メカクシ団がALO入りする話【16】
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 コノハが呆然と名前を呟くように呼んで、シンタローを抱えたままクロハは振り返った。
「……よう、久しぶりだな。」
 そう言って、クロハは微笑む。 前のような雰囲気とは全く違うどこか柔らかい雰囲気を纏った彼は、須郷に目もくれずにコノハの方へと歩いて行く。
「どう、して……」
「さぁな。」
 そう短く答えたクロハは、コノハの近くの床にシンタローを優しく下ろし、微笑みながら頭をなで、須郷の方を振り向いた。
「随分と色々してくれたよなぁ。 須郷伸之。 言っておくけど、俺にGM権限は効かねぇからな?」
 クロハはそう言って、コツコツと須郷の方へとゆっくり近づいていく。
「な、何だよ! 何なんだよお前!!!」
 そう言いながら須郷は、ジリジリと雰囲気に押され後退する。
「俺か? 俺はなぁ、本物の化け物ってやつだよ!」
 クロハはそう言いながら、須郷を力いっぱい蹴っ飛ばす。 其の瞬間、皆を押さえつけていた重力がふっと消えた。
重力魔法が消え、一番初めに走りだしたのはエネだ。 その手には愛用のダガーが握られており、その切っ先を須郷に向けている。 一瞬怯んだ須郷だったが直ぐ様持ち直してGM権限を行使してバリアを貼ろうとする――が、GMメニューが出現せず、命令も反応をしなかった。 そして、須郷はきっと知らないだろう。 エネの瞳が赤く輝いていた其の意味に。
「そんな腐った神様権限なんて使わせないわ!」
 電子の世界で、エネに勝てるものなどいるはずがない。
「あ、あああああああ!」
 そのダガーの切っ先は、バリアに阻まれること無く須郷に突き刺さる。 幻想世界では感じないはずの痛みに須郷はもがき苦しんだ。 それに追撃したのは、エネの後ろについていたコノハである。
「僕達の大切なヒーローを悪く言う奴は誰であろうと許さない!」
 コノハは大剣で、須郷のお腹を真っ直ぐに突き刺して、おまけにグリっとえぐるように剣をひねった。 その痛みに須郷は涙を流してもがき苦しむ。 その様子の須郷を槍の柄で殴り飛ばしたアヤノは、ゆっくりと近づいて言葉に出来ないような悍ましい表情を浮かべる。
「痛い? 当たり前でしょう? ――貴方が、シンタローに、アスナに、SAOを必至に生き抜いた300人弱の人々に与えた苦しみに比べれば随分とマシよ。 神様権限に頼って、そこで猛威を奮い人々を冒涜した罪を、その身で感じなさい。」
 そう言ってアヤノは、須郷の胴体を槍で切り捨てた。 下半身と上半身がずれて、下半身だけが電子音を響かせ消える。 その余りの痛みに須郷は絶叫していた。
「っざけんじゃないわよ! こんな変態に、私達のヒーローが好き勝手されていたなんて、屈辱だわ!」
 先程よりも酷い暴言を吐きながらヒヨリは持っていた細剣で須郷の目を貫いた。 もはや声を上げることすら出来ずに須郷は痛みにもがき苦しむ。 それに追い打ちを掛けるようにヒビヤのダガーが須郷の首を貫いた。
 次に動いたのはモモだ。 彼女愛用のあの厳ついメイスを片手に持ちながら、先ほどのアヤノと同等の悍ましい表情を浮かべダッシュで須郷の元へと駆け寄り、無言で彼の顔をメイスでぶん殴った。
 反動で動けないセトの代わりに、マリーは必至に走り須郷の元へと駆け寄って彼を見下しながら愛用の杖の石突きでヒヨリが刺した方とは違う方の目をぶっ刺す。 其の杖を引き抜こうと必至に手を動かす須郷だが、ツインダガーがぐさっと両の手の平に刺さりそれは叶わなかった。 それを投げ、見事に命中させたのは他でもないカノである。
「抵抗なんて、させてあげないよ!」
「あったりまえだ!」
 カノの言葉に付け足しながらキドは動けないセトをちらりとみて、愛用の日本刀を握り、真っ直ぐに須郷の顔面を貫く。
 それが決定的な一打になったらしく、須郷はパアンと電子音を響かせ消える。
「お兄ちゃん!」
 須郷が消えた後、リーファがキリトの方を向き必至に声を上げる。 キリトはといえば、シンタローの方へと真っ先に駆け寄って必至に彼の名前を呼び続けていた。
「……ソイツ、そのままだと目も覚めねぇし、ログアウトも出来ねぇぞ。」
 そう静かに告げたのはクロハだ。 その言葉に真っ先に反応したのはキリトである。
「どういうことだ……?」
「その目元を覆う機械――これが、こいつのログアウトを邪魔しているんだよ。 他の捕らわれていた連中はシステムコンソールや、GMメニューからログアウトさせることは可能だが、コイツだけは出来ない。 そう設定されてる。」
「じゃあどうすれば……」
「なぁ、お前。 キリト、といったな?」
「あ、ああ。」
 こちらを向いて、クロハは真面目な表情で問いかけた。 それに吃驚しつつ、キリトは頷いた。
「ほら、見えるか? シンタロー、まだ立ち上がろうとしてるだろ?」
 指さした先、今まで痛みで倒れていたシンタローだが、意識を取り戻し立ち上がろうと藻掻いていた。
「……なんで、」
「あの機械は管理者権限を離れた独立したオブジェクトだ。 だから、主が居なくなっても動作し続ける。 ――そう、今もアイツは俺たちを侵入者とみなし排除せよっていう須郷の命令を聴き続けてそれを達成するべく立ち上がろうとしているんだよ。」
「そんな……」
 須郷を倒せば終わりだと想っていただけあって、その情報を聴いた時キリトは絶望すら覚えた。 まだ終わっていなかったのだ。
 そんな中、カノの助けを借りて立ち上がったセトがキリトを真っ直ぐと見据えて、こう告げる。
「キリトさん……シンタローさんを助けてほしいっす。」
「セト……大丈夫なのか?」
「俺は平気っす。 だから……。」
 今は自分のことよりも、彼の事を優先させてくれとセトはキリトの目をじっと見ながら訴える。 今にも泣きそうな彼の瞳に、キリトは少し違和感を覚えた。
「セト……?」
「もう、あんな悲しそうな声は聞きたくないっす……」
 彼だけが聞こえたシンタローの心の声。 きっと想像を絶するものなのだろう。 それほどのことをきっと、シンタローはやられていたのだ。
「分かった。 俺が必ずシンタローを助ける。」
 キリトはセトの瞳を真っ直ぐに見据えて確かに頷く。 それを確認したセトは顔をほころばせた。
「パパ……」
 キリトのコートのポケットから顔を出し、ユイは心配そうにキリトを見上げた。
「大丈夫だよ、ユイ。 ちょっとママのところに行っていてくれないか?」
「分かりました……。」
 ユイは心配そうな表情を変えないまま、アスナの元へ飛んで行くとアスナの方にちょこんと座る。
「キリト君……」
「アスナ、シンタローはきっと俺が助けるよ。 皆で現実に帰って、今度オフをしよう。」
「うん……。」
 ユイと同じ、心配そうな表情を浮かべながらそれもアスナは頷く。
 キリトはそれを確認し、シンタローの方を向く。 彼は、近くに落ちていた剣を拾い上げてふらふらとした足取りで俺の方へ剣を構えた。
「お前は独りじゃない。 誰もお前を暗闇に置き去りなんてしない。 お前の目の前にはお前のことが大好きな奴等がいっぱい居るんだ。 いい加減、気付けよ! 如月伸太郎!」
 そうキリトは力の限り叫んだ。 その言葉にシンタローはぴくっと反応を示す。
 ―――聞こえている。
 キリトはそう確信していた。 この声はきっと彼の心に届いていると。 じゃなかったら、そんな表情したりしないし、泣いたりなんてしない。
「いい加減、戻ってこいよ! シンタロー!」
 必至に掛けるこの言葉は君にちゃんと届いている、そう信じて今は進むしか無い。 彼から何も言葉をもらえなくても、もう十分に行動が返事をくれているのだから。
「終わりにしよう、シンタロー。」
 こんな悲しい戦いも、孤独も、全部終わりにしよう。
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