メカクシ団がALO入りする話【11】
+bookmark

 ユイ曰く、瞬間的な突破なら可能らしい――と、分析結果が出た。 しかし、キリト独りが突破してもダメなのだ。 キリトに加え、メカクシ団全員があの包囲網を突破しなければここまできた意味が無い。
「キリト、私たちのことは心配しないで。 それなりに鍛えてきたし、大丈夫よ。 仲間を信じなさい。」
「エネ……」
「私達はシンタローを助けるためにここまできたの。 助けるまで終われないわ。」
 そのエネの言葉にメカクシ団メンバーは確かに頷いた。
「お兄ちゃん、行こう。 どこまでも着いて行くよ。」
「ああ、そうだな。」
 大きな扉の前で互いに健闘を誓い合うと、前を向いた。

 
 キリトは先陣を切るように、羽で飛び立つ。 個々の戦闘力はそう高くは無いのに、この異常なポップ数のせいでクリア不可能レベルなのではないだろうか。
 飛ぶ速度がメンバーの中で早めであるキリトとエネが急上昇し その他のメンバーはキリトとエネについていきつつ、ガーディアンを切り捨てて行く、マリーはヒールスペルを唱えつつ、置いていかれないように飛ぶ速度を限界まであげていた。
 レコンはサポートに徹するために、独り飛ばずに地面でヒールスペルの詠唱中だ。
「拉致があかないな……ッ」
 随分と時間が経った頃、キドは呆れながらそう呟く。 未だに頂上にすら辿りつけていない。 やはりこの人数では不可能なのだろうか?
「キドッ」
 後ろから近づいてきた敵、わずかに遅れる反応――だが、間一髪でカノが割り込みそのガーディアンは消滅した。
「悪い、カノ。 助かった。」
「背中は僕に任せて。 だからキド、僕の背中は任せたよ。」
「任せろ。」
 周りはガーディアンで一杯だが、なぜだか悲観的な気分にはならない。 背中から伝わる温もりがあるからだろうか。
「にしても、この数……本当滅茶苦茶っすよ!」
「か、回復が追いつかないよ……!」
「マリーは俺が守るっす、安心して護衛に徹するっすよ!」
「うん!」
 近づく敵は杖で殴り、蹴散らし、詠唱をするマリーを守るようにセトは斧を振るう。 ちなみにだが、セトが持っている斧――実は此れ、彼がルグルーに行く最中に出会ったモンスターのドロップ品なのだが、此れが中々レアなシロモノなのだ。
「ヒビヤッ後ろがら空き!」
「ご、ごめん!」
「ヒビヤくん大丈夫!?」
「大丈夫だよ! ほら、おばさん! よそ見しない!」
 そう言いつつヒビヤがモモの後ろに迫ったガーディアンを切り捨てる。 リーファもまた必至にキリトの背を追いながら敵を切り捨てていた。
「リーファちゃん……僕、よくわからないんだけど……これ、大事なことなんだよね?」
「――そうよ。 今だけはゲームじゃないの。」
「皆には敵わないと思うけど、ガーディアンは僕が何とかするよ。」
 そう言うとレコンはコントローラー片手に地面を蹴り、真っ直ぐに敵に向かっていく。
「ばっばか!」
 気づいた時にはもう追いつける距離ではない。 レコンは一体何するつもりなのだろう。
 彼は覚束ない飛び方で、敵をなぎ倒しながら上へと登っていく。
「レコン……もういいよ!外に逃げて!」
 戦闘中、外へ出てしまえばこの戦闘が続いている限りなかに入ることは出来ない。 後は私達で何とかするしか無い――そう考えリーファは追おうとする。
 しかし、レコンは引こうとはしなかった。 それどころかちらりとリーファの方を振り返り決意の篭った眼差しのまま微笑むと、敵の方に向き直り詠唱を始めた。 エフェクトが体を包む。
「……ッ!!」
 そのエフェクトが闇属性魔法のものである事に気づき、息を呑む。 余り馴染みのないスペル故に、何の効果をもたらす魔法なのか判断が出来なかった。
 弾ける閃光――そのあまりの眩しさにリーファは顔をそむける。 地面が揺れそうなほど大きな爆音が辺りに響き、視界がホワイトアウトした。
 それから視界が回復したのは1秒ほどで、リーファは魔法効果の強さに絶句していた。 あれだけ密集していたガーディアンが穴が開いたように居なくなっていたのだ。
 すかさず彼に賞賛の言葉を送ろうとしたが、彼の姿は何処にもない。 ただ小さな炎が揺らめいているだけである。
「自爆魔法……?」
 メカクシ団メンバーも、キリトもそして、リーファも彼の居た場所を呆然と見つめることしか出来なかった。 これはゲーム、しかし死亡することによって発生するデスペナ――デス・ペナルティは本物の犠牲である。 もう、後に引くことは出来ない。
 彼の犠牲をムダにしないためにも此処を突破しなければ――。
 しかし、その決意は彼がやっとの思いで開けた穴を再び埋め尽くすガーディアンに阻まれる。 流石にここまで来るとやる気が失われていくようだ。
 初めてGMに対して本当に怒りがわいた瞬間でもあった。
 もうダメだ――そう思って瞳を瞑る。
 後ろからファイヤーブレスがリーファの居る所を過ぎ、ガーディアンに当たった。
「飛竜……!」
 思わず涙ぐんでしまった。 なんというベストタイミングで援軍が来るのだろう。
「すまないな、遅くなった。」
「ごめんネーレプラコーンの鍛冶匠合を総動員して人数分の装備と竜鎧を鍛えるのにさっきまでかかっちゃったんだヨー。 スプリガンの彼から預かった文も合わせて、うちもシルフも金庫すっからかんだヨ!」
「つまり此処で全滅したら両種族とも破産だな。」
 腕組をしながらサクヤは涼しげに微笑む。 まさか、来てくれるとは思わなかった。
「ありがとう……ありがとう……!」
「さあ、行けリーファ。 背中は私達が守る。」
「うん!」
 そう確かに返事をしたリーファは急いで飛び上がる。
「お兄ちゃん、皆、行こう!」
 リーファの言葉に皆して頷いて、武器を構えた。 此処から先は先へ行くことのみ考えればいい。 背中はサクヤ達が護ってくれる。
「ドラグーン隊、ブレス用意!」
「シルフ隊、エクストラアタック用意!」
 背後にそう叫ぶアリシャさんとサクヤの声が聞こえた。 私達は前に進むだけだ。
「リーファ、少し剣を貸してくれ。 俺が先人突破する。 お前は俺の後ろを離れるなよ。」
「うん!」
「エネ、コノハ、アヤノ、サポートを頼む。」
「任せて。」
「君は前だけを見て飛んでて。」
「全力で私達は君の背中を守るから。」
 エネがニヤリと笑い、コノハはその隣でやわらかな笑みを浮かべ、アヤノは強い決意の篭った目でキリトを見つめた。
「頼む。 さあ、行こう。 世界樹の上へ!」
 そのキリトの宣言に、メカクシ団メンバーは頷いて武器を握りしめた。
 リーファから借りた剣と、大剣を器用に使いガーディアンを切り捨てていくが、ガーディアンの数は増える一方である。 そのキリトをサポートしつつ後ろから着いて行くメカクシ団は、彼の取りこぼした敵を各自の武器で切り捨てる。
 瞬間、何かに気づいたセトが右手を敵の方へとかざし早口で詠唱を始めた。 何をするのか感じ取ったカノはキドと目配せをして、彼の詠唱を邪魔させないように動く。
「キリト君、セトが道を開けるから君はそのまま突っ込んでいって!」
「ああ!」
 キリトの前まで迫っていたガーディアン大群、だがキリトは止まること無く剣を構えたまま突き進む。 数秒後、詠唱の終わったセトから炎の玉が放たれ前方のガーディアン大群に大穴が開いた。 それを広げるように飛竜によるブレスが放たれる。
「行け!」
「行って!」
 サクヤ、アリシャ・ルーがそう叫ぶ。 その言葉を振り返らずに受け止めキリト達はガーディアンの大群に出来た大穴をくぐり抜けた。
 それを確認したサクヤは叫ぶ。
「全員反転、後退!」
 その声でシルフ隊、ドラグーン隊が身を翻していった。

 一方、キリト達の前には巨大な円形状のゲートが立ちふさがっていた。 普通なら此処で音を立ててこのゲートは開かれるのだろうが、一向に開く気配はない。
「――ユイ、どういうことだ?」
 その声に、上着のコートのポケットに隠れていたユイが顔を出し、そのゲートを小さな手で触る。
「パパ、この扉はクエストフラグによってロックされているのではありません! 単なるシステム管理者権限によるものです!」
「どういうことだ!?」
「つまり、この扉はプレイヤーには絶対に開けられないということです!」
「なッ……」
 そのユイの言葉に一同絶句することしか出来なかった。

 世界樹の上、そこにいる者達の間では”ラボ”と呼ばれているそこの主は今大変機嫌が良かった。
 なぜなら、自分の命令に忠実に従う下僕を手に入れたからだ。 ――とは言っても、まだ不完全な状態のためもう少し調整は必要だが。
「ボス、ゲートに例の連中が来ています。 この状況だと後数分後にはラボに侵入されるかと。」
 その報告が入ったのは最終調整をしていた時だった。 もうあそこまで来たのか――なんて考えるより先に須郷は命令を下す。
「ガーディアンを停止、ドームの扉の鍵をロックしろ。 そこにアルフを放て。 数十分くらいの時間は稼げるだろう。」
「分かりました。」
 その部下からの連絡を切った後、須郷は改めて目の前にいる彼を見下ろした。
「さあ、もう少しだよ。 僕の――僕だけの下僕《Fante》」
 歪に歪んだ笑顔、その笑顔の前に居たのは一体誰なのだろう。 その答えはもう間もなく知ることになる。
prev / next
△PAGE-TOP
HOME >> NOVEL
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -