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 ケンジロウ馴染みの医者曰く、二人が打たれた薬の作用は協力らしく何かしらの後遺症は残るだろうと言われた。 シンタローとセトの二人は、アジト近くの病院の二人部屋で揃って運ばれて、治療を受けている。 あれからもう1週間近く経つのに、目を覚ます気配を見せない二人を見て、カノは日々恐怖を募らせていた。
 医者が言うには、薬が完全に抜ければ意識は戻るらしい。
 最初其の話を聞いた時、2・3日で目が覚めると思っていたけれど、でも、現実は違う。 思った以上に薬は強力で、健康であったはずの二人の体を1週間もの間蝕み続けているのだ。
「――はぁ。」
 静かな室内に響いたカノの盛大なため息に、キドは睨みつける。
「おい、ため息はやめろとあれほど……」
「あ、うんゴメン。」
「まぁ、気持ちは分からんでもないが……」
「ねぇ、キド……僕ね、忘れられないんだ。 セトの、あの表情が。」
 思い出すのは、能力で一人乗り込んでいった際に見た苦痛にみちた彼の表情だった。 きっと、彼はいろいろな人の悪意をその身に受けたに違いないんだ。
「……やくたたず、か。」
「キド?」
「――いや、セトって自分のことずっとそう思ってたんだなって。」
 そんなことあるはずがないのに、彼はずっとそう自分を攻め続けていた。 しかもそれを自分の内に隠していつも笑顔で俺たちの側に居たのだ。 ずっと側に居たのに、俺達は其れに気づくことが出来なかった。
「ほんっと、嫌になるよね。」
 セトが居ないアジトは酷く静かで、いつもより空気も淀んでいるように思えた。 あの日からマリーとマリーは寝る時意外殆ど病室で過ごすようになって、必死に彼が目覚めるのを待っている。
 ふと、アジトに置かれた固定電話が音をたてて驚きのあまり飲んでいた紅茶を零しそうになりながらもキドが電話をとって耳を傾ければ、その内容にキドが静止して数秒。
「セトが、め、覚ましたって……」
「えっ、ええええ!?」
 そんなカノの驚きの声が響いて、数秒の静止の後に慌てて支度を整えて病院へ迎えば病室の前でマリーとアヤノが待っていた。
「あ、今検査中なんだ。 もう少しで面会できると想う。」
「そ、そうか……あの、シンタローは……?」
 キドの其の問いかけにマリーとアヤノは表情を曇らせて同時に首を横に振った。
「セトが言うにはね、シンタローは少し多めに薬を打たれたみたいなんだ。 だからもう少し先になると思う。」
「そうか……」
 しょんぼりと肩を落としたキドに、カノは笑いかけて口を開く。
「セトが目覚めたんだから、大丈夫だよきっと。」
「そうだな。」
 それから10分程だった頃、病室から医師が出てきて笑いかけてどうぞと手招きをしていたので何故かドキドキしながら病室へと足を踏み入れればそこに居たのは上半身を起こし、外を眺めるセトの姿があった。
 彼は見慣れないメガネを掛けており、二人は顔を見合わせて口を開く。
「セト……?」
「メガネ……?」
 カノとキドの同時のつぶやきを苦笑いで受け止めたセトはなにか弁明をするべく口を開いた。
「あ、ああこれは――」
 困った様子のセトに手を貸したのは側に居た医師だ。
「彼、薬の影響で視力にちょっと障害が残っていますので今は病院のメガネを掛けてもらっています。 視力検査ももう完了していますので、専用のメガネが出来るまでは其れで我慢して頂く形ですね……」
「そう、ですか……」
「障害と言いましても、メガネをかければ今までどおりの生活が出来ますのでご安心ください。」
「はい……」
 カノ達の表情を見て、医師は互いに顔を見合わせて頷く。
「では、瀬戸さん私達はこれで。」
「あ、はい。すいません、ありがとうございます。」
 短く会話して、医師は病室を後にした。
 其の瞬間、カノははっとして拳を握りしめる。 だって、今まで笑っていたセトが、医師がいなくなった途端無表情になったから。 しかも、一瞬だけ。
「ねぇ、セト大丈夫?」
 そっとそう問いかければ、びくっと肩を揺らして何かを言おうとする。 しかし、それはカノの真剣な表情をみて行き場を失ったように飲み込まれた。
「……微妙な所っすね。 別に視力云々はもう諦めも付いてるからいいんすよ、気にしても居ない感じっす。 ――でも、」
 その先の言葉はセトの口から出て行くことはなく、カノは拳を握りしめる。 そんな様子を見たセトはチラリと未だに目覚めていないシンタローを見て、目を伏せる。 目に入った手首の傷に、諦めたようにため息を吐いて口を開いた。
「確かにカノの言葉も奥底になかったわけじゃない。 でも、俺は其の少し前からずっと感じてたんすよ。 メカクシ団の中で、俺の存在価値ってあるのかなって。 ずっとずっと、顔には出さないようにしてたし、忘れようともしてた。 でも、ダメっすね。 ほんっと、情けないっす……」
 自分が情けなさすぎて涙が出そうになるけれど、其れを必死にこらえて苦笑いをこぼす。
「……なんで、そんな顔するの。」
「え?」
 不意に聞こえたカノの声に肩を揺らしたセトは、そっとカノに視線を移す。
「泣きたいんでしょ? 泣けばいいじゃん。 何で我慢するの。」
「我慢はしてないっすよ? ……だいぶ泣いたから。 其れに、シンタローさんのおかげで大半は解決しちゃったっす。」
「本当に?」
「本当。」
「セト、本当にごめんね。」
「……別に、カノが謝ることじゃないんすよ。 ただ、俺がうじうじと悩んでただけなんすから。」
 そう言って笑うと、カノはとりあえず安心して笑う。
「……実際の所、セトの視力って今どのくらいなんだ?」
 カノとセトのやりとりを効いていたキドがそっと問いかける。
「んー、裸眼だともう殆どぼやけて判別は無理っすね。 メガネ掛けてても、前みたいにはよく見えないっす。 まあ、今かけてるこれが少し度があってないってのもあるかもっすけど。」
「……そうか。 じゃあ、体の方は……?」
「えっと、まあとりあえず体は動くようにはなったんすけど、まだ歩けはしないっすね。 車いすにお世話になるっす。 まだ本調子じゃないからリハビリはまだまだ先になりそうっすね。」
 淡々と答えるセトに悲しくなって、マリーはそっとセトの手を握りしめた。
「マリー?」
「私たちがサポートするよ、だからきっと大丈夫。」
「……ありがとう。」
 そう言ってセトは笑って、控えめにマリーの手を握り返す。
「あ、そうだ。 ちょっと窓開けていいかな?」
「え?あ、いいっすよ?」
 返答にありがとうと返して、マリーは病室の窓を開ける。 すると、一羽の鶏が待ってましたと言わんばかりに、窓から中へと入って行く。
「……え、君、は。」
 あの日、鍵を預けたあの鳥。 そして、一番仲の良い友達の鳥。
 何で君がこんな所に居るのだろう。
「この子、ずっとセトが起きるの待ってたんだよ。 シンタローとセトの居場所を特定できたのは、この子が居たからなんだ。」
「どういう、ことっすか?」
「だからね、セトは役立たずなんかじゃないよ。 だって、セトがこの子と仲が良かったから、だからこの子はセトを心配して、ずっとずっと後をつけていったんだ。」
 マリーの言葉に、目を見開いて表情を歪めるセトにカノははっとした。
「そんなセトの優しいところが私は大好きで、そんな貴方に皆救われてる。 能力なんか関係ないよ? だって、セトは、セトでしょ? 能力があったから私はセトを信じて、そして好きになったわけじゃない。 セトがセトだから私は好きになったんだ。 ――だから、もう一人で苦しまないで?」
 そう言ってマリーは、そっとセトを抱き寄せて背中を擦る。
 驚きのあまり目を見開いたセトは、マリーのぬくもりに触れてそっと涙をこぼして控えめな泣き声とともに数分の間彼は泣き続けた。
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