メカクシ団がALO入りする話【22】
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 アジトを独り出て行って、ふらりとしながら人気のない道を歩いて行く。 ふと気付けば雨が降っていて、傘もささずに立ち止まって壁にもたれながら地面を睨んだ。
「……。」
 あの世界で、能力を通じて聴いた彼の本心はある意味強烈で考えを改めるきっかけになったのは間違いない。
 だって、彼は”ヒーロー”であることを重荷と感じていたのだ。 その一方で彼は自分たちのためにと自らを”ヒーロー”であることを望んだ……その気持ちのずれが、恐らくシンタローが目覚めない理由なのだろう。
 ヒヨリがあの場で言ったことは概ね正しいと思う。 自分たちが彼に望んでいた”ヒーローである事”は、即ち彼を精神的に隔離し、独りにしてしまう事なのだ。
 でも、この事実はシンタローが目覚めない直接の理由ではない。 彼が目覚めない理由は、表面上で見繕えないほど彼は精神的に疲弊していたからだ。
そして其の疲弊こそ、彼が自分たちに見せることを最も拒むもの。
 ――当たり前だろう。 自分たちは彼を「ヒーロー」だと思っていて、それ以外の感情は二の次だったのだ。
 どんなヒーロー物の映画だって、ヒーローが弱音を吐いているシーンは無い。 いつも自分の何処かを犠牲にして皆のために戦っているのだ。
 あの時、能力を通じて見えた彼の鮮明な叫び、その真実は感情を大きく揺さぶられて能力の制御ができない程のもので、知りたくない事を知ってしまう苦しさに泣き出しそうになっていたのはきっと誰も知らない。
 本当はずっと倒れそうなほど体的にも精神的にも限界だった。 それを隠してまで普通の生活をしていたのは、シンタローのことで頭がいっぱいで彼の目覚めをずっと待っている彼らに新たな心配など掛けられないから。
 でも、もう無理かも知れない。
 さっきは立ち上がるだけでふらついたし、今だって倒れそうなのを壁が支えていてくれるから立っていられるもののこの状態がいつまで続くかなんてわかりきったことだ。
 アジトへと帰る体力なんてもうない。 歩き始めたらきっと倒れてしまう。
 雨に紛れて流れている自分の涙を乱暴に拭って、空を見上げる。 
「……お前少し自分を攻めすぎじゃないか?」
 そんなセトに話しかけたのはクロハだ。 セトを気遣うようにクロハは隣に寄り添って口を開く。
「シンタロー、言っていたぞ? 真っ暗な世界の中で、一番初めに聞こえてきたのはセトの声だった……って。 それが、とても嬉しかったって。 お前があの時、必死にシンタローに語りかけたから、雁字搦めに拘束されたシンタローの心に届いたんだと俺は思うぜ?」
 クロハの言葉に、セトの涙腺はまた崩壊してしまう。 必死に歯を食いしばって泣くのをこらえていた彼が、そこで崩れ落ちるように泣き崩れてしまったのだ。
「……大丈夫か? 辛かっただろ。 お前の能力はある意味強すぎる。」
 セトの能力は制御が難しい。 あの状況なら尚更だ。
「お前、シンタローの記憶少し見ちゃったんだろ? 能力の制御が出来ずに。」
 あの時、セトは能力を暴走させてシンタローの記憶を見てしまっていた。 閉じ込められていた間彼が何をされていたのかも、全部知ってしまったのだ。
 リアル過ぎる記憶がどっと流れてきて、押し潰されそうになっていたのにもかかわらず、セトはそれを隠してシンタローの安全を優先させた。
 現実に戻っても、あの世界で受けたセトのダメージは想像以上のものだったのだ。
 あの時、セトを含める皆のペインアブソーバはゼロになっていた。 そんな中で、セトだけ皆よりも2段階強い最高質力の重力魔法を其の身に受けたのだ。 
 痛みのフィードバックと、シンタローの記憶、2つに苦しめられて当然苦しかったはずなのに、コイツは皆の前で平然を装い笑っていた。 それどころか、体調が悪いのを隠してバイトにまで行っていたのだ。
「お前、十分頑張ったよ。 そんな無理はもうしなくていい。」
「だめっす……だって、皆……今は、シンタローさんのことで頭がいっぱいで……」
 そう苦しそうに言葉を紡ぐセトの顔は若干赤い。
「そうやって普通を装うのも辛いお前の今の状況は、もう隠せるもんじゃないだろ。 このままここにいれば、ますます熱が上がるぞ。」
「でも……」
「――お前も熟損な性格してんな。 わかったよ、アジトには連れていかねぇ。 でも、そのままにしておくこともできないから、病院へは行ってもらう。 大体、お前あの魔法の後遺症まだ残っているだろうが。」
 その声を聴いたセトは、ドサリと倒れこむ。 雨に濡れているせいで体温が奪われつつあるセトを地面に倒れ込む前に支えたクロハは、彼を抱えてシンタローが入院しているのと同じ病院へと向かった。
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