1
+bookmark
 細く、薄暗い路地を走る。
ヒキニートなのは相変わらずで、体力も皆無なため足もふらふらしてきたが、此処で相手に捕まるわけにはいかなかった。
「絶対に逃げ切ってやる…」
 そう呟きながら物陰で、息を整える。

 今日は、メカクシ団の中でもかなり危ないほうの依頼がやってきたのだ。
 それは不良グループのメンバーを懲らしめて、警察に突き出してくれというもの。 そして、その作戦を考えたのが俺、こと如月伸太郎である。
 正直、そんな奴等と対峙して勝てる気もしなかったしこんな非力誰も相手にしないだろうと高をくくっては居た。
「くっそ、俺を集中的に狙わなくたっていいだろ! 絶対俺が非力だって分かってやってるな…」
 このピンチな状況をどうやって乗り切るべきか、息を整えながら必至に考える。
「エネ、居るか。」
『はい!』
 ポケットに忍ばせていたスマートフォンを取り出し話しかければ、そこにはいつもの青いツインテールの女の子―エネが、何故か敬礼しながら画面いっぱいに写っていた。
「皆は?」
『皆さん無事にアジトへと帰られました! 後はご主人だけです。 でも、こんな人数… 皆さんを呼びますか?』
「いや、今はいい。 ―エネ頼みがある。」
『なんでしょう。』
「お前は直ぐに、アジトに居る誰かのスマートフォンか、PCに行け。 あそこに監視カメラあるの、見えるか? ピンチになった時にあれに合図送るから、そうしたら皆に来てもらうようにしてくれ。」
『で、でもニジオタコミュショーヒキニートのご主人があの数を捌くなんて無理ですよ! 今直ぐ助けをよびましょう!』
 ああ、其のとおりだよ。 俺にこの人数相手にするのなんて無理に近い。 でも、此処で引き下がる訳にはいかないだろう。 これは俺が考えた作戦なのだから
「今助けを呼んだら、別々に逃げた意味が無いだろ。 俺を信じてくれ、エネ。」
『わ、分かりました! 行ってきます!』
 するとエネは身を翻し、電子の海へと駆けていく。 それを確認したシンタローは、スマートフォンをポケットに突っ込んで胸に手を当てて深呼吸した。
「…大丈夫、大丈夫。」
 怖くないわけじゃないけど、でも。
「数は10人、ナイフ忍ばせていると思われる奴が数人… 大丈夫、行ける。」
 体力も少し休んだおかげで戻ってきたし、少し冷静になれたからだから大丈夫。
 意を決し、シンタローは物陰から出て敵を待ち伏せる。
「此処から先は、行かせない!」
 そういえばこの前やっていたプリ○ュアの映画でやっている動きをちょっと真似してみようかな…なんて幼稚な考えで此処を乗り切ろうなんて考えているのは間違いなく俺だ。
 しかし、自慢じゃないが俺は頭はいいし、洞察力ある方だから、敵の動きを先読みすることは容易いし相手はチャラい奴等ばかり。
 喧嘩慣れした奴相手ならまだしも、素人ばっかり10人集まった雑魚になら。
「―喧嘩の素人ばっかり集まって、数の暴力で倒そうなんて甘いんだよ。」
 追い付いてきた敵に、盛大に挑発じみた言葉を投げかける。 そうすれば気の短い彼奴等のことだからキレるだろう。
 それでいい。 怒りは人の動きを単純化させるから先読みすることを更に容易くさせるからだ。
「ヒキニート風情が粋がるなよ!」
 そんなセリフを吐きながらチャラい奴等は一斉にシンタローに突っ込んでいく。
 しかし、そんなピンチな状況にもかかわらずシンタローの心は穏やかで。
「(力を、貸してくれ…アヤノ。)」
 今はもういない彼女を思いながら、シンタローは戦闘準備に入った。

 今日の任務は今までやってきた任務の中でもトップクラスの危険度を誇るもの。 普通なら、子供である俺たち《メカクシ団》は、不良に立ち向かうなど出来ない。
 しかし、こちらには目の力もあるし、そして何よりも。 
 《最善策》そして《IQ168》で《No.7》であるシンタローが居るのだ。 この作戦を考えたのはそのシンタローなのだから、きっとうまくいく。 俺達はそう信じている。
「…遅いね、シンタロー君。」
 現場からそれぞれ別々の道から逃げることになっていた《メカクシ団》メンバーは、只今とある一人を除いてアジトへと既に集結済みだった。
「もしかして敵に捕まったんじゃ…」
 そんな心配をするのはセトだ。 彼の心配は最もで、彼は余り体力がある方ではないし、喧嘩ができるなんてこともないだろう。
 だからこそ、心配してしまう。
「…ちょっと探しに行ってみる?」
 カノがそう言いかけた時、アジトにあるPCに彼と行動を共にしていたエネが表示された。
『待ってください!』
「エネちゃん! お兄ちゃんは!?」
『とりあえず、皆さん。 ご主人を探しに行くのは少し待ってくれませんか? ご主人は無事です。』
 そのエネの言葉に安心したように妹であるモモは、座り込んだ。 とりあえず他のメンバーも納得してくれたみたいで、エネはふうと短く息を漏らす。
『―ですが、』
 そして、エネは話しだした。
 シンタローが、今どういう状況に陥っているのかを。
「…そんなっ」
 敵側の基地から逃げるとき、追ってきた人数は殆どシンタローを追っていった。 だからこそ、他のメンバーはそんなに危険もなくアジトへつくことが出来たのだ。
「…じゃあお兄ちゃんは今、」
『敵に囲まれています。』
 エネの冷静な言葉に、モモは苛立ちながら助けに行こうと立ち上がる。
「助けに行かないと!」
『ご主人はあなた達が助けに来ることを望んでいません。 だから、お願いです! 此処に、居てください! じゃないとご主人が考えた折角の完璧な作戦が、無駄になってしまいます。』
 表情を崩し涙ながらに訴えるエネに、一同は黙りきってしまった。
「…でも、」
『これを、見てくれませんか。』
 そう言ってエネがPCに表示させたのは、信じられない光景で。
「―え?」
『この映像は、今ご主人が居る場所を写している監視カメラの映像です。』
 エネですら信じられない光景が、そこには広がっていた。
 あのシンタローが、敵10人相手に戦っていたからだ。


 敵が繰り出してきたパンチを避け、隙かさず回し蹴りを顔に喰らわす。 格闘ゲームの見よう見まねだが案外出来るものだと感心しつつ、後ろから飛んできた蹴りを素早く避ける。
「なっ」
 まさか、ヒキニートだと思っていた相手に蹴りを避けられるとは思っていなかったのだろう。 マヌケな顔して硬直してしまった敵の足元に回し蹴りをし、転ばせて肘でお腹に一発。
 これは痛いだろう、と場違いなことを考えつつ、もう一人。 真正面から飛んできたパンチをしゃがんで避け、相手のアゴに頭突きし、急所に蹴りで一発。
 できれば一生体験したくない痛みだ、と他人行儀なことを考えつつ背後から近づいてきた敵を再び回し蹴りでふっ飛ばしてやった。
「…あと、6人。」
 そう呟けば、チッと分かりやすく舌打ちをした敵がまた走って近寄ってくる。
 敵の攻撃は、真正面か真後ろから蹴りかパンチを食らわせる極々単純なものばっかりで、だからこそ喧嘩のあまりしたことのない俺でも避けるのは容易かった。
「くっそ…雑魚がああああああ!」
 そんな事を叫びながら片手をグーにしつつ俺に真正面からぶつかってくる敵の手を掴み、走ってきた勢いを利用して両手で投げれば敵は呆気無くコンクリート製の地面に頭を強打して気を失う。
「(ナイフ、か。)」
 ポケットに手を突っ込み、様子をうかがっている敵の3人をみてシンタローは思う。 やはり敵はナイフを持っていたようだ。
「死ねえええええ!」
 発狂でもしたかのような叫びをあげながらナイフを持ち突っ込んでくる敵。 これは流石にビビったが、直ぐ様持ち直して間一髪のところでナイフを避ける。 頬にピッとナイフで切ったような跡が残ったが今は其のことに気を取られている暇はない。 ナイフを持っている方の手首にグーでパンチを食らわし、ナイフを落として、あっけにとられた様子の男の腹に膝で思いっきり蹴りを入れた。
「な、なんだよコイツ…メカクシ団内で一番の雑魚じゃないのかよ!」
 どういう認識で俺を狙っていたかがハッキリ分かる1言を呟く。
 ああ、そうだよ。
 俺はメカクシ団内で一番の非力で雑魚だ。 そこの所は否定できないし、今更否定するつもりもない。
 けれど。
「―そんな雑魚相手にこのザマか。 ははっ、お前らのほうがよっぽど雑魚いじゃねーか。」
「くっそ…言わせておけば…」
 足元で踏ん張るように意識を保っていた男の腹の上に勢い良く足を乗せながら俺は睨んだ。
「うるせえんだよ。 俺は今大変ご立腹なんだ。」
 凄く低い声で、苛ついた感じを出しつつ、すごい睨みを添えて相手にそんな言葉を吐き出した。 自慢ではないが、俺は目つきが悪いことに自信があった。 だからさっきの言葉を付け足すだけで大分敵を怯ませることが出来ると革新していた。
「…ッ」
 案の定ビクッと肩を揺らして、敵は怯む。 俺は其の隙に足元におちていたナイフを拾って、笑みながら。
「なぁ、どうする? お前らが大人しく降参して俺に跪いてくれたら、俺はもう何もしないんだけど」
「なっ誰がてめぇなんかに―」
 そう呟いた敵の男の喉元1mmの位置に刃を宛がう。 これには敵も為す術がなかったようで、ひっと情けない悲鳴をあげながらすごい勢いで土下座をした。
 隣に居たもう一人も、俺の威勢に押されたのか土下座を決めている。
「ま、参りました…」
 犯人が未だに土下座しながら涙声でそう呟いたのを聴いた俺はそれ以上何もしない事を示すためにナイフを投げる。
「はい、よく出来ました。」
 にこりと笑い、スマートフォンで警察に電話をかける。
「あー警察ですか? なんか、刃もった男数人にリンチされそうになったんで、直ぐに来てもらえます?」
 その後、俺を追ってきていた10人と散り散りになったメンバーを追いかけていた数人は警察にあっけなく逮捕され、俺は殆ど無傷でその場を乗り切った。


「やっぱプリ○ュアすげぇな。」
 独りでいると思い込んでいた俺が呟いた言葉はきっと危ないものだっただろう。 本来なら幼女向けアニメであるタイトルを、口に出していたのだから。
『ご主人…プリ○ュアって…』
 呆れたような声でエネがスマートフォンから話しかける。
 いつの間に帰ってきてたんだコイツ…
「うっせぇ、プリ○ュアのバカにすんなよ。 あれ戦闘シーンすげぇんだぞ。 マジでエグい。」
 そんな他愛もない話をエネとしながら、俺はアジトへと足早に帰っていった。 そして俺は、メカクシ団メンバーの俺に対する態度が変わったのに気づく。
 あれ? 俺、なんか変なことしたっけ?
 普段ならモモが心配したんだからねーとかいいながらポコポコ俺を殴ったり、カノが笑いをこらえながら…でも堪えきれていない様子で俺のことをバカにしたりするのに今日は1つもそういうことがない。
「…どうしたんだお前ら。 なんか気持ち悪い。」
「い、いや、なんでもないっすよ!」
 セトは盛大に俺から目を逸らしながら、呟いた。
「まぁいっか。」
 まぁ、皆久しぶりの危険な任務で疲れているのだろう。 何も聞くまい。 そう勝手に自己解釈しながら俺は、一休みするべくソファーに寝っ転がる。
「キド俺疲れたからちょと寝るわ。 適当に起こしてくれ。」
「あ、ああ。 お疲れ様。」
 そう言うとシンタローは目を瞑る。 相当体力を使ったのだろう、彼は異常な早さで夢の世界へと旅立っていく。 あどけない寝顔を見ながらキドはそこら辺に合ったタオルケットをシンタローにかけてあげた。
「キド、シンタロー君寝た?」
「ああ。」
 シンタローが完全に寝ていることを確認してカノはひょっこりと自分の部屋から顔を出した。
「……まさかシンタロー君が10人相手にあんな事するなんて思いもしなかったよ。」
 割りと余裕にボコボコにしていたのには流石に驚く事しか出来ない。 いや、それ以上に倒している最中の彼の顔が恐ろしかった。
「しかも参考にしたのはプリ○ュアだからな…あれってそんな戦闘シーンすごいのか?」
「僕が知るわけないでしょ… 今度、借りて見てみる?」
「そうだな…」
 未だに信じられない様子のメカクシ団メンバーは、あどけない寝顔を晒しながら熟睡するシンタローをチラッチラと見ながら冷静を保とうとしている。
 そんな中、モモはあたりめを食べながらふと呟いた。
「お兄ちゃん怒らせるのやめよう…」
 あんな表情をする兄を私は知らない。 そして、知らないからこそその恐ろしさが身に染みた。
「いやぁ、まさかシンタローさんがあの10人をほぼ無傷でボコボコにするとは驚きっす。」
「シンタローカッコ良かったよね! セト!」
 リビングで、セトに手伝ってもらいながら造花を作っているマリーはとても楽しそうにつぶやいていた。 セトはそのマリーの言葉に頷きながらまた手元に目線を落とす。
『ご主人があんなに動けるとは不覚でした…』
 PCの画面からシンタローの寝顔を見下ろしつつ、エネは関心したように呟く。 其の言葉を否定したのはカノだった。
「いや、違うよエネちゃん。」
『どういうことですかカノさん。』
「シンタロー君、自分が体力ないの知ってるから確実に仕留められる急所を突いてたんだ。 ……だから、敵は起き上がれなかったんだよ。」
 肘と膝、つまり硬い部分で柔らかい腹を、そして男性にとっての急所である股間を、そして靴底という硬い部分で頬を…シンタローは迷いもなくその急所をついていた。 だからこそ非力でも勝てたのだろう。
「つまりシンタローさんは、力がなくても確実にダメージを与えられる急所を…よく分かってるってことっすね…」
「そういうこと。 これ、頭が良くなくちゃ出来ない戦闘だよ…本当シンタロー君を怒らせるのはやめたほうが良さそう…」
 それに同意するように室内に居たメカクシ団メンバーは頷いた。
prev / next
△PAGE-TOP
←TOP-PAGE
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -