メカクシ団がALO入りする話【13】
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「し、んたろー?」
 アヤノの茫然自失な声が響き渡るが、彼は反応せずにオベイロンの指示を仰ぐが如くじっと傅いている。
 そんな様子のキリト達を見て、オベイロンはしてやったりという顔で笑い、アヤノを挑発するように彼の顎を手でつかみ強制的に持ち上げ、上を向かせ顔を近づけて耳元でそっと囁く。
「さあ、侵入者を殺せ。」
「――了解いたしました、オベイロン陛下。」
 そう静かに答えたシンタローは、ゆっくりと立ち上がり腰に刺してある剣をゆっくりと抜いた。
「あの剣……もしかして……聖剣エクスキャリバー……?」
 アルヴヘイム・オンライン歴が長いリーファは直ぐ様その剣が化け物クラスのものである事を見ぬいた。
「なんで……お兄ちゃんが……」
「シンタローさん……」
「冗談キツイって……」
 妹であるモモも、セトも、カノも呆然と目の前にいるよく知る彼の敵意を見ているだけだ。 マリーに至っては涙目になっていた。 キドは目を見開いたまま動けずにいる。
「須郷ッ貴様――!」
 キリトが激怒しつつ、須郷を睨みつけるが須郷は意に介する様子もなくドヤ顔で笑う。
「さあ、殺せ《Fante》」
 その言葉が合図になったかのように、辺りは真っ黒な空間へと代わりシンタローは剣を構えそして、すさまじい早さで翼を使い飛び上がった。 其れに反応できたのはキリトだけで、彼は悲しそうな顔をしたまま、剣を持ち彼を追いかけるように飛び上がる。
「シンタロー! キリト!」
 上を向き、絶叫するが如くエネは叫ぶ。 二人は上で剣を交じり合わせているが、目で追えるのは剣が交じり合った際に放たれる火花のみで二人の姿は確認できない。
 一方上空で彼の猛攻を防ぎながら彼を元に戻そうと足掻いているキリトだが、必至の言葉も彼には届かず攻撃する気分にもなれず、何処へぶつけていいかわからない感情を吐き出すようにキリトは絶叫した。
「なんでだよ! どうしてこんな……」
 どうして俺がよりによって一番戦いたくなかった相棒と戦っているのだろう。 なんでこんな真似が須郷は出来るのだろう。
「シンタロー、俺だ! キリトだ!」
 そう必至に呼びかけてみるが、彼は反応しない。 こんなこと今までになかった。 出会ってから2年余り、彼が隣に居た頃は自分が呼べば彼は必ず反応をしてくれたんだ。 背中を任せられる相手はシンタローだけなんだ。 ――それなのに、なんで。
 互いの武器がぶつかり合う。 全力をいまいち出し切れていないキリトは、シンタローの力に圧倒され、地面へと落とされた。
 ノックバックで動けないキリトに向かってシンタローは真っ直ぐと降下し、剣を突き立てようとする。 ――しかし、刺さる寸前にキリトは横に転がってそれを避け、羽を使って距離をとった。 起き上がる動作に時間をとられるよりも、羽を使って飛んだほうが早いからだ。
 キリトは距離を置いて、改めてシンタローを見つめる。
 目を覆うように付けられたあの機械、恐らくあの機械がシンタローをこうさせているのだろう。 そこまでは分かっても、そこからどうすればいいのかが全くわからない。 どうしたら目の前で苦しむ彼を救うことが出来るのだろう。
「お兄ちゃん!」
 地面へと叩き落とされた兄を心配するリーファが駆け寄ろうとするが、それはコノハによって阻まれる。
「行っちゃダメだよ。 危ない。」
「でも……」
 渋るリーファに、エネが付け足す。
「無理よ。私達が出しゃばっても足手まといになるだけ。」
 そう言うエネに、モモが驚きの隠せない表情で呟くように問いかけた。
「え、エネさん……アレ本当に兄なんですか……? だって、キリト君は強いって分かってるけど、あのひょろっとしたお兄ちゃんがこんな……」
 SAOを知らないメカクシ団メンバーならきっとモモと同じことを思っているのだろう。 
「確かに、まさかシンタローさんがこんなに強いとは思わなかったっす……」
 ALOをやってみて初めて分かったが、戦闘は思った以上に難しいものだ。 SAOにはソードスキルがあったと聞いたが、この世界には其のような便利なものは存在しないのだからあれは完全に自力で動いているということになる。
「あの目元を覆っている機械の所為なんじゃないの?」
 そのカノの問いかけに答えたのは須郷だ。
「それはないよ。 だってあの機械はそんな機能つけてないからね。 あれは完全に彼自身の動きだよ。 すごいねぇ、さっすがキリト君と引けをとらない赤の剣士――シンタロー君だ。」
 赤の剣士――それは、SAOサバイバーであるアヤノ、コノハ、エネ、キリト、アスナは知っていることだが他のメンバーがそれを知る由もなく、彼らは声もあげられずに驚いていた。
「でも、ちょっとつまらないなぁ。 決着つきそうにないじゃないか。」
 そう言ってわざとらしく眉を下げながら須郷は呟く。 ふと、何かを思いついたように、須郷は宣言した。
「ペインアブソーバ、レベル0。 ブレインウォッシュレベル、最大レベル!」
 その言葉に答えるように、シンタローに付けられた機械の2つの赤い宝石が光り輝いた。 シンタローは、一瞬苦しむように身をかがめたが、直ぐに持ち直して剣を構える。
「さっさと決着をつけるんだ《Fante》!」
 そう命令するように須郷は叫び、先ほどの比ではない殺気を纏いシンタローはキリトに走りだした。
「シンタロー! やめてくれ!」
 キリトは彼の剣を受けながら、ずっと呼び続ける。 そうすることしか今は方法が見えないからだ。
「パパ! ペインアブソーバと言うのは痛覚のレベルのことです! 3以下にすると現実にまで影響をおよぼすらしいです! 気をつけて!」
 キリトのコートからちょこっと顔を出しつつユイはそう言う。
「じゃあ0ってことは……」
「今お兄ちゃんに攻撃すれば、それはお兄ちゃんのリアルの体にダメージが行きます! 範囲はこの空間内全部で、パパも攻撃を受ければリアルにダメージが帰っていきます!」
「なっ……」
 そのユイの言葉にキリトは驚きを隠せない。 迂闊に攻撃を当てれば、ただでさえ弱っている彼の元へダメージが向かうのだ。 攻撃なんて、出来るわけがない。
「どうしたらいいんだよ……」
 再び向かってきたシンタローの剣を剣で受けながらキリトは必至に策を練っていた。 しかし、都合よく浮かぶわけもなくそうこうしている間に力に圧倒され再びキリトは吹き飛ばされていた。 今回はなんとか持ち直し、壁に激突は避けたが、その一瞬の隙にシンタローは距離を詰め大きく剣を振りかぶっていた。
「やめてシンタロー!」
 絶叫するアヤノの声が聴こえる。 もう、ダメだと思ったその時俺とシンタローの間に割って入ったのはアヤノの側に付き従うように居た殿だった。
 殿はシンタローを威嚇するようにファイヤーブレスを放つ。 それに気づき、後退する彼を見てどことなく悲しそうな雰囲気になっている殿がチラリとこちらを振り向く。
「殿……」
 其の真っ直ぐな金色の瞳に、キリトは頬を二回張って剣を構えた。
「ありがとう殿。 ――そうだよな、此処で諦めちゃみんなでオフ会をやるっていう約束すら守れないもんな。」
 此処で彼に斬られるわけには行かない。これ以上、彼の傷を増やしたくはないからだ。 俺を斬ればきっとシンタローは一生其のことを悔いて生きていくのだろうから。
「リーファ! 剣を貸してくれ!」
「う、うん!」
 そう言ってリーファはキリトに向かって剣を投げる。 ナイスキャッチしたキリトは再び剣を構え、シンタローを見据えた。
 レンズ越し、遮られて見難い君のうつろな瞳が、あの時――須郷がブレインウォッシュレベルを最大に引き上げる一瞬光りを取り戻して、助けを求めるように一瞬手をこっちにのばそうとしたその仕草も、きっと俺だけに見えていたその彼の必至の助けを呼ぶ声も全部、聞こえていた。 だからこそ、キリトは此処で諦めるわけには行かないのだ。
 再び二人の剣は混ざり合う。 しかし、今のキリトにはもう一本剣があるため、それを使って目元を覆うあの機械を破壊しようとするが寸前で彼は後退し、体制を立て直し、再び向かってきた。 彼の剣を片方の剣で受け止めるが予想外の力でジリジリと後ろへと後退する。
「し、シンタロー!」
 例えこの声が届かなくても、届くまで呼び続けるだけだ。
 剣の混ざり合う音が黒い空間内に響いて、平行線をたどる戦いは続く。 互いに一歩も譲らず、しかしキリトはシンタローを傷つけることだけは出来ないので、後手に周りがちだが、シンタローはキリトを殺しに来ている為攻めまくる。 当然キリトは防ぐことしか出来ない為、できることは限られてくる。
「くそ……どうしろっていうんだよ……」
 辺りに金属音を響かせながら二人の戦いは激しさを増していく。 せめてあのシンタローを苦しめる機械を壊せれば……!
 力に押され体勢を崩した一瞬、切っ先が頬をかすめ痛みに顔を歪ませる。
「キリト君!!」
 悲鳴のようなアスナの声があたりに響いて、俺は痛みを振り払うように顔をブンブンと振り、シンタローの方を向いた。
「え……?」
 きっと、見えたのは俺だけなのだろうその変化。 機械に遮られてわかりにくかった君の表情がやっと見えた気がする。
「シンタロー……」
 彼は泣いていた。 左目から一筋の涙が頬を伝っていたのだ。 しかし、本人はそれなど気にも止めずに剣を構えている。 其の姿を見て、キリトは確信した。
「そうか、辛いんだな。 助けて欲しいんだよな。 ――待ってろ、俺が今お前を楽にしてやる!」
 そう宣言して、キリトは真っ直ぐにシンタローの元へと走りだした。
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