メカクシ団がALO入りする話【09】
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 リーファの後を追いかけ、やってきたのは大きな扉のある場所だった。 巨大な扉の横には二体の像。 俺たちを見下すようなその二体の像はゆっくりと口を開いた。
《未だ天の高みを知らぬ物よ、王の城へと到らんと欲するか》
 片方の像がそう告げる。 それと同時にグランド・クエストに挑戦する者たちにはウインドウが現れていた。 最終確認というやつだ。 迷わずYesを押した俺は銅像を再び見上げた。
《さればそなたが背の双翼の、天翔に足ることを示すがよい》
 銅像のもう片方がそう言い放つと、其の大きな扉は2つに割れた。 それを合図にしたように一同は戦闘態勢へとシフトする。
「行こう、皆。」
 キリトはそう言うと、翼をはためかせ中へと入っていった。

 意を決して入ったはいいが、この最初の突入は中のガーディアンがどの程度出てくるかを見るためのものだ。 この一回で突破できるとはさすがに想っていない。
 中は予想以上にガーディアンが多く、此れは並大抵の人数じゃクリアは出来ないだろう。
 死ぬ寸前で命からがら退散し、広場で息をつく。
「あんなのむちゃくちゃっすよ……」
 武器であるハルバートを片手にセトは呆然と呟いた。
「あのガーディアンモンスターのステータスはさほど高くはありません。 しかし、出現数が異常です。 あれはもう攻略不可能な難易度に設定されているとしか……」
 キリトの上着のコートのポケットから顔を覗かせながらユイは呟いた。
「攻略不可能……」
「嘘だろ……」
 ユイの分析にキリトは悔しそうに天を睨みつけた。 どうあがこうと此処から先へは行かせてくれないらしい。
「こんな事している暇は無いのに……」
 今こうしている間にもアスナが何をされているか、そう考えるだけでどうにかなりそうだった。
「ねぇ、この人数じゃ流石にあの数は無理じゃない……? 此処は、サクヤ達の援軍を待ったほうが……」
 リーファのその言葉は最もだった。 でも、もうあまり時間がないというのは肌で感じていることで、だからこそ時間を無駄にしたくはない。
「どうして……どうしてなの……? だって、さっき見たじゃない?! あんな数こんな少ない人数で捌ききれるはずがないよ!」
「わかってるよリーファ。 でも、やらなきゃいけないんだ。」
「……そんなにアスナさんが大切!? だって、ゲームの世界で出会った人でしょ!? 相手の気持ちが本物だってなんで分かるのよ!」
「いいかげんにしろ!」
 その兄の声で我に返ったリーファは、自分が口走ってしまった最低な言葉を思い出し兄から瞳を逸らした。
「ごめんなさい……」
 それだけを呟いて、リーファはメニューを呼び出しログアウトしてしまった。
「お、おいリーファ! すまん、ちょっと行ってくる!」
「キリト君! ……あまり、怒らないであげてね?」
 そうアヤノに心配そうに言われ、キリトは間を開け頷いて、メニューを呼び出しリーファの後を追いかけていく。
 再び目を開け、見慣れた自分の部屋の天井が目に入る。 志向が覚醒すると直ぐに和人は飛び起き、部屋を出て直葉の元へと向かう。
 締められたドアの前で深呼吸をして和人は意を決してドアをノックした。
「スグ、大丈夫か?」
「なんで、私の心配なんてするの……」
 扉越しに泣いているのだろう直葉の声が聞こえた。
「当たり前だろう、兄妹なんだから。」
「兄妹……」
「そうさ、兄妹だ。」
 和人はきっとこう直葉へ告げることにより、彼女を慰めようとしていたのだろう。 しかし、この場合兄妹だと彼女に告げることは何の解決にもならない。
 だって、直葉は和人のことが好きなのだから。
 バッと、開かれた扉。 その先に居たのは涙をこらえつつこちらを睨む妹の姿だ。
「知ってるの。」
「え……?」
「私もう知ってるんだよ! 私とお兄ちゃんは本当の兄妹じゃない! ……私は其のことをもう2年も前から知ってるの!」
 其の言葉に俺は目を見開いて驚くことしか出来なかった。 俺はてっきりまだ直葉は知らないものだとばかり想っていたのだ。
「お兄ちゃんが剣道やめて私を避けるようになったのは、ずっとそれを知っていたからなんでしょ?! 私が本当の妹じゃないから遠ざけてたんでしょう?!」
 其の言葉を否定することは出来なかった。 だって、直葉が言った言葉はきっと当たっているから。
「私ね……ずっとお兄ちゃんのことが好きだった! 本当の兄妹じゃないって分かる前からずっと! でも、辛くなんて無かった! あの頃のお兄ちゃんはまだ私と仲良くしてくれていたから、だから耐えられた! でも……お兄ちゃんが私を避けるようになってから私は……気持ちに整理がつけられるって、そう思ったの! 諦めることが出来る、ってそう思った! なのに、なんで……なんで今更優しくするのよ!」
 感情が止まらない。 こんな感情を吐き出すために、母に黙っていてくれと頼んだわけではないのに。
「……こんな事なら、冷たくされたままのほうが良かった。 それなら、お兄ちゃんを好きだって再確認することも無かったのに!」
 全てを吐き出し終わって私は改めて言ってはいけない事を言ってしまったと自覚させられた。 私の言葉をすべて聞いた兄は、表情を凍りつかせる。 まるで時が止まったかのような数秒間の後、私から瞳を逸らしながら兄は口を開く。
「ごめんな……」
 ちがう、こんな事が言いたかったんじゃない。 ただ、私は――。
「もう、放っておいて……」
 これ以上兄の顔を見ていられなかった。 こんな顔をさせったかったわけじゃないのに、私が言った全てのことは兄を傷つけただけで。
 扉を閉めて、私は堪え切れない涙を乱暴に拭ってベッドに倒れ込んだ。
 SAO事件の後、兄は目に見えて明るくなりそして優しくなった。 兄が目覚めた時、私の頭をなでてくれたのを私は昨日のことのように覚えている。
 確かに無事にSAOから帰ってきてくれて嬉しかった。 だけど、埋められない2年は兄を変えた。 きっといい方向に変わったんだろう。 私も、それはとても嬉しいけど……でも、まさか兄がその二年の間に恋人を作って帰ってくるなんて誰が予想しただろう。
「スグ……、アルンの北側のテラスで待ってる。」
 ドア越しに兄の声が聞こえた。 とても落ち着いている声で、兄は告げたのだ。 この数分の間に彼は答えを出したのだろうか。
「強いね、お兄ちゃんは。 私はそんなに強くなれないよ……」
 あの時――泣いている兄を部屋で見つけた時――私は頑張れといった。 諦めちゃダメだと。 でも、今時分はこうして泣き続けている。
 ふ、とアミュスフィアが目に入った。 初めてアレを被って、違う自分になれた時私ははしゃいだ。 自分の羽で空を飛び回ることが出来た時、嬉しくて興奮もした。
 無謀な恋をしていることも、空を飛んでいると忘れることが出来た。 なのに、どうしてあの世界が、私を慰めてくれたあの世界が私を悲しくさせるのだろう。
 そう自問自答しても尚、私はあの世界が嫌いにはなれない。 今の私には兄があそこまであの世界にの魅せられた理由が解る気がした。
 起き上がり、部屋を見渡す。 特別変わった様子のない、私の部屋が見えて、変わったのは私だと自覚すると、直葉は涙を拭いてアミュスフィアを被った。
「リンクスタート。」
 答えはまだ出ていない。 でも、立ち止まるわけにはいかなかった。
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