03
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 ニヤリと口元だけ笑っている彼の顔を見て、ゴツイ男は目を見開きながら名前を呟いた。
「鹿野、修哉……!?」
 其の名前を口にした途端、目の前に居た少年はニヤリと笑う。 年下の子供が見せる笑みにしては、攻撃力があるその笑みにゴツイ男はつばを飲み込んだ。
「へぇ、僕の名前知ってるんだ。 まあでも、僕は君の名前なんて知りたくもないけどね。」
「貴様どこからっ」
「さて、どこでしょう?」
 そう言って戯けるカノは笑って、指をパチンと鳴らす。
 何が何だか分からない様子のゴツイ男が合図であると気がついた時にはもう遅く、隣の窓ガラスが勢い良く割られて凄まじい早さで入ってきた影にゴツイ男はふっとばされる。
 セトは地面に落ちて、気を失いそうなぼやけた視界のなかでその影を見つけた。
「カノ君、シンタロー君は任せて。」
 そう言って遥は汚物を視界に入れるような視線をゴツイ男へと向けるとシンタローの方へと走って行く。
「うん!」
 遥の言葉にそう返し、キドが牽制をしている細身の男に目を向けてセトの方へと走って行くと、手を縛り上げていたロープを解いてそっと抱き起こす。
 気を失っているかと思われたセトは、うつろな瞳を精一杯にあけて弱々しい声をあげた。
「だれ……」
 そんな彼の言葉に泣きそうになりながら、誰かを探るために上げられた右手を手にとって必死にいつもの調子て声をかける。
「僕だよ、分かる?」
「……かの? ごめん、ちょっとぼやけて……」
「大丈夫、後は僕達に任せて休んでて。」
 そう言ってカノは言うと、安心したようにセトは気を失う。 そっと、彼をおろして立ち上がって。
「さて、皆おまたせフルボッコタイム行きますか。」
 そうカノが言うと遥は、其れはもういい笑顔で拳を鳴らす。 気がつけば、さっきまでは居なかったメカクシ団のメンバー全員が勢揃いして目を光らせている。
「セト、泣いた跡がある……」
 セトの方へと駆け寄って言ったマリーがそう呟くと、カノとキドが輝かしい笑顔を浮かべて細身の男に近づく。
「セトに何を言った……?」
「さぁね?」
 そう言ってしらばっくれる細身の男に、ケンジロウが無言で近づくとガシッと首を掴んで地面に押し倒した。
「おい。 しらばっくれるのもいいかげんにしろよ。 俺はな、子供らみたいに優しくねぇし、俺はてめぇを許さねぇ。 今のうちに吐いておいたほうが身のためだ。」
 苦しむ細身の男にお構いなしに首を絞めていくケンジロウの眼光は鋭く、思わず息を呑む。 その迫力に負けたのかその細身の男はそっと口を開いた。
「おい、修哉、つぼみ。 コイツ、幸助に”役立たず”って言ったらしいぞ。」
「は……?」
「メカクシ団の中で、一番役立たずなのはお前だって言ったらしいぞ。」
 そのケンジロウの言葉に室内の温度が2度程下がったような気がした。
「へぇ……」
 そう言って笑ったのはカノで、隣にいるキドはひたすら無言だった。 マリーは優しくセトの頬をなでて立ち上がって、静かに細身の男に近づいていく。
「じゃあ、何で私達がここに居ると想うの? ねぇ、何で?」
 マリーがそう言うと、細身の男はマリーの肩に止まっていた鳥に瞳を向けて驚いたように目を見開いた。
「ま、まさかその鳥――」
 そう、マリーの肩に止まる其の鳥は、セトがロッカーの鍵を預けた鳥だ。 この鳥はセトが一番仲良くしていた鳥だ。 でも、セトは頼んでいたわけではなく全てはこの鳥が自分で考えて行動したことだ。
 セトの様子がおかしいと、ずっと後を着いて行っていた。
 この場所を特定できたのはセトのお陰なんだ。
「今更気がついたって遅いよ。 役立たず? ふざけないでよね、メカクシ団を影から支えていたのは他のだれでもない、セトなんだ。 セトは僕達の大切な仲間で、僕の大切な家族。 貶すような真似は僕が許さない。」
「更に付け加えるとね、僕の大切な親友にあんなに傷をつけた君を僕は許さないよ。」
 カノの隣にやって来てニッコリと微笑んでそう告げたのは遥だ。 其の後ろにはひたすら笑顔で黙りこむアヤノの姿があり、その隣には般若のような表情を浮かべ手には金属バットを持っているモモの姿が見えた。
「……。」
「先生、これ見て!」
 建物内を探っていた貴音が持ってきたケース、其れをケンジロウは受け取り開けるとそこには10本の注射器。 そのうち6本がもうすでに空になっている。
「……おい、お前、これはなんだ。」
 ケンジロウが低い声で細身の男に問いかけると、ニヤッと笑ってそいつは口を開いた。
「それは俺らが作った特製の薬さ。」
「んなこたぁどうでもいい。 この薬はどんな効果があるんだ。」
「全身の筋肉に力が入らなくなって、打ち過ぎると視覚に影響が出てくるのさ。 二人が寝ている間に2本打ったから計3本だな。」
 そう得意気に語る細身の男に、ケンジロウは青筋を立てて低い声で言う。
「……おい、遥、つぼみ、修哉、アヤノ、マリー思う存分やってやれ。 モモ、金属バットはやめろ死ぬだろ。 その代わり素手で思い切りやってやれ。」
 その声を待っていたと言わんばかりに皆は表情を変える。 そんな様子にひっと情けない声を上げた細身の男は後ずさりをするが、壁にあたり逃げ場は無くなってしまった。
「大切な仲間を傷つけた報い、受けてもらおうか。」
 キドが絶対零度のほほえみでそう言えば、モモが一歩前に出て瞳を赤くするとばっと横へそれて、後ろに居たマリーが閉じていた瞳を開ける。
「――汚いものは、綺麗にしなくちゃ……ね?」
「そうだねマリーちゃん。 社会的汚物は綺麗にしなくちゃ。」
 マリーの言葉にモモが同意をして、そのやりとりを効いていたキドが固まってしまった細身の男の顔面に思い切り回し蹴りを食らわせる。 固まっているとはいえ所詮人の体だ。 とても痛そうな音と共に体が吹っ飛び、その先に待ち構えていた遥が男のお腹に思い切りパンチをお見舞いする。
 どさっと倒れた細身の男に、マリーとモモから懇親のパンチが顔面に入り、カノの助走を付けたかかと落としがお腹に入り、そして――

 今までずっと黙っていたアヤノが動いて、無言で足を振り上げると男の急所を踏みつけた。

 それをみて無言で顔を青くした男性陣に目もくれず、アヤノは汚物を視界に入れるような顔で細身の男を見下ろした後表情を変えてシンタローの方へと走って行く。 一泊おいてマリーも表情を変えてセトの方へと走って行った。
「シンタロー!」
「セト!」
 悲鳴じみた名前を叫ぶ声が響いて、ケンジロウは携帯をとる。
「馴染みの医者に連絡する。 遥、二人を車に運んでくれ。」
「OK!」
 そう返事をした遥はシンタローを抱えて一度外へと出て行く。
「父さん、この人達はどうするの?」
「んー放っておけ。 貴音が能力に関する情報を消去して、警察にタレコミしておくから時期に捕まるだろ。」
「了解。 じゃあ、逃げられないように縛っておくね。」
 そう言うと、キドが持ってきたロープでカノはぎゅっと男たちを縛り上げていく。 それを視界に入れつつ、ケンジロウはふり向いて。
「おう。 マリー、モモ、アヤノ、二人についててやれ。」
 ケンジロウの言葉に頷いて、遥の後を追いかけていく二人を見送ってカノは一人ため息を吐いた。
「……。」
 そんなカノのあたまにぽすっと手を載せたケンジロウはカノにだけ聞こえる音量で口を開く。
「自分のせいとか想ってるんだろ。」
「そりゃ……まあ、だって僕、軽はずみに言った記憶があるし……”セトなにもしてない”って。 何気ない風に返してくれたから気にしてないと想ってたけど……」
「言葉は、自分の意図しないところで牙を向いている時があるんだ。 だから、気をつけろよ。」
「気をつけていたつもりだったんだけどね。」
「まあ、そういうのはあるさ。 ほら、行くぞ修哉。」
「うん……」
 ちらりと、伸びている男たちに目をくれたカノは拳をぎゅっと握ってケンジロウの後を小走りで追いかけていった。
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