メカクシ団がALO入りする話【12】
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 一方、キリト達のいるドーム内では奇妙なことが起こっていた。 一瞬にしてガーディアンが姿を消したのだ。
「何が起こっているんだ……?」
 嫌な予感がしたキリト、辺りを見回すがだだっ広い空間に何も居ない。
「キリト君、ダメだ下のドアがロックされてて開かないよ!」
 そう言うカノの声がして、そしてもうバレているのだと悟る。
「須郷……俺達をここから出さない気か……?」
 そう呟いたその時、バサッと羽ばたく音がして現れたそれに皆は絶句した。 自分たちの持つ羽とは違う天使っぽい白い羽、もしかしてこれは。
「まさか、これアルフ?」
 この上に行き、妖精王オベイロンに最初に謁見できた種族が転生するというアルフが目の前にそして、敵として出てきたのだ。
 嫌な予感が止まらないが、目の前の敵をどうにかしないと先へ進ませてくれないようだ。
「足止めか……こんなことしている暇は無いっていうのに……ユイ、アルフは俺達が何とかする。 だからこれを使ってゲートをどうにかしてみてくれないか?」
「これ、ママが落としてくれた……分かりました! やってみます!」
 ユイはそう答えると、キリトからカードを受け取り上へと羽ばたいていく。 キリトは武器を構えながら敵の特徴を見る。
 白い羽をはためかせ、手には長いランスだ。 あのリーチの長いランスが厄介だが、アレの動きを止められたならそう苦労はしないはずだ。
 しかし、特殊攻撃系がどう来るか全く予想が出来ないため油断は禁物である。
「皆、ユイがゲートを開ける間こいつの相手をするの手伝ってくれないか?」
「お兄ちゃん、私は護衛に徹するね。」
「ああ、ありがとうリーファ。」
 短く会話をした後リーファは後退していく。
「キリト、前衛は私とアンタとアヤノとコノハね。 その他の連中は私達がもしも滞空時間が切れた時用に下で待機。」
「ああ、そうだな。 ――じゃあ、行こう。」
 そのキリトの言葉に頷いたアヤノ・エネ・コノハは先人突破のキリトの後を、武器を握りしめながら追いかけていく。
 まずキリトがリーチの長いランスを剣で受け止める。 その隙を見計らい、エネとコノハが左右から斬りに掛かり、アヤノは真上から斬りに行く。
「クソッ、重すぎる……」
アルフのランスの一撃の重さを何とかして受け止め、弾き飛ばされたキリトだがHPは半分まで消え失せて、イエローとなっていた。 それを見たヒヨリは腰に付けてある笛を取り出す。
「ヒヨリ?」
「話しかけないで。」
 釣れない返事を近くに居たヒビヤに返し、ヒヨリは息を吸ってその笛を吹き鳴らした。
 その笛の音は、ドーム状になっているこの空間内でよく響き全員のHPを半分以上まで回復させる。
「す、すごい……」
「ありがとうヒヨリ!」
「どういたしまして!」
 回復をしてくれたヒヨリに笑顔でお礼を言いつつキリトはまた飛び上がっていく。
 それを見送りつつ、ヒヨリは他3人のHPを確認した。
「アルフが敵として出てくるなんて……」
そう呟いたのは、近くに居たリーファだ。
GM――ゲームマスターはどうしてこんなことをしてまで上に上げたくはないのだろうか。 一体この先には何があるのだろう。
「パパ! 開ける準備整いました!」
 其の矢先のこと、ユイの言葉がドーム内に響き渡りキリトは近くに居たアヤノと目を合わせ頷き合う。
「皆、ユイの元へ行け! こいつは放っておいていい!」
 そのキリトの言葉に皆は頷き合い飛んで行く。 アルフの動向を最後まで見ていたキリトが到着するとユイは言った。
「皆さん、手をつないでください。 まとめて転送します。」
 其の言葉を受けて、皆は手をつないだ。 キリトがユイと手を合わせ、ユイは目を閉じる。
「行きますよ!」
 ユイの言葉が響いた次の瞬間、パチっと目を開ければそこは無機質な白い廊下がどこまでも続いている場所だった。
「此処が……世界樹の上……?」
 リーファが呆然と呟く。 思い描いていたものとは随分違うからだ。
「パパ! ママが居ます!」
 キリトの懐でユイはバッと顔を上げそう叫ぶ。 その言葉にキリトは立ち上がり、辺りを見回した。
「ユイ、案内できるか?」
「はい!」
「皆、行こう!」
「うん!」
 キリトの言葉に皆して頷き、無機質な白い廊下を走りだした。 暫く走り、見えてきたのは近未来的なドア。 其のドアにユイは軽く触れるとその扉は音を立てて開き、その先に広がっていた光景は先ほどの無機質なものが嘘のような幻想的なものだ。 本来ならあそこのゲートの先にはこのような光景が広がっていなければ行けなかったのだろう。
「ママはこの先にいます!」
 果てしなく広がる樹の道をキリト達は走りだした。 数分走り、見えてきたのは金色の鳥の籠のようなものだ。 まるでお伽話に出てきそうな風貌のその籠に恐る恐る近づいてみれば中には会いたくてたまらなかった愛しい人の姿があった。
「アスナ……!」
 キリトが名前を呼べば、机に突っ伏していたアスナはハッとして慌てて立ち上がり入口の方へと目を向ける。
「キリト君……?」
 その声を聞いた瞬間、色々な感情がこみ上げてきた。 それを必死に抑え、キリトは笑う。
「ママ! 今此処を開けます!」
 そう言うとユイは軽く扉に触れた。 其の瞬間、ドアは音を立てて開いており、間を開けずにキリトが籠の中へと入っていく。
「ユイちゃん……キリト君!!」
 もう我慢など出来なかった。 皆の目を憚らずにキリトとアスナはこれでもかというくらいに抱擁を交わし、キスを交わし、皆の前でひたすらいちゃつく。
「……アスナ、ちょっといい?」
 その空気の中で、アヤノは切羽詰まった表情で口を開いた。
「あ、アヤノ!? どうしたの?」
「……ねぇ、アスナ。 シンタロー、見なかった?」
 アヤノの言葉に、アスナの表情は凍りついたように思えた。
「……どういうこと? シンタローさんも……囚われていたの?」
 アスナの問に答える者は誰も居ない。 しかし、その無言こそが答えだろう。 先ほどの空気は何処へやら、嬉しそうな表情を消してアスナは拳を握った。
「ごめんなさい……私は見ていないわ……でも、心当たりはある。」
 そのアスナの言葉にアヤノはバッと顔を上げ、縋りつくようにアスナの手を握る。
「お願い! 案内して……!」
「ええ。 皆、行きましょう!」
 感傷に浸ることも無く、アスナは鳥籠を小走りで出て行く。 キリトは慌ててその後を追いかけ、それにメカクシ団も続いた。
 きた道を戻るが如く、走り抜けて再びあの無機質な廊下を走り抜ける。 アスナが何処へ向かっているのかは分からないが自分たちは着いて行くのみだ。
「……アスナ下がれ!」
 瞬間、何かに気づいたキリトが声を上げる。 さすがの閃光といったところか、素早く反応しその場でばっど後ろに下がる。
「……向こうから誰か来る。 カノ、セト、アスナを頼む。」
「了解っす。」
「任せて。」
 即座に返事をして、カノとセトはアスナを守るために彼女の隣に立ち、武器を構えた。 それを見て他のメンバーも即座に武器を構え、戦闘出来るように待機する。
「侵入者はやっぱり君たちか。」
 その声は静かな廊下で、何も遮ること無く自分たちの耳へと届いた。 コツ、コツと廊下を堂々と歩く音があたりに響き、その男は姿を現す。
「――ダメじゃないか、ティターニア。 また抜けだしたのかい?」
 ティターニア、それは恐らくアスナのことだろう。 そんなこと今はどうでもいい、それよりも今大切なのは目の前にいるこの男が誰なのかということである。
「……須郷ッ!」
 そう怒りの篭った声でアスナは目の前にいるきらびやかな男を睨みつける。 その言葉にわかりやすいくらいに反応した男は人差し指を立てて左右に振りながら言う。
「この世界で其の名前を呼ぶのは止めてくれるかなぁ。 妖精王オベイロン陛下と、そう呼べ!」
 最後の方は半ば絶叫に近い形で須郷は高らかに宣言した。 その宣言内容に呆れつつ、キリトは武器を構える手を緩めること無く睨みつける。
 姿形は違えど、キリトには目の前の男が須郷に違いないことを直感していた。
「貴方のしていることは許されないわよ!」
 そうアスナが怒るが、須郷は其のことを気にもとめずに笑う。
「誰が許さないのかなぁ? 君達かい? それとも、神様かな? この世界に神は居ないよ? だって僕が神様だからねぇ。」
「――卑怯者! 早く皆を開放しなさい!」
 アスナの怒声が響くが、須郷はそれを意に介する様子もなくニヤリと微笑んだ。
「だったら力尽くでやってみるといいよ! 出来るならだけどね!」
 ゲームマスターの権限を持っている須郷は自信たっぷりに胸を張りながら、声を轟かせた。
「須郷……ッ」
「威勢がいいのは結構だが、君たちは僕に勝てるとでも思っているのかい? まあいいや、君たちが一番気になっていること教えてあげてもいいよ?」
 その言葉に、キリト達は反応を示す。 やはりこの男は全ての元凶のようだ。
「君たちのもう一つの目的はシンタロー君を助け出すことだろう? そのくらい直ぐに察しがつくさ。 僕だってバカじゃないからねぇ。 まあ、いいや。 会わせてあげるよ。 彼に。」
「え……?」
 須郷の言葉に、キリトは拍子抜けしてしまう。 しかし、その一方で嫌な予感がした。 こんな簡単に須郷が返すとは思えなかったからだ。
「おいで――《Fante》」
 小声で呟かれた其れ、きっと頭のいい彼ならば気付けただろうその単語の意味は今の私達にはピンとくるはずもなく、疑問符を浮かべるだけだ。
 暫くして、須郷の後ろのほうから足音が響く。 彼の影に隠れてうまく見えないその人物は、彼の後ろに来るなり傅いて忠誠を誓うが如くひれ伏した。
「お呼びでしょうか、オベイロン陛下。」
 凄く聞き覚えのある声でそう言葉を紡ぐ彼は、見間違えるはずもない私達が会いたくてたまらなかった如月伸太郎その人だった。
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