01
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 天気も良く、実に過ごしやすい今日。
 いつものように花屋でバイトに勤しんでいたセトは休憩時間、自分のロッカーに見覚えのない封筒が入っているのに気がついた。
「これ……」
 数日前、シンタローさんに届いていた封筒とよく似ていた。 そして、その手紙を読んでから彼はおかしくなったんだ。
「……え、」
 その手紙を開いて、読み進めていくとそこに書かれていたのは信じられないような文字だった。
 手紙に書いてあったのは、如月伸太郎を預かった助けたくば今日の午後7時に指定された場所に一人で来い、他の仲間に言えば殺す――わかりやすく言えばそうかいてあった。
 能力のことも全て相手は知っている、と。
 嘘の可能性もあったけれど、でも、本当の可能性だって十分にあり得る。 だからこそ、無視なんて出来はしない。
「シンタローさん……」
 何故自分に届いたのかはわからないし、何故シンタローさんを狙ったのかもわからないけど、他の仲間に言うなと書いてある以上一人で行くしか無いだろう。
 大きなため息を吐いたその時のこと、手元にあるスマートフォンに電話がかかってきた。 吃驚しながらも電話とれば相手はカノで。
「もしもし?」
『あ、繋がった! バイトの休憩中ごめんね。 えっと、今朝方からシンタロー君が行方不明なんだけどセトなにか知ってる?』
 カノが切羽詰まった様子でそう電話越しに言うと、鼓動が高鳴った。
 行方不明、ってそれってやっぱりあの手紙はやっぱり本物……。
「……え? 行方、不明……?」
『うん…… 今日の朝家を出て行ったきりで電話しても出ないし、貴音ちゃんが携帯に行っても電源が点いていないみたいで結局入れないし……。 遥さんも姉ちゃんも凄く心配そうにあちこち駆けまわっているんだけど全然見つかる気配がなくて……』
 高鳴った鼓動が静まらない。 でも、手紙のことをいうわけには行かなくて、誤魔化すように口を慌てて開いた。
「し、心配っすね…… こっちでも色々と探してみるっすよ。」
『うん、ありがとう。 見つかったらメール入れておくね。』
「了解っす。」
 そうできるだけいつもの自分で返事をすれば、カノは何の疑問を持たずに電話を切る。
 プープーと音が響く中、俺は一つの決心をして立ち上がる。
 バイト先の店長に気分が悪いので早退すると告げれば、いつもの働きが良かったのか引き止められること無くお大事にとバイトを早退させてくれた。 そんなとてもやさしいバイト先の店長に挨拶をしつつ街へ繰り出せばもう日はだいぶ傾いている。
「あと1時間……」
 現在午後6時、手紙で指定された時間までは1時間あるから其れまで気分を落ち着かせていないと。 誰にも悟られちゃいけないんだから。
「……そうだ。」
 助けは求められないけど、自分が帰ってこないと心配になった時のために少し手を打っておこう。 これくらいしてもきっと気がつかない。
 走っていった先は駅のロッカー。 そこに自分の持っている荷物を全部入れて、そして見やすい位置にあの手紙をおいて鍵を締めると、駅を後にして公園にいた友達の鳥に鍵を渡した。
「これを、午後7時以降にアジトの誰かに渡して欲しいんすけど……頼んでいいっすか?」
 能力を使ってそう言えば、その鳥は頷いた。
「そーっすか、ありがとう。 お礼のご飯っす。」
 そういって買ってきたパンの欠片を鳥にあげると、腕時計を見て立ち上がる。
「よしっ。」
 覚悟はできたし、準備も出来た。
 怖くないといえば嘘になるけど、でも、きっと大丈夫だ。 誰かが助けに来てくれるはずだ。
 そう自分を言い聞かせてやって来た場所は薄暗く、人気のない場所だった。 纏う雰囲気が怖くてつばを飲み込めば、黒いワゴンの扉がそっと開く。
「約束通り一人で来たようだね。 瀬戸幸助君。」
「……シンタローさんはどこっすか?」
 精一杯睨みつければ、目の前に立つ細身の男は後ろの黒いワゴンに合図を送る。 すると、黒いワゴンの扉が開かれ中からごつい男が出てきた。 その男は外にでると黒いワゴンの奥の方に手を伸ばして何かを引っ張る。 すると、出てきたのは。
「シンタローさん!」
 後ろで手を拘束され、目元に布を巻かれ、口元にも喋れないように布をまかれて居るシンタローさんが黒いワゴンから連れだされた。 助けようと動き出すが、ごつい男がシンタローさんの首元にナイフを宛てがって牽制をする。
 諦めたように抵抗をやめたセトに細身の男は笑った。
「君のような物分りの良い子は好きだよ。」
「始めっから狙いはシンタローさんと俺ってことっすか。」
「そうだよ。 他の子達の能力も魅力的だけど、欲張りはよくないからね。 だから捕まえやすいシンタロー君と君をもらおうと想ったんだ。」
「え……? 捕まえやすいって……」
「だって君とシンタロー君、能力じゃ抵抗出来ないだろう? もう一人抵抗できない子いるけど、その子は故郷にいるみたいだし。」
 ドキッと、鼓動が高鳴った。 彼が言っていることは正しいけれど、それは言い換えるとつまり。
「……つまり、君たち二人は役立たずってこと。」
「ち、ちがっ――」
「違うの?」
 眼光鋭くそう俺に問いかける細身の男に何も言い返せない。 だって、それはずっとずっと心の奥底で感じていたことだったから。
「なんだ、君も自覚してるんだ?」
「ち、ちがう……」
 役立たずなんかじゃないはずだって、思いたいのに。
 否定はしたのに彼の言葉が頭から離れずにぐるぐると廻って、攻め立てる。
 そんな自分の様子に満足気に笑う細身の男は、ゆっくりと近づいてきて耳元で注げる。
「瀬戸幸助君、君が大人しく付いていてくれるなら此処でシンタロー君に傷をつけることもないんだが……」
「……」
「仲間を見捨てるような真似、君には出来ないだろう?」
 本当、この人はずるいし質悪い。 断れないのを分かっていてこう言ってくるんだ。 攫うならさっさと攫えばいいのに、俺の答えを待ってるんだ。 合意だと、言い訳をするために。
「……わ、わかりました。 ――抵抗はしないし、言うことも聞きます。 だから、シンタローさんを傷つけるのはやめてください。」
 情けないったらありゃしない。 結局、あの日から俺は何も成長なんてしてなくて、外面だけ見繕っているだけだ。

 あの日だってそうだった。 好きな女の子を守りたいと想ったのに、結局俺は冴えるに人質にされて好きな娘を守るどころか守られる始末。 事件解決したのだって、俺の働きなんて何もない。
 ただ現場に居ただけの俺と、全てを終わらせる力のあった好きな娘。 その違いが、ずっと悔しかった。 彼女を守れるだけの力がほしいって、ずっと願ってた。 でも結局俺は。
「その返事を待ってたよ。」
 そう言って細身の男は、シンタローさんにナイフを突きつけているゴツイ男に合図を送った。 合図を受けたゴツイ男は黒いワゴンの中にいた仲間にシンタローさんを引き渡して、こちらへとやってくる。
 乱暴にセトの手を掴むと、黒いワゴンに放り込んで扉を締めると何かを取り出した。
「そ、それ……」
 男が握っていたのは何か透明な液体の入った注射器だった。 目を見開いて、後ずさりをするけれど、車の中じゃ大した距離を稼げない。
「暴れられちゃ、面倒だからなぁ。」
 そして気がついた。 手を拘束されているにしても、シンタローさんが動かなすぎることと、ぐったりしていることに。
「まさかそれシンタローさんに……」
「ああ、コイツには少し前にな。 安心しろ、死ぬようなものじゃない。 ただ、動けなくなるだけだ。」
 そう言いつつ、ゴツイ男はセトの手を乱暴にとって袖をまくる。 ちくっとした痛みの後、急激に体に力が入らなくなり後部座席にもたれかかる。
 走りだした車の中ゴツイ男はセトの手を後に回し、頑丈にロープで縛るとセトの服を調べ始めた。 ポケットから出てきたスマートフォンだったが、電源が付いていないことを確認して其れをどこかへとしまう。
「……俺たちをどうするつもりっすか?」
「それは着いてからのお楽しみだ。」
 ゴツイ男がそう言うと、目元を覆い隠すように布を巻かれ車の外が見えなくなった。
 それから何分車に乗っていたのかは分からない。 唐突に車は止まりゴツイ男がセトを担ぎ、他の男がシンタローを担いだ。
「おい、誰かに見られる前に入れ。」
 そうボスと思われる男の声が響いて、誇り臭くくらい建物に男たちは入っていくと何か柔らかいものの上に二人を下した。
 相変わらずくらい視界、動かない体、奥底から湧き上がる恐怖を必死に隠して、耳を研ぎ澄ますけれど、聞こえてくる音なんてたかが知れてる。
 声を出したくても、助けを呼びたくても、声なんて出やしなくて。 そしてはっと、あの細身の男が言っていた言葉が旨をよぎった。
“役立たず”
 結局、俺は――……
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