メカクシ団がALO入りする話【23】
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 その数時間後、クロハの姿は再びアジトの前にあった。 今日はもう来るつもりはなかったのだが、セトが入院する羽目になったので仕方なくきたのだ。 まあ、入院すると言ってもシンタローほど重症ではないから数週間で退院できるだろうが。
「邪魔するぞ。」
 そんなそっけない言葉をアジトに入るなり大きめの声で言えば、それに反応してキドとカノが玄関に姿を見せる。
「あれ、クロハ……?」
 カノが怪訝そうな顔でクロハを睨む。 当たり前だ、ついさっきアジトを出て行ったクロハがなぜまたここに戻ってきたのだろう。
「本当は言わねえつもりだったが、あいつの症状が思ったよりも酷かったからな。 ……あとで色々言われるだろうが、仕方ないだろ。」
 そう一人で呟くクロハの声に、全員が玄関へと集まる。 ずぶ濡れのまま玄関に立ちすくむクロハにマリーはそっとタオルを差し出した。 それを受け取り髪の毛を吹きながらクロハは口を開く。
「セトがシンタローと同じ病院に入院する事になったから伝えに来た。」
 そのクロハの言葉に、ぽかんと一同は口を開く。
「え?」
 間抜けなカノの声が響いた。 セトがなぜ入院する羽目になったのか分からないらしい。
「その様子だとやっぱりセトの事気づいてなかったんだな。」
「セトが……どうしたの?」
「あいつはあの世界で負った傷と、ストレスからくる高熱で倒れたんだよ。 アジトを出てから割りとすぐに。 ……あの時、セトは密かに能力を暴走させていたからな。」
 その言葉に、メカクシ団全員の顔が凍りついた。
「だから言ったろ? ――少し冷静にならなきゃ、身近な人間の変化さえも気づけないって。」
 クロハはそう言ってメカクシ団に背を向ける。
 そこでカノは、はっとした。 あの世界でセトは自分の手を借りながらやっと立ち上がったではないか。 それほどにまでダメージを受けていたのに、あの背化から帰ってきてから普通に生活していたし、バイトだって行っていた。 時折ふらついたりするのはバイトで疲れているからだと言い訳をしていたが、違う。 全部、違う。
 だって、あの世界から帰還して自分はあの魔法のダメージを少なからず受けていた。 それは他の皆だって同じで、重力魔法の影響は自分たちにさえあったんだ。 それなのに、あれよりも2段階強い魔法を受けていた彼にダメージがないなんてことはあるはずないのに。
「……一つ、聞いていい?」
 自己嫌悪に陥っていたカノが、うつむきながらクロハに言った。
「なんだ?」
「能力を暴走させていたって、言っていたけど……どういうこと?」
「感情を揺さぶられると、能力の制御ができなることがあるんだよ。 お前らの力はそれ程強大で、扱いにくいものだ。 あの時、セトはシンタローの本心を唯一間近に触れていた。 セトはそれを要約してお前らに伝えていたんだ。 本当はもっといろいろ聞こえていたんだよ。 昔からこいつは人一倍他人におびえていたような奴だったろ。 成長しても、その本質は変わらないんだぜ? ただ、能力を制御できるようになったからおびえる必要もなくなったってだけ。」
 そう、いくら歳をとったとしても人の本質はそう簡単には変わらないし、変えられない。 セトは、能力を手に入れてから他人との接触に恐怖を感じるようになったのだ。 当り前だろう、知りたくもない他人の本心を聞いてしまうのだから。 そのセトが変わったのは、否、能力の制御ができるようになったのはマリーとの出会いがキッカケだった。 マリーを助けたいと、そう心から願ったセトの思いに蛇が答えたのだろう。
「あの時、セトの能力は暴走していた。 そして、あの世界に監禁されていたシンタローのリアルな記憶を、能力を通じてみてしまったんだよ。 そのあまりのリアルさに、あいつはさらに能力を制御できなくなった。 それほどに、アイツがあそこでやられていたことは非人道的で許すことができない行為だったんだ。 お前らは知らないほうがいい。」
 正直、よくあんな真似を数か月にわたり耐えて居られたものだとクロハは感心してしまう。 簡潔に言えば、リアルで受ければ死ぬような痛みを何度もその身に受けて、ずっと部屋の中には恋人の自分を蔑む声が響き渡り、閉じ込められていた部屋は自分さえ見えないような暗闇と来た。 普通の人間なら狂ってしまうほどの事である。
「……あの世界から帰還したときから、セトはぶっ倒れる程ダメージがあったんだ。 でも、お前らはシンタローの事で頭がいっぱいで自分のことで心配をかけるわけにはいかないと、セトはそれを隠してムリをして、いつものようにバイトへ行ったりしていた。 倒れるのも無理はないぜ。」
 その日、クロハはセトの病室の番号を告げてアジトを後にした。 残されたメカクシ団メンバーはしばらくぽかんと立ち尽くしたまま、何も気づかなかった愚かさに胸を痛めている。
 改めて、自分たちが冷静さに欠けていたことを自覚した。
 あの時、セトが何を見たのかそれはセトにしか理解できないことで自分たちは知り得ないこと。 だからその痛みも苦しみもセトにしか分からない。 でも、自分たちは気が付くべきだったのだ。 彼の”無理“に。
「あれ、そういえば姉ちゃんは?」
「姉さんなら、あれから帰ってきてないぞ?」
 キドが心配そうに、それでいて嫌な予感がする日のような表情で言った。 カノもまた姉のことを心配しているのだろうが、首を突っ込む気はないようである。
「……まぁ、大丈夫でしょ。 アヤノなら。」
 貴音がため息を付きながら、外に目を向けて言う。 なんで皆そういう表情をするのかといえば、アジトを出る際の彼女の燃えるような怒りをまとったオーラを感じてしまったからだろう。
 彼女がアジトを出て何をするのか、ニュースを見ればだいたい察しがつく。
「あの人、まだ罪を認めないらしいわね。 白々しく茅場晶彦の所為にしているってニュースでやっていたわ。」
 救いようのないクズね、なんて日和は付け足してため息をついた。
「無茶しなければいいんだけど……」
 遥はそう言いながらため息をつく。 誰もが皆、止めようとはしない。 それを無駄だと分かっているからなのだろう。 ここにいる全員で彼女を止めようとしても、きっと彼女は止められないし止まらない。 それほどまでに彼女は怒り狂っているのだ。 ――当たり前だろう。 なぜなら彼女は自分の大切な者を二人も須郷によって傷つけられているのだから。
 それに関して怒っているのは皆一緒だ。 だからこそ、止めようとはしないのだ。
「まぁ、いまさら須郷の身に何が起こったとしても、因果応報としか言い様がないけどね。 さすがに殺すまでは行かないと思うよ。 クロハがいるにしても、ね。」
 ヒビヤがため息を付いた後に言うと、遥もそれに同意するように頷いた。
 それに付け足したのは、カノである。
「っていうか、殺すなんて生ぬるいことしないんじゃないの? 何も話さない、罪を認めない状態で殺しちゃったら謎のままで終わっちゃうし、それに、死ぬほどの痛みをずっと受けてきたシンタロー君が浮かばれない。」
「その通りだわ。 一瞬の痛みで死なれたら、ずっとそんな痛みを堪えていたシンタローさんが不憫よ。」
 日和の毒舌が部屋に響いて、暫く静寂がアジトを包んだ。 その静寂を破ったのは、カノのぽつりとした呟きである。
「セト……」
「ダメだな、俺は……」
 キドが拳を握って俯いた。 クロハに指摘されるまで何一つ気が付けない自分の不甲斐なさにため息すら出てこない。
「とりあえず、明日皆でセトさんのお見舞い行きましょう。 その時に、謝ればいいですよね。」
 桃が笑いながら言うが、それは本来の彼女が持つ笑みではない。 兄に会いたい衝動を抑えているのだろう。
「そうだな、明日行こう。」
 キドのその言葉に、カノもまた頷いて答えた。 メカクシ団全員の了承を確認したキドは夕ごはんを作るべく立ち上がり、キッチンへと入っていった。
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