01
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 大嫌いな奴が居た。
 其れは、姉と慕う人の隣の席に座る頭のいい無愛想なアイツだ。
「修哉ごめん、今日私の代わりに学校へ行ってくれない?」
 其れは姉からのいつもどおりのお願いで、僕は其れに快く多じて今日――僕は姉のクラスに姉として登校している。
「おはよう、シンタロー」
 いつもの姉のように、笑顔でそうアイツに挨拶をすればアイツは無表情のまま数秒後に、ぼそっと挨拶を返した。
 こういう所が嫌いなんだ。 姉が挨拶をしているというのに、この表情と冷たい眼差し――だからコイツは友だちがいないんだと想う。

 今日は、姉から英語の小テストがあると聞いていた。
 幸いにも姉は頭がいいとは言えない人であったため、年下である僕がかわりにテストを受けても怪しまれることはない。
 だが、中学生の僕に高校生の英語のテストは難しすぎる。
「……。」
 英語の小テストの問題を見て苦笑いをして、シャーペンを握った。
 案の定問題を読んでも半分も内容を理解できない。
「はい、テスト終わり。 答え合わせするから、隣の人と答案を交換してね。」
 先生のそういう声が聞こえてカノは溜息を付いた。
 ああ、また見せられるのか。 あの、嫌味なくらいの満点の答案を。
「おい、答案。」
「あ、ごめんね、はいこれ。」
 笑顔で答案を手渡して、代わりにアイツの答案を受け取る。
 アイツの答案は驚く程に、完璧だった。 其れはもう、気持ち悪いくらいに。
「凄いね、シンタロー。また満点だよ!」
 そう笑顔で言ってあげたのに、アイツは表情一つ変えずに僕に答案を返した。
「お前にしては頑張ったんじゃねーの?」
「え? そうかなぁ?」
 何の嫌味だ、半分もできていないのに。

 その後はテストも何もなく、しかし半分以上理解できない退屈な授業を受けて早くも放課後。 いつもの様に、アイツと一緒に下校していた。
「ねぇ、シンタロー。」
「なんだよ。」
「シンタローはやっぱり嫌いなの? 学校。」
「別に嫌いじゃねーよ。」
 アイツはそうぼそっと呟くと、僕は少しびっくりしていた。
 何故ならその答えは、想像していたものとは違っていたからだ。
「え? そうなの?」
「何で嫌いだと想うんだ?」
 こちらを見ずにそう問いかけるアイツに僕は慌てて言葉を見繕う。
「だって、いつもつまらなそうな顔してるし……」
「まあ、確かに勉強はつまんねぇけど、学校自体は嫌いじゃない。」
「へぇ……」
 笑顔で受け答えして、数分の静寂が二人の間に漂う。 あっという間にアイツと別れる場所までやって来て、内心でほくそ笑みながら表面にそれは出さずに姉ちゃんのような笑顔で手を振る。
「じゃあねシンタロー! また明日―!」
「なあ、お前さ」
 背を向けて歩き出そうとした刹那、アイツは僕を呼び止めた。
「何?」
「大変だな、アヤノに化けて学校来るの大変だろ?」
「……え?」
 アイツから語られた言葉を一瞬理解できずに、拍子抜けした顔をしていればアイツはふっと笑って、僕に背を向けた。
「とりあえず、まあ……がんばれよ。 鹿野修哉君。」
 背中越しに語られた言葉に僕は耳を疑った。
「なっ……!?」
「じゃあな。」
 驚く僕に目もくれずに、アイツは歩いて行く。 そして気がついた。
 今日アイツは一度も僕を”アヤノ”と呼んでいないことに。

 何故アイツは僕が欺いていると分かったのだろうか。
 何故アイツは僕の名前を知っていたのか。

「なんで、」
 意味のない独り言と、問いかけが口から飛び出していく。
 今日の英語の小テストでお前にしては頑張ったといったのは、姉ちゃんじゃなくて僕だと知っていたからなのだろうか。

 ――アイツは、一体何者なのだろう。 ふと僕の中にこんな疑問がうまれた。
 だって、僕が知っているアイツは、あんなふうに笑ったりはしない。
 いつも無表情で、目が死んでいて、そんな奴だったのに……最後にみたアイツの表情は一瞬誰だと言いたくなる程だったのだ。

 そしてなによりも、背を向ける寸前微笑んだ彼の瞳は姉ちゃんの首に巻かれたマフラーの如く真っ赤に燃えていた。

「なんで、君が能力持ってるの……」
 あれは間違いなく能力使用時のものだ、僕が間違えるはずがない。 姉ちゃん曰く、アイツは何も知らない存在のはずだ。
 妹が能力持ちなのは知っているが、兄はそんなもの持っていないはずなのに。
「……一体何なんだよ、君。」
 答えてくれる人はもうそこには居ないのに。 それでも僕は、問いかけずに入られなかった。

 それは、ヒーローの色なのに。
 お前が持っていいような色じゃないのに。
 何でお前が、お前なんかが。

「それは、姉ちゃんの色なのに。」

 そのつぶやきを零し、僕は帰宅するためにアイツが行った道とは逆方向に歩いて行った。
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