メカクシ団がALO入りする話【21】
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 一方、クロハはシンタローを除くメカクシ団メンバー全員を、アジトへと呼び出していた。 集まるや否や、自分にシンタローの様子を聞いてくる皆に俺は口を開く。
「……さっき、目が覚めた。」
 その言葉に目に見えて明るくなったメカクシ団メンバーは、興奮を抑えきれない様子で病院に行こうと準備を始める。
 直ぐに駆けつけたい気持ちは痛いほどよくわかったが、今はダメだ。
「……でも、お前らは暫く会いに来ないで欲しい。」
 凍りついたのが伝わってきた。 きっと、この言葉の意味を皆考えているのだろう。 間を開けて、遥が口を開いた。
「なんで……そんなこと言うの?」
 俺だってこんな事言いたくなかった。 でも、今会いに行けばアイツは本音をぶちまける機会を失ってしまう。
「……少し、シンタローと距離を置いて欲しいんだ。」
「答えになってない。 なんで距離を置かなくちゃいけないの? なんで会いに来ないでほしいの? 理由があるんでしょ?」
 真面目な顔だったのが救いだ。 遥が凄くまじめに、この件に関しては考えてくれているようで安心した。
「……模範解答をあげても何も解決にはならねぇよ。 でも、一つだけ……言うとしたら……”シンタローはシンタローである”ということだ。 その言葉の意味が理解できないようなら、お前らはまた近い将来シンタローを無意識のうちに精神的に追い詰めてしまう。 お前ら自身の手で、な? それに、少しお前らは冷静にならなきゃ、身近な人間の変化にさえ気づけねえだろ。」
 クロハはそう言いながらセトのほうをちらりと見る。 クロハの視線に気づいたセトは、苦笑を漏らした後にクロハから視線をそらす。 そんな彼をクロハは心配そうに眉をひそめて、目線をメカクシ団へと戻した。
「じっくりとこの言葉の意味を考えるんだな。 如月桃、お前は一回気付けただろう? なら、大丈夫だ。 冷静になって考えてみな。 ……ちなみに、アイツは……桐ヶ谷和人はこの質問に対し、完璧に回答をしたぜ?」
 クロハはそう言うなり、身を翻してアジトを出て行く。 残されたメカクシ団メンバーは、彼が言っていた言葉の意味を脳内で永遠と復唱させながら考えていた。
「……シンタローはシンタローである、か。 それに、身近な人間の変化に気づけないってどういうことだろう……」
 カノが、そう呟いてみるが言葉の意味なんて解るはずもなくため息をつく。 ちらりとアヤノに目を向ければ、上の空――シンタローのことばかり考えているのだということが手にとって解る。 早く逢いたいのだろう、それは僕達も一緒だけど。
 それから暫くは誰も言葉を発さないまま、時間だけが過ぎていった。 1時経とうとしていた頃、ヒヨリがポツリと呟く。
「……そういう、ことね。」
 自責の念にかられている様子の彼女に、他のメカクシ団メンバーの視線は集中する。
「何か分かったの?」
 ヒヨリの隣に居たヒビヤが、顔を覗きこんで問いかける。 すると彼女は立ち上がって、話し始めた。
「……ねぇ、あの世界でシンタローさんに対して皆で掛けた言葉思い出してみて?」
 彼女の言葉に、一同は首を傾げつつ思い出していた。
「気付かない? ……私達、シンタローさんに呼びかけるとき彼の名前を一度も呼んでないの。 セトさん意外は。」
 はっ、と。 皆は気がついた。
 自分たちは、シンタローと名前ではなくずっと”ヒーロー”と呼んでいたんだ。
「遥さんでさえ、ヒーローと言っていた。 私だってそう言った。 ……でも、それは一番やってはいけない事だったんだわ。 ……これは、侮辱の言葉ではないということを前提にしていうけれど、シンタローさんはヒーローなんてタマじゃないの。 ――だって彼はヒーローと呼ぶには余りにも優しすぎたんだから。 どんな物語でも、ヒーローはプライベートを犠牲にして、自分を犠牲にして周りを護っているものよ。 私達がシンタローさんに対して求めていたのは此れだったんだわ。」
 優しい彼は、きっとその期待に応えようとするだろう。 結果として、彼は弱音を吐く場所を失ってしまったのだ。 皆のヒーローである自分が、皆に弱音を吐くことなんて許されるはずがないと。
「……クロハが言っていたことは正しい。 今私達が会いに行けば、シンタローさんは本音を言う機会を失うことになる。 結果として、私達は無意識のうちに彼を追い詰めていく。 気がついた時には遅い。」
 きっと、此ればっかりはどう頑張ったってどうにもならないだろう。 私達が此処で態度を改めたとしても、彼は私達に対して弱音を吐くことはしない。
 彼はそういう人だ。
 信用されていないわけじゃなくて、頼りないからでもなくて、寧ろ逆でだからこそ、彼は気を使って2年もの間心配をかけてきた私達に対して弱音を吐くことなんて出来ない。
「……目が覚めない理由は僕達にあったってことだね。」
 カノがぼそり、と呟く。 その通りだ、と同意をするように皆は俯いて、拳を握ってしまった。
「本当に目を覚ましてほしいと願ったなら、シンタローの病室で悲しい表情をしたり、ため息と吐いたり、涙を流したりしちゃいけなかったんだ。 いつもみたいに笑って、馬鹿やって、いつもの私達で居なくちゃいけなかった。」
 貴音が皆に背を向け、拳を握りしめながら呟いた。
「私、また……」
 モモは膝から崩れ落ちて、涙を流す。 絶対に忘れてはいけなかったことを私は忘れていたのだ。 貴重な兄の本音を。 「ひとりにしないで」と嘆いたあの日の背中を、私は忘れていた。
 精神的に、兄を一人にしてしまった。 ヒーローであると線引きをして、兄を隔離してしまったのだ。
「……ごめん、私ちょっと独りになってくる。」
 アヤノはそう言うなり立ち上がって、部屋を出て行く。 その背中を心配そうに貴音と遥は見つめていた。
「アヤノ……」
「そっとしておいてあげよう……」
 遥のその言葉に無言で彼女の出て行った扉を見つめる一同は、自分たちが彼を追い詰めていたという事実に目をそらしたくなっていた。
「アイツを助けに行ったはずがアイツを追い詰めていた……とはな。」
「……俺もちょっと席外すっすね。」
 ずっと窓の外を見ながらぼーっとしていたセトがすっと立ってアジトを出て行こうとする。 しかし、立った瞬間セトはぐらりと体制を崩した。 転ぶ寸前で持ち直したセトは心配そうにみるマリーに心配ないと告げてアジトを出て行く。 マリーはそれを引き留めようと立ち上がるが、何も言葉は出てこずにパタンとドアは閉まってしまった。
マリーは、セトが出て行った扉をじっと見つめて涙ぐむ。 なぜだか分からないが、今の彼は酷く無理をしているように見えたからだ。
「セト……」
 届くことのないマリーの心配そうな声がアジトの中に虚しく響き渡った。
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