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  夢を見ていた。 そう、それはきっと前世と呼ばれる前の私の記憶なのだろう。 その記憶があるからこそ、今の私は続いている日々の中でとある違和感を覚えざるを得ない状況にあった。
 そう、前世の私には居た「兄」が居ないのだ。
 名前だってちゃんと覚えてるのに、私には兄が居ない。 お母さんも、お父さんもいるのに、兄だけが居ないこの状況は違和感しか無いのだ。
「いってきまーす。」
 桜の花びらが咲き誇る4月、今日は学校の始業式がある。 そして、私が先輩になる日でもあった。
 青空の下歩く通学路はとても清々しい雰囲気を纏い、やわらかな日差しと共に私を包み込んでくれる。
「あ、そういえば今日クラス替えの発表があるんだっけ…… 良いクラスだといいなぁ。」
 そんな事を独りで呟くと、高校の門前で見慣れた子が手を降っていた。
「おはよー桃ちゃーん。」
「おはよっす!」
 この二人は前世でも付き合いのあった小桜茉莉ちゃんと瀬戸幸助君だ。 この人生では茉莉ちゃん事、瀬戸君とは同級生で、マリーちゃんは一個上の学年で私の先輩。 今二人は私が通っている学校内では有名な美男美女カップルである。
「そういえば1年生に入ってきたんだよね? つぼみちゃんとカノ君。」
「あー、そうっす。 今日の放課後皆で会えないかって言ってたんすよ。どうっすか?」
「平気だよー。」
 校内を3人で歩きながらやってきたのは2年生のクラス替え発表の紙が貼ってある廊下の前である。
 人でごった返しているそこに、長身で有名な瀬戸が背伸びをしながら確認をすれば、本人はご満悦の様子で口を開く。
「あ、桃さんクラス一緒っすよ。」
「え、マジ? やったね! 知らない子ばっかりだったらどうしようと思ってた……」
 二人で喜んでいれば、その様子を見守っていたマリーが時計に目をやって口を開いた。
「良かったね桃ちゃん! じゃあ、私は教室に行くねー」
「あ、うん! じゃあ、また放課後にねー!」
 手を降って上級生の階へと行くマリーを送った後、瀬戸と桃は教室へ入り始業式の準備をする。
 すると、教室内では女子がきゃっきゃとしながらとある噂を口にしていた。
「ねぇ知ってる!? 新任の先生が来るんだって!」
「知ってる知ってる! しかも美男美女夫婦なんだってー!」
 その噂を軽く耳に入れながら桃と瀬戸は、始業式の行われる体育館へと向かう。
 始業式も終わり、残す行事は担任発表のみとなった時理事長であるアザミが壇上へと上がる。
「さて、諸君。 今年から新しい先生が二名程この学校へとやってくるんだ。 ――紹介しよう。」
 そこでアザミは一旦言葉を切り、舞台袖に向かって手招きをする。 次の瞬間、舞台袖から舞台へと上がってきたのは見知った顔の二人であり、桃も、瀬戸も、マリーも、そして新入生であるキドもカノも目を見開くことしか出来なかった。
「はじめまして、今年からこの学校へと赴任となりました如月文乃です。 担当科目は国語で、今年から2年B組の副担任をすることになっています。 よろしくね!」
 そう、間違えるはずもない。 前世で、セト・キド・カノの義理の姉で赤いマフラーがよく似合う彼女そのもので。
「同じく、はじめまして。 今年から2年B組の担任を受け持つことになりました、如月伸太郎です。 担当科目は数学ですが、どの科目も結構得意なので分からないこととかあったら気兼ねなく俺に相談してください。」
 もう一人の新任教師は、自分が会いたくて会いたくて堪らなかった前世の兄そのもので、思わず桃は全校生徒が居るにもかかわらず驚きの余り絶叫してしまう。
 そんな桃とちらりと視線を交わした伸太郎は笑顔を引き攣らせながらそっと桃から目をそらす。
「さて、諸君――新しい先生とも仲良くやるように! 以上!」
 その理事長の言葉で自由となった生徒たちは、新しい先生達の話題でいっぱいであった。 そんな中、驚きの余りその場から動けずに居た桃は、駆け寄ってきたマリーの言葉でやっと我に返る。
「すごいね! まさかシンタローが先生になってるなんて!」
 いや、たしかにすごいが私が驚いているのはそんな事ではない。 会えたことそのものにびっくりしているのだ。
「え、っていうか2年B組って私のクラス……」
 しかも、その上自分の担任だ――なんて、信じられなさすぎる。
「じゃあ私そろそろいくね!」
 マリーはそう言うなり、クラスの友人とともに体育館を後にする。 残った私とセトはようやくその場を後にした。




 教室へ戻れば、新任教師が担任であることに皆ワクワクしているようだった。  そんな中私とセトはドキドキしている。 唐突の再会にどうしたらいいのか分からなくなりそうだ。
「おい、席につけよー。」
 がらっと教室のドアを開けてくぐるなり前世の兄であった人はそう言い、その後ろを当然のように副担任である文乃さんがついてきている。
「さて、唐突だが決めることが山のようにあるんだ。 生徒間の自己紹介は後で個人個人で行ってくれ。」
「あ、先生!一つ質問いいですか!?」
 忙しない様子の伸太郎に、手を上げて質問したのはクラスの中でも随一の元気さをもつ女の子。
「なんだ?」
「先生達は夫婦って聞きました! それは本当ですか?」
 その質問はクラス全員が恐らく聞きたかったことだろう。 その質問を受けた伸太郎はポカンとしながら当然のようにそれを肯定してみせる。
「ああ、そうだ。 さて無駄話はそれくらいな。 まずはクラス委員長から決めるぞ。 誰か立候補するか?」
 そんなこんなで、LHRは進んでいってあっという間に下校時間となった。 なんとか時間内に全てを決まり終えた先生は、疲れを感じさせない声で終業の挨拶を行った。
「午後暇だからって悪さすんなよー」
 ひと通りクラスの子が帰った教室はしーんとしていて、居るのは先生達と私達だけ。
「ったく、アザミの野郎絶対測ったな。」
「いいじゃない、そのお陰で私達は受け持つクラス一緒になれたんだから……」
「え、ええと……とりあえず、お兄ちゃん……いや、お兄ちゃんじゃないか……えっとあれ?」
 未だに脳内が混乱気味の桃に深い溜息をついた伸太郎はふと笑ってぽんと桃の頭に手を載せた。
「ったく、変わらねえなお前。 一応学校では先生って呼んでくれよ。 その他では好きに呼べ。」
「う、うん……。」

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