メカクシ団がALO入りする話【17】
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 其の言葉が合図になったかのように、シンタローは剣を持ち、こちらへ走りだした。 同じタイミングでキリトもまた、彼に向かって走りだす。
 キリトの絶叫が響き渡り、数秒。 パリィィィンと、音が響いてシンタローを苦しめ続けていた目元を覆う機械が消える。 その更に数秒後、彼の両の手を繋いでいた鎖も断ち切られた。
 カラン、とシンタローの手から剣が滑り落ちてシンタローは膝から崩れ落ちる。
「お兄ちゃん!」
「シンタロー!」
 同じタイミングでモモとアヤノが叫んで、彼に駆け寄る。 キリトも数秒遅れてシンタローの方へと駆け寄って彼をそっと抱き起こした先で目にしたものは、彼の余りにも苦痛に満ちた泣き顔。 あの仮面の下に隠されていた彼の涙は余りにも辛く、彼のこの世界に受けた傷を垣間見た気がした。
「……シンタロー。」
 助けに来るのが遅れてごめん、言葉を出さずに口の動きのみで謝るキリト。 アヤノやモモは彼の名前を必死に呼んでいるが目を覚ます様子はない。
「シンタローさん……」
 セトは彼の表情を見ると、涙を浮かべ彼の手をぎゅっと握りしめた。
「ねぇ。 セトが心の声を聴いた時、1つ気になっていた言葉があるんだけど。」
 カノが静かな場で声を抑えつつ言い、キリトは彼に目を移しながら問いかける。
「何だ?」
「”暗い” ――ねぇ、確かにこの場所は暗いけどさ。 ……シンタロー君が言ってる“暗い”ってこの場所のことじゃない気がするんだよ。」
 確かにこの空間は暗い、に入るのだろう。 しかし、他人が見えなくなるほど暗くはない。
「……どういうことですか?」
 ユイがポケットから顔を出しながら問いかける。 するとカノはシンタローから目を逸らしながら呟いた。
「きっとシンタロー君が言っていた“暗い”は、彼が閉じ込められていた場所のことなんじゃないかって。 つまりさ、この数カ月の間シンタロー君は真っ暗闇に閉じ込められていたってことになるよね。 まぁ、憶測なんだけど。」
「暗いって……そういうこと……」
 コノハが拳を握りながら、怒りの篭った声で呟いた。
「……少し、急いだほうが良さそうだぜ?」
 ふとクロハが呟いて、皆の視線が集中する。
「どういうこと?」
「……須郷の野郎がシンタローの入院している病室に向かってる。」
「なっ、アイツまだ諦めてないの!?」
「病室にはお父さんがいる……はずだから、直ぐには危険はないと思うけど……急いだほうがいいよね。 もう、シンタローのログアウトも出来るんでしょ?」
 アヤノがクロハに目を移しながら、問いかける。 そんなクロハは、キリトの方を向いて口を開いた。
「ああ、ログアウトはもう可能だ。 ……キリト、此れやるよ。」
「これ?」
 指をパチンと鳴らしたクロハにキリトは首を傾げるばかりだ。
「メニューだしてみ?」
 そのクロハの言葉に、キリトは首を傾げながら指をふるいメニューを出す。 すると、出てきたのはいつものメニューではなかった。
「えっ、此れもしかしてGMメニュー……なのか?」
「そう、それがGMメニューだ。 このゲームに俺が入れたのも、全てはあいつのお陰なんでね。 ソイツに頼まれたのさ。」
 其の説明で把握できたのは恐らくキリトのみだろう。 彼だけが“アイツ”が誰なのかわかったようだ。
「……アイツ?」
「誰だろう?」
 他の皆は首を傾げながら、考える。 しかし、思い当たる人物などおらず諦めてため息を漏らした。
「じゃあログアウトさせるか。 アヤノ、俺――」
「キリトくんはアスナの病院に行ってあげて? こっちは大丈夫だから。」
「分かった。 じゃあアスナ、ログアウトしたら直ぐに病院に行くよ。 今度妹のす……リーファのことも、シンタローの仲間のことも紹介するから。」
 その言葉にリーファは軽くアスナに会釈をすると、アスナも慌てて会釈を返した。
「分かった。 皆本当にありがとう。」
 アスナはそう皆に微笑みかけて、キリトに視線を移す。
「目が覚めて初めて合う人はキリト君がいい。 だから、待ってるね。」
「ああ、直ぐ行くよ。」
 キリトはそう言ってアスナに笑いかけた。 彼の上着のポケットからひょっこり顔を出したユイに、アスナは屈んで顔の位置を合わせて、微笑みかける。
「ユイちゃん、必ずまた会いに来るから待っててね。」
「はい! 待ってます!」
 ユイの頭をキリトはなでて、GMメニューを呼び出す。
「じゃあログアウトさせるぞ。」
 キリトはシンタローの方へ目線を移して、アヤノに目で合図した。 彼女はそれに頷いて微笑んで、シンタローを慈愛に満ちた表情で見下ろす。
 それを確認したキリトは、アスナとシンタロー、そしてALOで捕らわれていたSAOサバイバー達をログアウトさせた。
「さて、じゃあ私達もログアウトしようか。」
 アヤノはメカクシ団の皆に笑いかけながら、メニューを出した。 ふ、とコノハが辺りを見回しながら首を傾げる。
「そういえばクロハは?」
「ああ、クロハなら先にシンタローのところへ行っているって言って消えてったわよ。」
 コノハの問いに答えたのは隣に居たエネだ。
「そっか、じゃあ僕達も急ごうか。 キリト君、じゃあね。」
「そうね。 キリト、そっちは思う存分いちゃつきなさいよー?」
 最初にログアウトしていったのはコノハとエネだった。 それに続いてキド・カノ・セト・マリー・モモがキリトに1言声を掛けてログアウトしていく。
「こっちのことは心配しないでいいわよ。」
「まあ、直ぐには目を覚まさないだろうけどきっと大丈夫だよ。」
 ヒヨリとヒビヤが互いに笑い合って、そうキリトに向けて言葉を放った。
「ありがとう、ヒヨリ・ヒビヤ。」
 その言葉を確認した二人も又、ログアウトしていく。 残ったのはキリトとアヤノだけだ。
「キリト君、きっとねシンタローはこれからが大変だと思うの。」
 しゅんとした表情でアヤノは呟いた。
「……そうだよな。」
 しかし、次の瞬間彼女は表情をガラリと変え笑顔で言う。 こういう彼女の強さが、キリトはとても羨ましく思えた。
「でも、大丈夫。 私もいるし、彼の家族だっているし、皆も居る! キリトくんも、SAO内で出会った皆がシンタローにはついてる。 一人じゃないんだから!」
「そうだな。 アスナの方が落ち着いたら俺もそっち向かうから。 シンタローのことは頼んだぞ。」
「うん! 任せておいて!」
「じゃあ私も行くね。」
 アヤノは最後に手を降ってログアウトしていった。 それを見送ったキリトは暗い空間を見渡して声を上げる。
「そこに居るんだろう、ヒースクリフ。」
「久しいな、キリト君。」
 記憶のままのあの声が、空間内に響いてソイツは現れた。
「――生きていたのか?」
「そうであるとも言えるし、そうでないとも言える。 私は――茅場晶彦という意識のエコー、残像だ。」
 相変わらず意味の分からない事をいう人だ、と笑いながらキリトは口を開く。
「驚いたよ、まさかアンタが助けに来てくれるとは。」
「今回の事件は私が発端であるとも言えるからね。 それに、シンタロー君には色々迷惑を掛けたのでこれくらいは当然だ。」
「……なあ、ヒースクリフ。 一つ、いいか? ――あの機械は何のためにあったんだ?」
 あの機械があったせいでシンタローはあんなに苦しむ羽目になったのだ、茅場晶彦が何のためにあの機械を開発していたのかそれを聴いてもバチは当たるまい。
「……元々、あの機械はナーヴギアと連携して使う精神に深い傷を負った人のための医療器具として開発していた。 私が開発していた頃は、あのような人を操る機械ではなかったし、そのような機能も付けては居なかった。 きっとあの機能は須郷君が独自に付け加えたのだろうな。 ――キリト君、シンタロー君の目が覚めたら伝えて欲しい。 “悪かった”と。」
「……分かった。」
 その答えにヒースクリフは微笑んでそれに答える。
「キリト君、もう一つ頼まれてはくれないか?」
「何をだ?」
 ヒースクリフの言葉に疑問符を浮かべるキリトだが、不意に上から降ってきた光目を奪われるように上を向いた。 その光は徐々に降下して、キリトの手のひらの上に留まる。
「それは世界の種子。芽吹けばどういうものだか解るが……その後の判断は君に任せよう。 消去し、忘れるもよし……しかし、もし君があの世界に憎しみ意外の感情を残しているのなら……」
 ヒースクリフの言葉はそこで途切れた。 キリトは手のひらに収まっている光を放つ卵のようなものに目を落とした。
「――では、私はもう行くよ。 いつかまた会おう、キリト君。」
 そうそっけない言葉を残し、ヒースクリフの気配は唐突に消えた。 キリトは少しの間彼がいた場所を見つめた後、ポケットの中にいるユイに言葉をかける。
「パパ……お兄ちゃんは……」
「――シンタローのことは心配するな。 きっとまた元気な顔をしてユイに会いに来るよ。」
「……はい! 私、待ってます。」
「じゃあ、そろそろ俺もログアウトするな?」
「はい、パパ――大好きです!」
 ユイのその声を最後に聞き届けた後、キリトもまたログアウトしていった。
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