02
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 こうして、エネの声が聞こえるイヤホンをしながら街を歩くとあの頃を思い出す。 まだそんなに時間が経ったわけじゃないし、全てに片がついたわけでもないけれど、でも、凄く懐かしい感じがする。
「本当にやるつもり?」
 耳元から聞こえる声はエネではなく、どちらかと言えば貴音の方だろうと脳内で考えていれば声の主は答えない俺にしびれを切らして少し声を大きくして叫ぶ。
「ちょっと聞こえてんの!?」
「聞こえてるっつーの。 叫ぶな。」
「あのね……こちは今は電脳体なんだからね!? アンタを助けてあげられないのよ?」
「それは十分にわかってるって。 だからこそアンタに頼んだんんだろ。」
 電脳体だからこそ、すぐに逃げて助けを呼べる。 だから俺はパートナーにアンタを選んだんだ、と言えば声の主は黙ってしまう。
「アンタのその自己犠牲の精神はどうにかしないと……」
 エネがこう呟いた気がするが、今はスルーだ。

「……自己犠牲か。 別に自分が傷つくこととか、痛いこととかそういうのが怖くないわけじゃねぇよ。 ただ、今は。」
 今はただ、自分を犠牲にしてでも守りたい人が、人たちがいるから。
 あの笑顔を、もう失いたくはないから。

「なにか言いましたか?」
「いや、何でもねぇ。」
 ふっと笑って答えれば、彼女は不安そうに表情を歪める。

 あの日から、ずっと彼は自分をヒーローとし周りを助けようと自分を犠牲にする危ない思考のもと行動に移してしまえるひとになってしまった。
 ニートとして引きこもり、現実から逃げていたあの時とは違い、今は困難に立ち向かっていくヒーローに見えてしまう。

 果たしてそれが良いことなのか、悪いことなのか。

「ご主人……」
 今の私には彼を止められない。
 一度彼を置いて、独りにして彼を追い詰めてしまった自分たちにはきっと無理だ。 彼がこうなってしまったのは、あの時全てを失って、それを悔い、もうあんな思いをしたくない、そう想っているから。
 置いて行かれる辛さは、置いて行かれた人にしかわからないのだ。 だから私達は彼があの時感じた喪失感の全てを知る事は出来ない。

 でも、私は彼の喪失感を少しは理解しているつもりだ。 私の見たあのどん底の2年間を見れば、彼がどれだけ苦しんだのか嫌でもわかる。
「……。」
「エネ。」
「何ですか?」
「……、居るよな?」
「居ますよ、ちゃんと。」
「良かった。」
 そう震える声で言う彼を見て、目を見開く。

「……エネ、頼むから、黙らないでくれ。」
「ご主人……」

 私はその時に誓った。
 どんなことがあったとしても、彼を助ける為に動くと。
 この不器用で怖がりで、でも、とびきり優しい私達の頼れるヒーローを、決して独りにしないことを。

「ご主人、大丈夫です。 私がついていますから!」

 皆を助けるためにただ全力で敵地に向かっていく彼の為にも、私がしっかりしなければ。
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