メカクシ団がALO入りする話【05】
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 それからしばらくして、《鉱山都市ルグルー》にメカクシ団メンバーが集まった。 見る限りだと、まだキリトと彼の妹の姿はないようである。
「遅いねキリト君達……」
 辺りを見回しながらそれらしい影を探すアヤノとエネ・コノハだが約束の時間を過ぎても彼らの姿は見えない。
「あ、ねぇねぇ、さっき小耳に挟んだんだけどさ。」
 思い出したようにカノが笑顔で呟いた。
「なんか、ルグルーの入口付近でスプリガンの男とシルフの女がサラマンダーの大集団に襲われてるって。」
 其の言葉を聞いた後のことはぼんやりとしか覚えていない。
 確か、笑顔でそう言い放ったカノにとりあえず一発喰らわせて、アヤノもエネもコノハも全速力で走りだした。 尚、SAOサバイバーであるアヤノたちの全速力に今さっき始めたばかりのプレイヤーが追いつけるはずはなく、一拍置いて他のメンバーが必至に跡を追いかける。
 ついた頃にはもう事件は片付いてしまった後のようで、何があったのかわからないままポカーンとルグルー入り口付近で立ちすくむ。
「悪い、遅くなった。」
「いやいや、そんなことは別にいいけど……アンタなにやったの?」
 エネが呆れたようにキリトに言えば、反応を示したのは何故か隣にいる彼の妹で。
「ち、違うんです! お兄ちゃんは関係ないんです…… これは……えっと、その……」
 キリトの妹――リーファは、状況を簡潔に説明した。
 彼らは同じ家からログインした為、位置情報が混線し同じような場所にログインする羽目になってしまったらしい。 それから何とかしてシルフ領へとやってきた二人は、キリトの装備を整え少し休んだ後、シフル領をでてルグルーへと向かうために領の一番高い塔へと向かったその時に事件は起こった。 リーファが参加しているパーティのリーダーが彼女を引き止めるために追ってきたのだ。
 だが、リーファがあのパーティに参加するのは都合の付くときだけ、そして抜けたくなったらいつでも抜けられるという条件付きだったはずなのだ。
 それを告げて場を収めようとしたが、リーダーは《自分のパーティの中でリーファは名の通った名プレイヤー》だと言い頑なに引きとめようとしていた。
 そこで啖呵を切ったのが彼女の兄であるキリトであった。
 彼のおかげでその場は収まったものの喧嘩別れする形になってしまったらしく、リーファは領地を抜ける決意をしシルフ領を後にしたのだそう。
 だが、事件はそれだけでは済まずにまた新たに事件が起こってしまったのだ。
 事の発端はログインした時、たまたま側に居たサラマンダーのプレイヤーに勝負を挑まれた事だ。 相手はサラマンダーの男3人掛かりでキリトは強いとは言っても初期装備状態。
 その場は断り、去ろうとしたのだがそれでは満足しないらしいそのサラマンダーのプレイヤー達に痺れを切らしたキリトが秒速の如き早さで彼らを倒し、もう一人は追っ払った。
 その偉業がサラマンダーに知れ渡り、リーファとキリトはトレーサーを付けられ先ほどまで軽くリンチ状態の戦闘を繰り広げていたらしい。
「まぁ、とは言っても殆どお兄ちゃんの圧勝でしたよ。 幻惑魔法でおっきなモンスターに変身したと思ったらかじったり握りつぶしたりしっぽで貫いたり……えげつない真似するよねぇ……」
「いやいや、あれでも結構楽しいぞ?」
 そういうキリトの目はいつになく輝いて見えた。 そんな話に苦笑いをしていた時、思い出したようにキリトはリーファに言う。
「そういや、戦闘の前メッセージ届いてなかった?」
「あっ、そういえば……!」
 慌ててリーファはウインドウを確認するが、其のメッセの相手はログアウトしているらしく頭を抱える。
「何よレコン……寝ちゃったのかなぁ……」
「リアルで連絡とってみたらどうだ?」
 そのキリトの言葉にリーファは頷いて目線を皆に移す。
「そうだね、ちょっとログアウトして連絡とってみるよ。 ちょっと待っててくれる?」
 申し訳無さそうな彼女に一同は笑顔で頷いた。 それを確認したリーファは近くにあったベンチに座り、ログアウトしていく。
 リーファがログアウトした後、話題になったのはキリトのことをパパと慕い飛び回る妖精のような子のことだ。 顔をみて反応できたのはアヤノのみで、ほかは怪訝そうな顔をしてキリトを睨んでいる。
 何を隠そう、その子こそがSAO時代にキリトやアスナを両親の如く慕い、シンタローとアヤノを兄や姉と慕っていたユイなのである。
「お姉ちゃん! あえて嬉しいです!」
 そう言って元気に羽を使ってアヤノに飛びついてきた小さな子に、アヤノは感激のあまり涙を浮かべていた。
 だって、あんな最期だったのだ。 結晶となって生きながらえたとは言え、こんなに早く再会出来るなんて思っても居なかった。
「お姉ちゃん!?」
 ユイのお姉ちゃん呼びにびっくりしつつ団欒をしていた折、リーファは再びALOへとログインしてきた。 中立域のため、即落ちせずに体だけのこりベンチに腰掛けていた彼女は覚醒するなり『行かなくちゃ!』と叫びながら勢い良く立ち上がる。
 それに死ぬほどびっくりしたキリト達は、移動しながらリーファから事情を聞いていた。
 簡潔にまとめれば、先程の話に出てきたリーファの所属していたパーティのリーダーがサラマンダーに情報を売り、領主を売ったという話である。 今日この後、ルグルーの先を飛んでいった場所でシルフの領主とケットシーの領主が世界樹攻略のために条約を結ぶのだ。
 そして、その情報を売ったリーダーはその会場をサラマンダーに襲わせる気らしい。
「じゃあ今直ぐに行こう!」
 誰がそういったのかは分からないけど、其の言葉に皆同意した。 そんな皆にリーファは慌てて首を横に振る。 これはシルフの問題だし、急ぐ理由があるのだから付き合う必要はないと。
「仲間を見捨てるような真似なんて出来ない。」
 彼らは口をそろえてこう告げる。 其の言葉にリーファは感激することしか出来なかった。
 それからしばらくして洞窟を抜けた一行は飛びながらこれからどうするのかを話していた。
「リーファと俺が多分一番飛ぶのが早いだろうから、俺とリーファは先に行く。 せめて領主だけでも無事に逃がさないとな。」
「うん、行こうお兄ちゃん!」
 このメンバーの中でキリトとリーファの飛ぶ速度はずば抜けており、他のメンバーに合わせて飛んでいれば間に合うものも間に合わなくなってしまう。 だからこれでいい。
「キリト君、こっちは気にしないで! 後から必ず追いかける!」
 アヤノがキリトの目を見据えてそう言い、微笑んで頷く。 それに微笑みと頷きで返したキリトはリーファと目線で合図し、スピードを上げて飛んで行く。
「うわぁ、早いなぁ。」
 あっという間に見えなくなってしまったキリトとリーファにびっくりしつつ、アヤノはエネとコノハに目線を移し合図する。
「感激している暇は無いわよ、私達も急がなくちゃ!」
「うん!」
 エネの言葉に、メカクシ団メンバーは頷いた。 それを確認したエネは前方を見据えた。
「見えました!」
「見えたよ!」
 視力が良いというケットシーのモモとヒビヤが指をさした先を見るが、何も見えない。 しかし、彼らには見えているのだろう。
「急ごう!」
 コノハの其の言葉に皆は出来る限りスピードを上げて飛んで行く。 現場についた時、キリトは敵との戦闘中であった。
 戦闘していた相手はサラマンダーの領主の弟であるユージーンであり、彼の持つ件は魔剣と称されるもので、《エセリアルシフト》という剣や盾で受けようとすると非実体化してすり抜けてくるエクストラ効果があるのだそうだ。
「そんなのってありなの……」
 エネが顔を引きつらせながら戦いを見守っていると、キリトは何やら魔法を発動させた。
 辺りに立ち込める黒い煙のおかげで周りが全く見えない。 一体この状況にして彼は何をしようというのだろう。
「時間稼ぎのつもりかぁ!」
 ユージーンのその叫びが辺りに轟くまもなく、黒い煙は引き裂かれ消え失せていた。 辺りを見回すメカクシ団メンバーだが、キリトの姿が見えない。
「まさかアイツ逃げ……」
 誰かがそういうのが聞こえた。 それに素早く反応したのは彼の妹であるリーファだ。
「あれ、リーファ貴方の剣は……?」
 エネはふと、リーファの腰にあったはずの武器が無いことに気づく。 リーファはそれに微笑みで答えると、エネは察する。
「ああ、なるほど……じゃあもう勝ったも同然ね。」
 彼の真髄である二刀流ならば、あのユージーンにも勝てるだろう。
「でもキリト君は何処に……あっ、皆上!」
 コノハがあたりを見回していると、ばっと頭上を見上げ指さした。 太陽の性で見づらいが、確かに彼は居た。 太陽を背にして真っ直ぐとユージーンへと降下している。
 このALOに置いて最も強いライトエフェクトを生み出すオブジェクト、それは太陽だ。 彼はそれを目眩ましにしたのだ。
「キリト君!」
 リーファは思わずそう叫んだ。 他の人が居る前で、兄と呼ぶわけにはいかなかったからだ。
 しかし、敵からすれば苦し紛れに剣を二本持ちだしたようにしか見えないだろう。 今までALOに置いて二刀流の概念が無かったわけではないが、挑戦したプレイヤーは皆挫折したのだ。 それほど二刀流は難しい物なのだ。
 だがキリトは違う。 SAOでの彼は二刀流を我がものとし、ボスへと向かっていったのだ。 あのソードスキルが扱いにくい物なのも彼から聴いて知っている。
「やっちゃえー!」
 そうアヤノが叫んだのを耳にしながらキリトは二本の剣を巧みに連携させユージーンを斬る。
「うおああああああああ!」
 彼の叫びが地上に立つアヤノたちにも聞こえてくる。 ユージーンは彼の剣に貫かれたまま彼の装備の効果なのであろう炎の壁を半球状に纏うとキリトをわずかに押し戻した。
 ユージーンは自身の持つ魔剣を大上段に構え、真正面に打ち込んだ。
 しかし、キリトは臆すること無く突進で距離を詰め先ほど借りたリーファの長剣をすさまじい早さで振り下ろす。 甲高い金属音が辺りに響き渡る中、眩い火花が円弧状を描き、ユージーンの魔剣の《エセリアルシフト》が発動するよりも早く、剣の側面を弾かれユージーンの攻撃はキリトの左肩を掠めて背後へと流れた。
「らあああああああ!」
 キリトの叫びが轟く中、彼の剣がユージーンに真っ直ぐと打ち込まれ彼を貫く。
 彼の素早い動きと、双方の突進のスピードが相まってそれは凄まじいダメージとなってユージーンを襲い、イエローゾーンへとHPは削られる。
 しかし、彼の動きは止まらない。 右手に持つ大剣を素早く引き戻し、左手に持つ長剣で誰に目にも捉えられないであろう速度で連続技を浴びせた。 あっという間に4回も浴びせた彼の攻撃にさすがのユージーンも驚くことしか出来ない。
 直後、彼の体は右肩から左腰にかけて斜めにスライドし、正方形の光が司法へと飛散し、エンドフレイムを巻き上げユージーンのアバター全体が燃え崩れる。
 誰一人として身動きも取れないほどの光景が目の前には広がっていた。 ハイレベル過ぎる戦闘故に、皆魂の抜かれた人形のように身動きせずに宙を見上げている。
 最初に其の沈黙を破ったのはシルフ領主のサクヤだった。
「見事!」
 その声に続くようにケットシー領主も声を上げる。
「すごーい! ナイスファイトだよ!」
 その声で我に返った観客たちは、それぞれに歓喜の声をあげていた。
 通常のALOでの戦闘は、近接戦闘ならば武器を振り回し遠距離戦闘ならば魔法を撃ちこむだけのおもしろみのないものであった。 しかし、先ほどのユージーンとキリトの戦いはそのどちらにも属さない見事な剣舞で、その戦闘は男たちを燃え上がらせるのには十分である。
 其の証拠に、敵であるはずのサラマンダーのプレイヤーたちはリーダーが討ち取られたにも関わらず笑顔で先ほどの戦闘を拍手で称えていた。
「やぁ、どーもどーも!」
 賞賛の的であるキリトは気さくな仕草でくるりと一礼すると、リーファたちの方に向かって叫んだ。
「誰か蘇生魔法を頼む。」
 その声に答えたのはシルフ領主であるサクヤだった。 彼女の魔法により組成したユージーンは素直にキリトの強さを認めた。
「――見事な腕だな。 俺が今まで見た中で最強のプレイヤーだ。」
「それはどーも。」
「貴様のような奴がスプリガンに居たとはな。世界は広いということか……」
「俺の話、信じてくれる?」
 其の言葉にユージーンは沈黙した。 数分の沈黙を破ったのは、キリトと対峙し唯一逃げ延びた男だ。
「ジンさんちょっといいか。」
 そう言ってその男はキリトの言葉を裏付ける言葉を放つ。
「――そうか、そういうことにしておこう。」
 ユージーンはそう言い、微笑んだ。 彼だって此処でシルフ・ケットシーに加えスプリガンまで敵に回したくはないのだろう。
「しかし、貴様とはいずれもう一度戦うぞ。」
「望むところだ。」
 キリトとユージーンは互いの拳をゴツンとぶつけあうと、身を翻して帰っていく。
 サラマンダーの大群の後ろ姿を見ながらキリトは笑いながら言う。
「なんだ、サラマンダーにも話のわかる奴がいるじゃないか。」
「もう、おに……キリト君、むちゃくちゃだよ……」
「よく言われるよ。」
 そう言って二人で笑い合っていると、サクヤが近づいてきて状況説明を頼んでくる。 当たり前だろう。
 其の言葉にリーファは慌てて説明を始めた。
「……なるほどな。 ここ何ヶ月かシグルドの態度に苛立ちめいたものが潜んでいるのは私も感じていた。 だが、独裁者とみられるのを恐れ合議制にこだわるあまり、彼を要職に置き続けてしまった……」
「サクヤちゃんは人気者だからねー。」
 ケットシーの領主、名をアリシャ・ルーが笑顔でそう言う。 リーファはサクヤの言葉に首を傾げた。
「苛立ち? 何に対して……」
「多分……彼には許せなかったのだろうな。 勢力敵にサラマンダーの後塵を拝しているこの状況が。 シグルドはパワー志向の男だからな。 キャラクターの数値的能力だけではなく、プレイヤーとしての権力をも深く求めていた……。 ゆえに、サラマンダーがグランド・クエストを達成してアルヴヘイムの空を支配し、己はそれを地上から見上げるという未来図は許せなかったのだろう。」
「で、でもだからってなんでサラマンダーのスパイなんか……」
「もうすぐ導入される《アップデート5.0》の話は聞いているか? 遂に《転生システム》が実装されると言う噂がある。」
 転生システム、それはグランド・クエストを達成し最初に妖精王に謁見した種族が高位種族《アルフ》に生まれ変わり、飛行制限が解除されるというものだ。
「ああ……じゃあ……。」
「モーティマーに乗せられたのだろうな。 領主の首を差し出せばサラマンダーに転生させてやると。」
 其の話を聞いてリーファは複雑な思いで、傾きつつある陽を見上げた。
「それで……どうするの? サクヤ。」
 そのリーファの言葉にサクヤは顔を顰め、アリシャ・ルーに目線を移して言う。
「ルー、確か闇魔法スキルあげていたな?」
 そのサクヤの言葉にアリシャ・ルーは大きな耳を動かしながら頷いた。
「なら、シグルドに月光鏡を頼む。」
「いいけど……まだ夜じゃないからそんなに長くはもたないヨ?」
「構わない、すぐ終わる。」
 其の言葉に、アリシャ・ルーは数歩下がり詠唱を始めた。 耳慣れない闇属性のワードが続々と放たれていく。
 暫くして発動された月光鏡で、サクヤはシグルドに話しかけた。
「シグルド。」
 その声で領主の部屋の椅子で呑気にお酒を飲んでいたシグルドはわかりやすいくらいに動揺している。
「さ、サクヤ……?」
 何故生きている、とでも言いたげな顔で睨むシグルドにサクヤは淡々と告げる。
「ああ、そうだ。 ……残念だが、まだ生きている。」
「な、何故……か、会談は……?」
「無事に終わりそうだ。 条約の調印はこれからだがな。 ……そうそう、予期せぬ来客があったぞ。」
 淡々と告げるサクヤに、未だに顔を強ばらせているシグルドは嫌な予感を募らせながら問い返す。
「客……?」
「ユージーン将軍がよろしくと言っていた。」
 その言葉にシグルドは漸く全てを察したようだ。 そして、視線はサクヤの後ろにいるキリトとリーファに向けられ、悔しそうに歯ぎしりをした。
「……無能なトカゲどもめ! で、どうする気だ? 懲罰金か? 執政部から追い出すか? だがな、軍務を預かる俺が居なければお前の政権だって……」
「いや、シルフで居るのが耐えられないなら、その望みを叶えてやることにした。」
「な、なに……」
 サクヤは慣れた様子で左手をふるい、メニューを呼び出すとシグルドの方へはとあるメッセージが届いていた。
 それは所謂《解雇通知》のようなもので、分かりやすく言えば追い出しますというメッセージだったのだ。 そのメッセージに血相を変えたシグルドが立ち上がりサクヤを睨む。
「き、貴様……正気か!? 俺を……追放する……だと……?」
 そのシグルドの言葉にサクヤは怒りを灯した瞳で告げた。
「そうだ。 レネゲイドとして中立域をさ迷え。 いずれそこにも新たな楽しみが見つかることを祈っている。」
 最後通告、と言わんばかりのサクヤの威勢にシグルドは何やら喚き散らそうとしたが、その前にサクヤによりシルフ領を追放され、シグルドは消え失せていた。
 その後、シルフ領内での揉め事にケットシーの領主を危険に晒したことをサクヤは丁寧にアリシャ・ルーへと謝罪した。 しかし、当の本人であるアリシャ・ルーは呑気に生きていれば結果オーライだと笑い飛ばす。 それに少しだけ救われながらサクヤはリーファに視線を移した。
「君が助けに来てくれて助かったよ、リーファ。」
「私は何もしていないもの。 俺にならこのキリト君にどうぞ。」
 リーファはスプリガンであるキリトへと目線を移した。
「そういえば君は一体……」
 その問いかけに上乗せするようにアリシャ・ルーはにやりとしながら問いかける。
「ねェ、キミ、スプリガンとウンディーネの大使って本当なの?」
 好奇心からかしっぽを揺らしながらアリシャ・ルーは問いかける。 その問いかけに、キリトは数秒間を開けて、笑い飛ばした。
「もちろん大嘘、ブラフ、ハッタリ、ネゴシエーション。」
 清々しいまでの告白にサクヤも、アリシャ・ルーもぽかんとしてしまう。
「……無茶な男だな。 あの状況でそんな大法螺を吹くとは。」
「手札がショボイときはとりあえず掛け金はレイズする主義なんだ。」
 そうニヤリと悪びれる様子もなく言ってみせるキリトにリーファは溜息を吐いた。
「おーうそつきくんにしてはキミ、随分と強いネ? ひょっとしてスプリガンの秘密兵器……だったりするのかな?」
「まさか!」
 そんなことを言いながらあくまで笑ってみせるキリトに、アリシャ・ルーもサクヤも顔を見合わせ笑う。 事の顛末を見守っていたメカクシ団も安心した様子で微笑みあった。
 ひとしきり笑った後、すっかり夕暮れ色に染まった景色を背景に改めてサクヤは礼をした。
「――今回は本当にありがとう。 私達が撃たれていれば、サラマンダーとの格差は決定的なもの担っていただろう。 何か礼をしたいのだが……」
「いや、そんな……」
 困った様子で言葉を紡ぐ兄に、リーファはなにか思いついたように一歩踏み出した。
「ねぇ、サクヤ。 今回の同盟って、世界樹攻略のためなんでしょ?」
「ああ、まあな。」
「その攻略に私達も参加させて欲しいの。 ……それも、可能な限り早く。」
 そのリーファの言葉に、二人は顔を見合わせた。
「それはこちらから頼みたいほどだが……でもなぜ?」
 リーファは、言いづらそうに視線を兄へと移した。
「俺がこの世界にきたのは世界樹の上に行きたいからなんだ。 俺の後ろにいる奴等も同じ。 そこに居るかもしれないある人と会うために……」
 その言葉にキリトの後ろにいたメカクシ団達は頷いた。
「人? 妖精王オベイロンか?」
「いや違う……リアルで連絡が取れないんだ。」
 その真剣な顔に何か思うところがあったのだろう。 アリシャ・ルーはそれを代弁するように口に出した。
「でも、攻略メンバー全員の装備を整えるのに暫く掛かると思うんだヨ……とても2日や3日じゃ……」
「そうか……そうだよな。 まぁでもとりあえず樹の根元まで行くのが目的だから……後は俺達で何とかするよ。」
 そりゃそうだ、と内心ツッコミを入れていた。 グランド・クエストに挑むのに必要な装備がすぐに揃えられるわけないのだ。
「あ、そうだ。 これ、資金の足しにしてくれ。」
 そう言うとキリトは左手をふるいメニューを呼び出してお金を実体化させると、近づいてきたアリシャ・ルーにそれを渡した。 涼しげな顔で受け取ったそれは思った以上に重たく目を丸くしながら中身を見ればそれは。
「さ、サクヤちゃん……」
「ん……?」
 怪訝そうな顔で近づいてきたサクヤはアリシャ・ルーの腕にあった袋の中身を覗く。
「十万ユルドミスリル貨がこんなに…… いいのか? 一等地にちょっとした城が立つぞ……」
 それほどまでの金額なのにキリトはなんの執着も見せずに頷いた。
「俺にはもう必要ない。」
「これだけあれば、かなり目標金額に近づけると思うヨー。」
「大至急装備を揃えて、準備ができたら連絡をさせてもらう。」
 領主二人からお礼を言われ照れた様子のキリトだが、直ぐに顔を真面目のものにした。
「よろしく頼む。」
 どうやら会談の続きはケットシー領で行われるらしく、広げられていた机や椅子は部下によってテキパキと片付けられていた。 去り際、領主二人は改めて一礼をしていく。
「……行っちゃったね。」
 その安心したようなリーファの言葉に、メカクシ団はお疲れ様と声を掛けた。
「全く、ヒヤヒヤしたわよ。」
 そう言いつつキリトをドついたエネは、ニヤリとした微笑みを浮かべていた。 それに苦笑いをしながら側に居たコノハは頷く。
「本当だよもう。 キリト君ったら消えちゃうんだもん。」
「無茶な真似するな……」
 そう言いつつ呆れているのはキドであり、カノは側で笑い飛ばしキドにパンチを食らっていた。
「まぁでも、すごい戦いだったっすね! ワクワクしたっす!」
「うん! カッコ良かったよ!」
「ありがとう、セト・マリー。」
 褒められて嬉しかったのか若干赤くなりながらキリトはセトとマリーにお礼を言う。
「本当に強いんだね!」
 しっぽを振りながらモモは目を輝かせていた。 その隣に居座るヒビヤは顔をしかめていたが、尻尾の動きでワクワクさを隠しきれていない様子だ。
「まあ、でも万事解決したみたいで安心したわ。」
 大人びた雰囲気のヒヨリが微笑みかけると、それを見たヒビヤは顔を赤くしヒヨリに気持ち悪いと一刀両断される。
「まあ、キリト君だし私は心配なんてしてなかったよ。」
 そう言って笑うアヤノに苦笑しつつ、キリトは彼女の笑顔の違和感にふと気付く。
「じゃあ、そろそろ日も落ちかけているみたいだし行こうか。」
 キリトの言葉に一同は頷き、また羽を使って飛び立つとアルンへとまっすぐに向かっていった。
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