メカクシ団がALO入りする話【18】
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 夜の病室は異常な程静かで、研次朗はベッドサイドで輝くランプの光を頼りに小説を読みながら、じっと彼の目覚めを待っていた。
 愛する娘の愛する人である如月伸太郎は、未だに深い眠りについたまま目覚めようとはしない。 SAO事件が解決してから早いもので数ヶ月経ったが、同じようなケースの患者がまだ300人弱は居るらしい。
 何故、俺がこんなにコイツのことを心配しているのかなんてたかが知れている。 アヤノに頼まれたのもあるが、コイツは俺の中でもヒーローであるからだ。 とても皮肉なことに、昔の俺とは違い今の俺はコイツならアヤノを幸せにできると思ってしまっている。
「……はやく目を覚ませよ。 じゃないとアヤノが笑わないんだ。」
 そう彼に言葉をかけるが、目覚めるわけもない。 諦めたようにふっと笑った研次朗はパタンと、小説を閉じて立ち上がる。
「飲み物買ってくるか……」
 そう独り言を病室内に響かせながら、研次朗は病室を後にしていく。 数分後、飲み物を買ってシンタローの病室へと戻っていこうとした研次朗は彼の病室に誰かが入っていくのを目撃した。
「……誰だ?」
 首を傾げながら、病室内へこっそりと入る。 物陰から様子を窺えば、ソイツは白っぽいトレンチコートに身を包んだメガネを掛けた男だった。 そして、顔を見た瞬間、誰なのかを理解する。
 あの男は間違いなく須郷伸之――アルヴヘイム・オンラインの事実上のトップな男だ。 そんな男が今更此処に何の用があるのだろう。 そんなことを思いながら視線を下にずらした瞬間、目に入ったものに俺は目を見開くことしか出来なかった。
 それもそのはずだ。 須郷伸之の手に握られていたのは大ぶりのサバイバルナイフだったのだから。
 この病室内で、そのナイフを何に使うのか――そんなことを理解する余裕もなく俺は走りだした。 アヤノの大切なコイツを守るために。
 切っ先は首もとへと向けられ、あと数ミリ下にずらせば刺さってしまう位置にあったサバイバルナイフの刃の部分を俺は何の躊躇もなく素手で握りしめた。 ポタっと、赤いしずくが伝いシンタローの首へと落ちていく。
「おい、俺の娘の大切な奴に何してんだテメェ。」
 出来る限りドスを効かせてソイツを睨んだ。 よく見ればその男の目は赤く血走っており、どこかの雑誌で見かけた時は丁寧に上げられていた髪の毛がボサボサになっている。
「じゃ、邪魔をするなああああああ!」
 そう狂った様に叫ぶ須郷に、研次朗はナイフを握った手を上にあげてお腹を無防備にした上で膝で思い切り須郷の腹を蹴り上げる。
 衝撃で吹っ飛んだ須郷は後ろの壁にぶつかって倒れ混んだのを確認した研次朗は、ぼたぼたと血が垂れる手に冷や汗を書きながら、シンタローの顔を覗き込む。
 そして、そのまぶたがぴくりと動いたのを確認した研次朗は素早くナースコールを押した。
 駆けつけた看護師は俺の手を見ると血相を変え、何があったのかを静かに俺に問いかけた。 俺は隠すこと無くあったことを述べれば、警備員を呼び寄せて病室内で倒れている須郷を連行していく。
「あなたの怪我も早く治療しなくちゃ……付いてきて。 この子は別の人が来るから大丈夫。」
「あ、はい……」
 応急処置を受け、巻かれたハンカチを見ながら研次朗は顔を引きつらせる。 今になって痛みが襲ってきて、奥歯を噛み締めた。
「全く無茶しますね貴方は。」
「まぁ、娘の大切な奴ですからね。 このくらいは当然でしょう。」
「誰にでもできることではありませんわ。」
 手の手当をしながら看護師の人はそう呟く。 その言葉に、苦笑を返していると病室のドアがガラッと開いた。
「お父さん!」
 聞き間違えるはずもない。 その声は自分の娘であるアヤノだ。
「アヤノ?」
「もう、怪我したって聴いて心配してたんだからね! ……お父さん、大丈夫?」
 病室内で俺を目に入れた途端、アヤノは泣きそうな顔をして俺に抱きついてきた。
「ああ、俺は大丈夫だ。」
 そう答えてあげれば、娘は安心したように微笑んだ。
「良かった…… ありがとう、シンタローを護ってくれて……。 あの看護師さん、シンタローの様子は……?」
「ああ、さっきナーヴギアが取り外されて一回目を覚ましたみたいなんだけど直後からショック症状と高熱に見舞われて集中治療室に移されたみたい。」
 その看護師の言葉に、アヤノは目に見えて落胆……いや違う、心配そうに俯いてしまった。
「そうですか……」
「大丈夫よ、先生を信じなさい。 きっと良くなるわ。」
 そう看護師が微笑みかければ、アヤノは少しだけ顔をほころばせて安心したようだ。 そんな様子の娘をみて安心した研次朗は手当をしてくれた看護師にお礼を告げて立ち上がる。
「俺、少しシンタローの様子を聞いてくる。 アヤノは車で待ってろ。」
「うん……」
 本当は付いて行きたいのだろう、しかし、俺に付いてきたところでシンタローに会えるわけではない。 其のことをアヤノ自身よくわかっているため、大人しく言うこと聴くしかできない。
 暗い病院の廊下を一人歩きながら、アヤノは同じ建物内に居るであろうシンタローのことを想っていた。
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