ただひとつの夢を見ていた。
其れが前世というものなのかは分からない、けど、確かに幸せだった記憶。
目を閉じてみれば、直ぐそこに居る気がしている。 手を伸ばせば、その手をとってくれると、まだ信じている。
「桃ー、遅れるわよ。 さっさと支度なさい。」
「はーい。」
また、あの夢だ。
何度も何度も見る記憶。 もう二度と叶うことのないだろう景色たちは、今でも鮮明に脳裏に焼き付いて離れてはくれない。
「お兄ちゃん……か。」
そっと呟いてみる単語は、私には縁のないものであるはずなのに、何故かしっくり来た。
「いってきまーす。」
元気にそう言って飛び出した家、快晴の青空の下を音楽を聞きながら歩くいつもどおりの道。
「なんか、ポッカリと穴が開いたみたい。」
今の私には、兄なんて居ない。
私は一人っ子で、父親も母親も健在で――其れが当たり前だ。
でも、何かが物足りない。
如月桃、高校1年生。 家族構成、父・母そして私。 成績は下の下で、友達はそこそこ。 在籍部活は、メカクシ団。
其れが私のプロフィール。 メカクシ団と言うのは所謂何でも屋見たいな部活だ。 助っ人や、人探しやモノ探し何でもするのが私達の所属する部活。
「おはよーございます、団長。」
そう声を上げながら今日もまた、何かが物足りない部活へとやって来た。 朝練と言うわけではないが、なんとなく私は始業前にこうして部活へと顔をだすのが日課になっている。
「おお、おはようキサラギ。」
部室の掃除をしていた緑髪ポニーテールの子が振り向く。 彼女の名前は木戸つぼみ、この部活のリーダーだ。
「あれ、アヤノさんは?」
「ああ、姉さんなら職員室だぞ。 ついでにお前もお呼びがかかってる。」
「えー、なんでー!?」
「とりあえず行ってきたらどうだ?」
そんな団長の言葉に背中を押されてやって来た職員室、待っていたのはアヤノさんとアヤノさんのお父さんで先生である楯山研次朗先生だ。
「先生、なんですか?」
「いや、まあとりあえずこれを見てくれ。」
そう言って取り出したのは、全国模試の結果が書かれた紙だ。
「……全国模試? 私達受けていませんけど?」
「其れは知っている。 見るのは、ランキングの欄だよ。」
そう先生に急かされて、ランキングの欄を見て私とアヤノさんは目を見開いた。
「……え?」
「これ……。」
全国模試のランキング1位、五教科脅威の500点満点と表示されたその人物の名前に目を奪われて、数秒。 ポツリと、アヤノさんは口を開いた。
「シンタロー……?」
そう、何を隠そうそこに記されていたのは”如月伸太郎”と言う見慣れた名前であった。
「俺の知り合いがとなり町のとある高校の先生をやっているんだが、そこに居るらしい。」
「お父さん知っていたの?」
「……まぁ、な。」
そう言って研次朗はアヤノから目をそらす。 違和感を覚えたその行為にアヤノは更に疑問をぶつけた。
「お父さん、なにか知っているの?」
「お前らは多分、アイツに会わないほうが幸せかもしれない。」
「その言い方……お父さんシンタローにあったことがあるの?」
「いや、会ったことはない。 ただ……知り合いがな……」
そこで言い淀んでしまった研次朗に、アヤノは心配そうに俯く。
「……ねぇ、お父さん。 私、やっぱりシンタローに会いたいの。」
「私も、会いたいです!」
「そうか…… じゃあ、今日の放課後時間を開けておいてくれ。」
それだけを言い残し、研次朗は職員室から出て行った。
放課後になり、桃とアヤノは研次朗の車に載せられとなり町にやってきていた。 研次朗の知り合いの人との待ち合わせ場所であるファミレスで待つこと数分。 やって来たのはメガネを掛けた優しそうな人だ。
「久しぶりだな、研次朗。」
「そうだな。」
そんな短い挨拶を終え、研次朗の知り合いの男の人は表情を変えて話し始めた。
「本人の了解を得ないまま、話せる事は余りありませんが、彼は余りにも不幸すぎる。」
「どういうことですか……?」
「場所を、変えましょうか。」
そう言ってファミレスを出て、やって来たのはとある高校の前。 その高校を車の中から覗けば、お目当ての人物はふらふらと高校から出てきた。
「……彼は幼いころに本当の両親を事故で亡くし、引き取られた親戚の家族に虐待され、家を追い出され、現在はバイトを掛け持ちしながら一人暮らしをしています。」
「……え?」
語られた真実に目を見開いて、そして、彼を見つめる。
絶望を捉えたその真っ暗な瞳、服の隙間から見える痣に涙をためていくアヤノと桃に研次朗はため息をつく。
「子供が浮かべる表情じゃねぇよなぁ。」
「学校のクラスメイトはいい子ばっかりで、彼を仲間はずれにしたりイジメたりすることはないよ。 寧ろその逆だ。 ――彼にとっては学校だけが救いなのかもしれない。」
・如月伸太郎
高校2年生。
小さい頃に本当の両親を事故で亡くし、親戚に引き取られるがそこで虐待を受けて育った。
高校1年生の夏に親戚の家を追い出され、それからは色々なバイトを掛け持ちしながら一人暮らしをしている。
トコトン無表情であり、感情の変化が希薄。
自分から言葉を発する事も極端に少ない。
二番煎じなので強制終了
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