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 その後、如月家に招かれたアヤノ・貴音・遥はシンタローとモモの母特製の夕食を御馳走になり、色々と今までの溝を埋めるように話し込んでいた。 そうして、初めて気がついたのはシンタローは中々料理が上手だということである。 今まで自分の食事は自分で何とかしてきたからだとシンタローは弁解していたがそれにしては手際がよく、主夫だと名乗っても違和感ないくらいに。
「シンタローに女子力でも負けた……」
 アヤノはシンタローが作った一品を、口に運びながら悔しそうに呟いた。
「じょ、女子力ってお前な……」
 エプロンを外しながらシンタローは呆れの混じった声でアヤノに言う。
「まったく伸太郎ったら……いつの間にこんなに…女子力をあげていたのよ……」
「母さんまで……」
「お兄ちゃん、此れにチョコレート掛けていい?」
「やめろ。 俺の作った料理にそんなの掛けてみろよ、モモ、お前には一生作らねぇからな。」
「えー、美味しいのにー。」
 そんな家族の会話を耳に挟みながら、貴音はシンタローの作った料理を口に運ぶ。
「……料理、覚えようかな。」
「貴音、料理するの? じゃあ僕に料理つくって!」
 呟きを聞いていたらしい遥にキラキラとした眼差しで見つめられた貴音は高鳴る鼓動を必死に隠して叫ぶ。
「は、はぁ!? つ、作らないし!」
「えー貴音の手料理……」
「ばっ、ばっかじゃないの!!」
 真っ赤な顔で照れる貴音に遥は微笑んで、それにつられて回りにいたシンタローやモモや二人の母親とアヤノもまた笑う。
「あっ、そうだ。 私、皆に連絡入れなくちゃ。 ちゃんと仲直り出来ましたって。」
 モモははっとして立ち上がる。 迷惑をかけてしまったのは今ここにいる人たちだけじゃない、メカクシ団の皆にも色々迷惑をかけてしまったから。
 そうして、自分の部屋で携帯を手にとって団長に電話をかけた。
『……キサラギ、か。どうしたんだ?』
 落ち着いた団長の声。 私はいつだってこの声に安心を求めていた。
「あ、お兄ちゃんと仲直りできましたって、報告を……」
『仲直り出来たのか!?』
 団長は心の底から嬉しいとでも言いたげなテンションで、電話越しに叫んだ。
「はい……まぁ、いろいろ大変でしたけれど。」
『いろいろ?』
「お兄ちゃん、死ぬ気だったんですよ。 以前通っていた高校の屋上―あと一歩踏み出せば真っ逆さまに落ちてしまう建物の縁に立っていたんだそうです。 アヤノさんや貴音さん、遥さんが必死に説得してくれて、そしてお兄ちゃんの本心をちゃんと聴いて、母親共々今までのことを反省して、今溝を埋めるように話をしてるんです。」
『そうか……良かったな。』
 それはきっと団長の心からの安堵なのだろう。 そう、彼が死ななくて本当に良かったという意味で。
「団長、私皆に嫌われちゃいましたかね……やっぱり……」
『なんでそう思うんだ?』
「だって、私皆の前で色々ひどいこと言っちゃったし……」
 私は皆の前で兄に対して酷いことを言った。 醜い一面を見せてしまった。 嫌われて当然だ。
『別にあんな程度でお前を嫌いになるほど、付き合いは短くはないだろ。 寧ろ本当のキサラギを知れてよかったと安心してるよ。』
「そうですか……」
『キサラギ、お前は確かに悪いことをした。 でもな、“嫉妬”する事は悪いことじゃないぞ? 誰だって嫉妬するし、自分にないものを求めたりする。 それは自然の摂理だ。』
「……。」
『だから其のことに関してお前は何も引け目を感じなくていいと俺は思う。』
「でも……」
『感情は誰にも縛ることは出来ないぞキサラギ。 自分でさえも。』
「そうですね……」
『個人的な物言いで悪いが、俺はな、キサラギは頑張ったと思うんだ。』
「えっ……」
『兄が優秀すぎて、頑張っても誰にも見てもらえない状況がもしも俺の身にも起こったんだとしたら、きっと俺は、お前よりも早く根を上げていたとおもう。』
「……」
『それにさ、シンタローには無いお前の良い所はちゃんとあるだろう? そしてシンタローはそういう面をちゃんとよくみてる。 前な、お前が居ない時にお前のことについてシンタローに聴いたことが在ったんだ。』
「……なんて、答えたんですか?」
『“モモはな、皆を元気にできる天才だ。 どんなに気が滅入っている時でも、アイツの笑顔を見れば皆が笑顔になれる。 そんなアイツの笑顔で俺は何回も何回も救われて、アイツに対して何もしてやれない自分が酷く惨めに思えた。 テストの点数なんて、関係ない。 俺よりもモモのほうが人間としてはずっとずっと優秀で、俺はきっとそういう面が羨ましくて嫉妬してるんだ。” って……アイツはこう言ったんだ。』
「お兄ちゃんが……私に、嫉妬……?」
『シンタローだって嫉妬はするんだ。 だからさ、嫉妬することが悪いなんてあるはずがない。』
「ありがとうございます、団長。」
『キサラギ、』
「なんですか?」
『お前は俺達の“仲間”だからな。 勿論、シンタローも。』
「……ありがとうございます。」
 団長は短くじゃあなと呟いて電話を切った。 私はとても救われた気持ちで、携帯を握りしめて頬を濡らす涙を拭って、そうして再び部屋を出て行く。 清々しい気持ちで、まだリビングに戻れば皆が微笑みながらお帰りと返してくれて私はとても温かい気分になった。 久しぶりだこんな気分になったのは。
 貴音さんや遥さん、アヤノさんは食後片付けを手伝ってくれた後に帰っていった。 兄はアヤノさんを家まで送ってくると家を後にしてそして数十分後。 家族の団欒の時、私は今まで何度も行ってきた言葉をまた兄に対して掛けた。
「ねぇ、お兄ちゃん。」
「なんだ?」
「今度、勉強教えてよ。 ちゃんと聞くからさ。 お兄ちゃんが教えてくれるのが一番分かりやすくて好き。」
「俺は別にいいけど。」
 兄は照れながらも了承してくれて、私はそんな兄の横顔を見つめて微笑む。 其の様子を見守りながら二人の母親もまた微笑んで、そして。
「――ありがとう。」
 ぽつりと兄から放たれた言葉は、紛れも無く私達に向けた感謝。 何に対しての感謝なのか、私はそれをなんとなくだが理解できた。 きっと兄は夢に見ていた光景を今、目の当たりにしているのだろう。 仲のいい家族、その中に自分がいること。 きっと兄が望んだのはそんなありふれたことだ。

 あの時、最後の最後に兄が呟いた本音はきっとこの先も私の胸に刻まれることだろう。 今まで生きてきた中で兄が本音を私達の前でぶちまけてくれた経験など無く、だからこそ貴重で、忘れちゃいけない。

 そう、兄のたった一つの願い。  “ひとりにしないで”を。
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