次に目が覚めた時俺の視界に映ったのは、暗闇だった。 体を動かそうとして、頭上で手を縛られ、足も同様にベッドのようなものに縛り付けられていることに気が付き、声を出して誰か呼ぼうとする声は口に布をつめ込まれ其れを吐き出せないようにロープのようなものを巻かれて言葉を話す事ができない。
できるのは精々呻くことぐらいだ。
そこまではまあ、いい。 問題は、自分の格好だ。
足がとてつもなくスースーする。 そして、何故かあたまに何かが付いている。
自分は一体どんな格好をしているのだろう。 こう暗闇の中では自分の格好さえ把握できなかった。
数分後、コツコツと足音が響いてパット明かりが付けられ眩しさに目を細める。 目に入ったのは、とてもスラっとしているかっこいい男だ。 そう、街中を女性を連れて得意気に歩いているリア充のような、そんな何の変哲も無い男に見えた。
「やっぱり可愛いね。 僕が見立てた通りじゃないか。」
そう言い俺を見る男の言葉で自分の姿を視認した俺は、悲鳴を上げたくなった。
何故なら、俺は、ゴスロリと呼ばれるようなふりふりな衣装を身にまとっているのだから。
なんだ、何なんだよこの格好。 こんなヒョロヒョロの、しかも男の俺に着せて何が楽しいんだ。 変態かコイツ。 いや、俺をストーカーしていた時点でもう変態だった。
なるほど、頭に付けられているのは恐らくヘットドレスか。 なんとなくだけど視界の端っこにリボンが見える。
いや、別にヘットドレスはどうでもいい。 いくないけど、今はいい。 今大切なのはコイツの目的だ。
「何か言いたそうだね? でもダメだよ。 其れは外せない。 静かにしているんだ。」
ああ、そうだろうな。 パッと見でここは地下のようだが地上はそんなに離れては居ない位置だ。 そんな場所であったなら、外に声を聞かれ事を恐れるのは無理もない。
「君はもう僕のもの。 誰にも渡さない。 君は僕のことだけ考えて、過ごせばいいんだ。 何も不自由はないよ。 食べ物も、トイレも、全部が全部ここにあるのだから。」
そんなこと聞いてねぇよ、そりゃ食べ物は大切だしトイレもあることに若干安心してしまった俺も居るが、こんなの認めたくない。 こんな冴えないニートの男を狙う物好きが世界にいるだなんて。
「どう想ってくれても構わないよ。 変態と思いたければ思えばイイ。 でも、君を開放する気はないしその格好も変えたりはしない。 君はもう僕のなんだから。」
お前のものになった覚えはない。 俺は俺のものだ。 勝手に売りに出されても困るんだよ。
こうして、俺――如月伸太郎の地獄の監禁生活は始まりを告げた。
ふりふりのゴスロリも変える気はないらしく、男は俺に数々の禁止事項を告げた。
「この服は絶対に自分で脱いだりしちゃ、ダメだよ? あと、トイレとお風呂は僕と一緒に。」
そう淡々と告げられた俺は、目を見開くことしかできなかった。
この男は本気だ。
トイレすら、自由になれない。
監禁されてから1日目、その日男は真っ赤に染められた首輪を俺に付けた。 長い長い鎖が付いているその首輪は地味に重たい。 鎖はどうやらベッドの上につながっているようだ。
そのベッドの上部に未だに荒縄できつく縛り上げられている俺の両手は赤い傷が見える。 ヒリヒリと痛む其れをお構いなしに、男は口元のロープを解き布を取り出した。 やっと話せるようになったにも関わらず、俺は何も男に言えないまま無理やり俺に食事を与えた。 味気のない食事。 自分で食うことなどさせてはくれなかった。 食事が終わると、また布を口の中に入れられてロープを巻かれた。 まともな声も出せないまま、俺は何もかもを男に奪われてしまう。
惨めすぎて泣けてくる。 なんで、俺がこんな目に。
なんで俺、こんな名前も知らない男に監禁されてトイレもお風呂すらもコイツに管理されて、まるでペットみたいなこんな扱いを受けて居るんだろう。
なんで俺知らない奴に素っ裸を見られて居るんだろう。
脱がされた最初こそ大泣きしそうになりながら必死に抵抗したけど、相手の力は思いの外強く、俺のか弱い抵抗など可愛いものだった。
そして、夜。
男はおもむろに俺にまたがって座り込む。
必然的に男は俺を見下すような形になり、俺は言葉を発することすら許されないまま、男の手は俺の下半身へと伸びていく。
頬を伝う涙はとどまることを知らないまま枕を濡らしていく。 必死に声なき声で助けを求めているけれど、助けが来る様子がない。
当たり前だ。 だってコイツに誘拐された時、周囲に誰も居なかったし何よりも。
以前俺のスマートフォンに居座っていた青い髪の少女はもう、居ないのだ。 彼女はちゃんと人間の姿となり新たな人生を歩んでいるんだから。
頭の良さそうなこいつのことだ、スマートフォンはもう処分してあるんだろう。 くそ、助かる見込みが無さ過ぎる。 このままじゃ俺の貞操が死ぬぞ。
それどころか一生こんな場所にいることにだってなりかねない。 そんなのは死んでもゴメンだ。
考えていられたのはそこまで。
下半身へと伸ばされた手により、与えられた快楽に俺は目を見開いて涙をながす。
どんなに暴れても男に押させ付けられてまともな抵抗なんて出来やしない。 なにより手が自由にならないし、言葉を発することすらも出来ない今の自分に有効な抵抗手段が、浮かばない。
恥ずかしさと情けなさと色々な感情で思考回路が上手く働ず、限界はもうすぐそこで。
体を震わせて限界を迎えた俺はぐったりと力が抜けたようにベッドに沈む。
口元のロープを外され、布がやっと取り出されて言葉を話せる様になったのに、おれの口からは荒い息しか出ない。 そんな荒い息を愛おしむかのように男の口が重なって、縦横無尽に俺の口内を荒らし回った。
疲れきった俺は何も抵抗が出来ないまま、されるがままで。
意識も薄れてきて、俺はついに意識を手放した。
俺が目覚めたのはそれから直ぐ。 いや、目覚めたとは少し違う。 無理やり叩き起こされたのだ。 頬を叩かれて、痛みに表情を歪めて眼を開く。
「ほらほら、本番がまだなんだからまだ寝ちゃダメだよ。」
目を見開いて、首を横に振る。
「や、やだ……いやだ、お願い、します……それだけは……」
「うるさいなぁ。 僕の言うこと聞けない子はオシオキだね。」
男はそう微笑みながらつぶやくとベッドに繋がれた手と足を縛る縄を解いた。 久しぶりに自由にされたと思いきや、男は俺の服を脱がしにかかった。 力づくで押さえつけられ抵抗も虚しく脱がされた俺は手を再び縛られて今度は天井に其のロープを縛り付けた。
「え、なに……」
吊るされるような感じになり、嫌な予感がする。
オシオキって、まさか。
一旦その場を離れた男が手に持っていたのは、鞭。 其れを見た瞬間、短い悲鳴が己から飛び出て、恐怖で目に涙を貯める。
そんな俺を見て男は笑って、勢い良く鞭を振りかぶると俺の体めがけ振り下ろした。 空気が轟く音が響いて、痛みが体を襲う。 悲鳴を上げているのに、男はやめること無く鞭を振るい続けた。
蚯蚓腫れが全身に広がった頃、男は漸く手を止め俺の涙で濡れた頬を包み込んで全てを支配できそうな笑みで俺を縛り付ける。
「ごめんなさいっ、ごめん、なさい……言うこと、聞くから……もう、痛いの……やだ!」
もう、逆らうなんて出来やしない。 自分のすべてをこの男に支配されたような気分だった。 反抗するのがとてつもなく、こわい。
「いい子だ。」
男はそう静かに笑うと俺の頭を優しくなでて、天井に吊るされた俺の手を開放した。
倒れこむ俺を抱きとめた男は、ニヤリと笑い口を開く。
「もう、逃がさないよ。」
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