたんじゃ時間がかかり過ぎるって……」
「ここらへんに居るのは間違いないのにっ、くそっ……」
 そう言ってケンジロウは乱暴にハンドルを叩く。
「先生、とりあえずここらへんに設置されてる防犯カメラに潜り込んで探ってくるわ。」
「ああ頼む。」
 そう言うと貴音はパソコンから電脳世界へと入っていく。 それを見送ったケンジロウは、エンジンをかけて車を走らせる。
 そうして倉庫回って行くこと2時間、戻ってきた貴音は疲れた様子のケンジロウにねぎらいの言葉をかけた。
「とりあえず場所は絞り込んだ。」
「こっちはぜーんぜん。 先生、とりあえず皆起きたって言うから迎えに行こう。」
「そうだな。」
 まだどこに居るのかの詳細な場所は特定できては居ないけれど、そろそろ迎えに行かないとアヤノたちが騒ぐだろう。
「貴音、皆の所にいって準備しとけって伝えろ。」
「おっけー。」
 そして貴音は再び電脳世界へと入っていく。 一人になった車の中で、運転しながらハンドルを強く握りしめて歯ぎしりをする。
 幸助、シンタロー、頼むから無事で居てくれ、とそう願いながら一度倉庫群を後にした。

 その車を倉庫の屋根に停まっている一羽の鳥がじっと見つめていることなど知らずに。


 それから40分後、皆を連れて再び倉庫群へとやって来ていたケンジロウは貴音とともに詳細な居場所を特定するために車を走らせていた。
「ねぇ、もう皆で別れて探ったほうが早いんじゃない?」
 貴音がそうため息を吐いてそういうが、そうも行かない。 こんな危ない場所を子供だけでなんて教師の俺が許せるか。
「そうも行かねぇだろ。」
 ケンジロウがそう苛ついた声で返すと、ケンジロウはそっと車を止めて盛大なため息を吐いた。 そんな中、待っていたように一羽の鳥がボンネットの上にそっと泊まる。
 怪訝に思いながらも無視しようとした時、車に乗っていたカノが不意に車を降りた。
「修哉どうした?」
「ちょっとまって、この鳥…… ねぇ、もしかして君、セトとシンタロー君の場所知ってる?」
 そうカノが鳥にそう言えば、其れに答えるように飛び上がる。
「父さん、あの鳥の後を追いかけて!」
「お、おう!」
 そうケンジロウが答え、カノが素早く車に戻ると其の鳥は何処かへと向かい始めた。
 数分鳥の後を追いかけて車を走らせると、ふと一つの建物に行き着いて。
「ここか……」
 そう言ってケンジロウは車を降りて、其の建物を見上げる。 その建物は、この辺で一番小さな倉庫だった。
「よし、作戦会議と行こうか。」
 ケンジロウがそう言うと、皆は頷いてカノが口を開いた。
「乗り込むのは僕の役目だよね。」
 無邪気な子供のような、しかし何処か毒々しい感情を纏って笑う。 ケンジロウはそんなカノに苦笑いを零して、肩に手をおいて頷く。
「そうだな、修哉頼んだ。」
「オーケー!」
 ニヤッと笑ったカノを視界に入れつつ、遥かに目を移すとケンジロウは再び口を開く。
「遥、窓の外で修哉の合図を待機。」
「了解!」
 すちゃっと敬礼して良い返事をした遥に、何処か冷たい感情を感じケンジロウは冷や汗をかいた。 まあ、しかたのないことだと諦めてキドに目を移す。
「つぼみ、能力を使って皆で乗り込んで修哉合図を待つぞ。」
「分かった、任せてくれ。」
「貴音、乗り込んだらアジト内を探ってくれ。」
「了解。」
 皆で頷きあって、カノが先陣きって乗り込むべく裏口に一人廻る。 一応、ケンジロウが自衛用にナイフを持たせてくれているけれど、使う気など毛頭ない。 
 裏口からそっと入り込んで、タイミングよく近づいてきた一人に持たされたクロロホルムをかがせて昏倒させ、ロープで頑丈に縛って布をかませる。
 ふっと、笑って能力使ってその男になりきって、そして準備は完了だ。

「さて、作戦開始と行きますか!」
 一人そう小声で呟いて、カノは足踏み出した。
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