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 一方モモとエネは気分を入れ替え、メカクシ団アジトへ意気揚々と片道30分弱の道を走り抜けた。 今日は夏日なため、外はとても暑い。 軽装で歩きたいけれど、アイドルだし能力があるからこればっかりは仕方がない。 そうしてついたアジトは冷房が効いているのか、とてもひんやりしていてとても涼しかった。
「も、モモちゃん!」
アジトについて一番初めに駆け寄ってきてくれたのはマリーだった。
「あれ? シンタローはどうした?」
シンタローがいないことに気付いたのか、キドはエプロンを外しながらモモに問いかける。
「お兄ちゃんったら酷いんですよ!? 今日団長とエネちゃんとで買い物に行くの付き合うって約束してたのに、外が暑いからって来なかったんです! もう信じられない! 馬鹿兄!」
「本当にそれだけか……?」
「だ、団長さん?」
「……なぁエネ、なんでいつものような手を使ってシンタローをこさせなかったんだ?」
 そう言われればそうだ。 エネはいつもシンタローを脅して、ここまでこさせていたのだから今日もそうすれば良かった。
 しかしそうしなかったのはシンタローの様子がおかしいと本能で感じ取ったからなのかもしれない。
『マジな顔して、今日は勘弁してくれと言われたので……』
「……よし、カノ・セト・マリー。 キサラギの家に行くぞ。 シンタローの様子を見に行く。」
「団長、あんな奴放っておけばいいんですよ!」
「キサラギ、少し頭冷やして考えてみろ。 シンタローは外が暑いから出たくないって言っていたのか?」
「……いや、体調が思わしくないって言ってました。 でも見た限りいつもとそんな変わらなかったですし、たいしたこと無いんですよきっと!」
 本当にそうだろうか。 もしかしたら顔に出さなかっただけで大分体調が悪かったのかもしれない。 そんな考えに至ったキドは未だにご立腹気味のモモと、メカクシ団メンバーを引き連れキサラギの家に向かう。
「キサラギ、まだか!?」
「え、ああもうすぐです!」
 モモが指さした先には、ごく普通な一軒家があった。 モモは迷いなく門をくぐって、玄関の扉に手をかけて手前に引く。
「あれ? お兄ちゃんあんな所で何してんだろ……」
 モモが呟いて、廊下に寝っ転がるシンタローを呆れ気味に見つめる。 その後ろからキドは覗きこんで顔色を変えて、モモを追い抜いてシンタローの方へと駆け寄る。
「……おい、セト! 救急車呼べ!」
シンタローのおでこに手を当てたキドは叫んだ。 恐ろしく熱い彼の額、この様子じゃ少なくとも38度以上はあるだろう。 このまま放置すれば、肺炎にもかかりかねない。 突然の言葉にセトは呆然と立ちすくむ。
「え?」
「早く!」
「りょ、了解っす!」
 そのやり取りをポカーンと聞いていたモモは、我に返りシンタローの元へと近寄る。 そして初めてシンタローの様子が分かった。 赤い頬、苦しそうな息遣い、見るからに体調が悪い兄を信じられないとでも言いたげな表情で見下ろすモモは、ペタリと座り込んでしまう。
 何故信じなかったんだろう、なぜ兄の言葉に耳を貸さなかったんだろう。 あの時気遣うフレーズの一つや二つ言えなかったんだろう。
「キサラギ、呆然としてないでタオル持って来い!」
「……あっ、はい!!」
「カノ、シンタローの上着を持ってきてやれ! このままじゃ汗で冷える。」
「分かった!」
そしてマリーとふたりきりになったキサラギ宅の廊下、マリーは心配そうにシンタローに寄り添っていた。
「し、シンタロー……」
「なんでこんな状態になるまで誰も気づかなかったんだ……」
「団長、タオル持って来ました!」
「シンタローの汗を拭いてやれ。 セト、どうだ?」
「あと数分で到着しそうっすよ!」
「キド、上着!」
カノから受け取った上着をシンタローに掛けて、救急車の到着を待つ。 そして救急車が到着し病院に搬送されたシンタロー、モモが家族として話を医者から聞くことになったのだがその第一声が何故こんな状態になるまで誰も気づかなかったんだという叱咤だった。
「……すいません、すいません。」
「医院長、相手はまだ子供です。 声を荒げては……」
「いえ、いいんです…… お兄ちゃんは、私に何回か体調が悪いって……言ってくれていたのに…気づかなかった私が悪いんです。 母さんが泊まりがけで仕事に出かけるからシンタローをお願いねって、私はお願いされたはずなのに……」
 その意味を私は理解していなかった。 お兄ちゃんが体調悪いから、お願いね……そういう意味だったんだ。
「ごめんなさい、私は自分のことしか見えていなかったんです……」
気付こうと思えば気づくことが出来たのに、昨日からずっとお兄ちゃんは助けを求めていたのに。
「……すまない、大人気なかったな。」
モモの涙に冷静さを取り戻した医者は、ハンカチを手渡す。 それを受け取ったモモは涙を拭いて、顔をあげた。
「その、お兄ちゃんの容態は……」
「40度の高熱に加え、肺炎も併発しているからしばらく目を覚まさないだろう。」
「……そんな」
「大丈夫だよ。 ここは病院だよ? 医者に任せておきなさい、そしたらお兄さんは治るから。 だから君はお兄さんが寂しくないようにそばに居てあげてくれ。」
「わかりました。」
「お母さんは?」
「連絡したらすぐに帰ってきてくれるそうですが、時間がかかるそうです。」
「そうか……」
 医者はしばらく考えた後、モモに病室で待っているように言って立ち上がる。 モモは医者の言葉に従い、シンタローが寝ている病室へととぼとぼと歩いて戻っていく。 病室内では、メカクシ団の皆が待っていた。 その奥のベッドに眠るシンタローは未だに苦しそうな息遣いであり、モモはますます追い詰められるようで。
「……キサラギ、どうだった?」
「肺炎も掛かってるみたいです。 なので、しばらくは目を覚まさないだろう、って……」
「そうか……」
 キドがシンタローをちらりと見ながらため息を吐いた。
「私のせいだ、あの時ちゃんとお兄ちゃんの言葉を聞いていれば……」
涙を浮かべるモモにすかさずマリーはハンカチを手渡して、笑顔を向けてくれた。 その気遣いにモモは笑顔を浮かべてお礼を述べた。
「団長達はこれからどうするんですか?」
「そうだな……やることがあるわけじゃないし、せめてキサラギの母親が来るまではここにいよう。 状況説明が必要だし、そういうのはお前よりも俺の方がいい。」
 キドが言うことは最もだ。 何しろモモは、説明が苦手というか下手くそなのだから。 彼女が状況説明すると、擬音ばかりになるのはもう周知の事実。
「ですね……」
 そのことを自分で理解しているモモは目をキドから逸らしながら答えた。 冷や汗が出ていたのは気のせいだろう。
『ご主人……』
ふと、モモの携帯からエネの声が聞こえた。 いつも元気な彼女だが今日はやはり元気が無い。 シンタローの変化に気付けなかったことを気にしているのだろう。
「エネちゃん、お兄ちゃんが起きたら一緒に謝ろうね。 酷いこと言っちゃったし……」
『はい!』
その二人の会話にキドは安堵しながら、ベッドサイドに置かれた椅子に腰掛けた。 シンタローの母親がやってきたのはそれから約1時間立った頃であり、酷く息を見だしていたところから察するに走ってきたのだろう。
「モモ! シンタローの具合は!?」
「それは俺が説明します。」
モモの代わりに説明するべくキドは椅子から立ち上がり、モモの母親に近づいていく。 キドが何があったか説明しているのを横で黙ってきくモモは、酷く申し訳なさそうに項垂れた。
「肺炎……」
その二文字を呟いて母親は心配そうな表情を浮かべてシンタローの側へと駆け寄る。 苦しそうな顔を見下ろし、頭をそっと撫でていとおしそうに見つめるその姿はやはり母親だ。
「モモ、お母さんちょっとお医者さんに話を聞いてくるからシンタローの事よろしくね。 皆さん、今日はシンタローのことでご迷惑をお掛けしすいませんでした。」
そう言い残してシンタローとモモの母親は医者に詳しい話を聴くために、病室を名残惜しそうに出て行った。
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