病院を後にした一行は、研次朗の車に乗りエギルのお店へと向かっていく。
「先生はどうする?」
「俺はアヤノ、つぼみ、修哉、幸助・マリー・貴音・遥・モモの分のソフトとアミュスフィアを買ってくる。」
そう言って研次朗は運転席の窓からそう皆に言う。 すると、モモは慌てて首を横に振る。
「え、私の分も!? 悪いですよ先生!」
「――いいんだよ別に。 何万如きで子供の命が救えるのなら安いもんだ。」
その言葉に人知れず和人はかっこいいと思った。
「あ、先生ありがとー。」
「気をつけて行ってきてねお父さん。」
皆に見送られ、研次朗は車で街に消えていった。
「じゃあお店に行こうか。 この近くらしいわよ。」
地図を片手に貴音は歩き出した先に、そのカフェはひっそりと佇んでいた。
「ダイシーカフェ?」
モモは看板に書かれた文字をつっかえながらも読むと、扉を開けて恐る恐ると店の中へと入っていく。 カウンターの方を見ると、偉くガタイの良い黒人男性が立っていた。
キリトやエネ、コノハ、アヤノにはひどく見慣れた友の姿である。
「お、来たか。」
カウンターの中でコップを布巾で拭きながらほほ笑みを浮かべ、エギルは出迎えた。
「不景気な店ね。 よく2年もの間潰れずに残っていたわ。」
「うるせぇ、これでも夜は繁盛してんだ。」
貴音が店の中を見回したあと呟いた。 エギルはその貴音の言葉に苦笑を漏らしながら反論する。
そんな他愛もない会話をした後、椅子へと座り落ち着いた頃合いを見計らって貴音は口を開いた。
「エギル、これ――」
貴音はエギルに向かって、あの写真を差し出した。
するとエギルは和人にとあるソフトを渡し、語りだした。
「アルヴヘイム・オンラインというソフトだ。 意味は妖精の国らしい。 アミュスフィアっていうナーヴギアの後継機のソフトなんだが、この写真が撮られたのはこのソフトの中だ。」
エギルは和人の持っているソフトを裏返して地図を見せてまた語りだす。
「この中央にあるのは世界樹、というらしい。 プレイヤーは9つの種族に分かれてこの世界樹を目指す。 ――今このゲームが大人気なんだと。 理由は飛べるからだそうだ。」
「……飛べる?」
「ああ、妖精だから羽がある。 フライトエンジンとやらを搭載して慣れるとコントローラーナシに自由に空を飛べるらしい。 この面だけだと、ファンタジーだがどスキル制、プレイヤースキル重視。 PK推奨というハードなゲームだ。 所謂レベルは存在しないらしいな。 各種スキルが反復使用で上昇するだけだそうだ。 戦闘もプレイヤーの運動能力依存で、ソードスキルなし、魔法有りのSAOといったところだな。 グラフィックもSAOに迫るスペックらしいぜ。」
「へぇ……そりゃすごいな。」
「でもお兄ちゃん、自由に空をとぶのはコツがいるよ。 まぁ、でも! 私が教えてあげる! 私ね、こう見えて結構ALO歴長いの。 空をとぶのはお手の物なんだから!」
「へぇ、すごいなスグ。」
「選べる種族は中にある説明書に書いてあるが、まぁキリトならスプリガン選ぶんじゃないか?」
試しにパッケージを開いて説明書を取り出し、中を確認して妙に納得した。 スプリガンは全体的に黒でまとめられた種族なのだそうだ。
「俺はこれでいいや……」
早々に選ぶ種族を決めた和人は説明書を貴音に手渡した。
「皆種族どうする? 私シルフでいいや。」
「僕もシルフがいいなぁ。」
貴音と遥はあっさりとシルフへと決まったらしい。
その後、黒に惹かれたキドはキリトと同じスプリガンを選び、カノはキドと同じ種族を選ぶと思いきや、インプを選んで其の理由をカノは自分に合いそうだからという理由を語った。
モモはネコミミとしっぽに惹かれてケットシーを選び、日和から直々にモモと一緒にいて彼女を援護しなさいと命令を受けたヒビヤも又モモと同じケットシーを選んだ。
セトは、赤に惹かれたのかサラマンダーを選び、マリーはウンディーネを選んだ。
「魔法頑張って覚えて皆をサポートするね!」
「で、でもマリー一人で大丈夫っすか?」
「じゃあ私ウンディーネ選ぶよ。 マリーちゃんよろしくね!」
「よ、よろしく!」
ぱああと明るくなったマリーの表情にセトは安堵した様子だった。
そんな二人を横目に日和は説明書に書いてある種族の中から手早く選ぶと、宣言した。
「じゃあ私はプーカね。 ゲーム内での待ち合わせ時刻と場所はどうするの?」
「私良いところ知ってます。 中立域ルグルーっていう所があるの。 そこに集合ってのはどうかな。 場所は……」
直葉は身を乗り出して指を使い場所を示す。
「じゃあ各自、何とかして定時までにルグルーに行くってことでいいな?」
和人の其の言葉に一同は頷いた。
「ソフトとアミュスフィア持ってないから買わないとな……」
そういって立ち上がる和人に、エギルはアルヴヘイム・オンラインと書かれたソフトのパッケージを投げ渡し、微笑んで言う。
「ソフトはやるよ。 ちなみにこれ、ナーヴギアでも動くぞ。 アミュスフィアは単なるあれのセキュリティ強化版でしか無いからな。」
「それは助かるな。」
「シンタローとアスナを助け出せよ。 じゃないと俺達のあの事件は終わらない。」
「ああ、いつか此処で皆でオフをやろう。」
そんな数との言葉に、エギルは頷いた。
「そうね。オフ、やりたいわ。」
「今から楽しみだなぁ。」
貴音と遥がそれに続いて決意したように頷く。
「シンタローとアスナは私達が絶対に助けるから安心して!」
「そうですよ!お兄ちゃんは私達が助けます! ね! ヒビヤくん!」
「ちょ、オバサンくっつかないでよ!」
アヤノが頷き、エギルに視線を移して微笑んだ。 モモとヒビヤはまたじゃれ合いを初め、そんな二人に和みながら、他のメカクシ団メンバーも頷きあってワクワクしながら話し合いをはじめた。
「頑張れよ。」
皆が店から出て行く間際、エギルは再びエールを送る。 そのエールに皆して頷いて答え、そして店を後にした。
「さて、じゃあ俺とスグは此処で。 ――定時に、ルグルーで待ち合わせで良かったよな?」
「ええ。 それまでに何とかしてALOのシステムに慣れて戦闘もある程度こなせるようになっておかなくちゃね。 私達はともかく、VRMMO初心者な子達もいるから定時通りに行けるかって言うと微妙な所だけど……」
そんな貴音の心配に笑顔で心配ないと答えたのはセトである。
「大丈夫っすよ貴音さん! なんとかしてみせるっす!」
「俺達なら大丈夫だ。 マリーも、姉さんが付いてくれるみたいだしな。」
「なんとかしてみせるよ。」
キドもカノ・ヒビヤ・ヒヨリもそう言って気丈に笑ったのを確認した和人と直葉は顔を見合わせ頷いた。
「じゃあ、俺達はこのくらいで。 行こう、スグ。」
「うん! じゃあ、皆さん此れで失礼します!」
礼をして、二人は帰っていく。 それを見送った一同は顔を見合わせて頷いた。
「じゃあ私達も急ごう。 さっき先生から連絡来て、さっきのところで待ってるって。」
スマートフォンを確認した貴音が、誘導するように走りだした。
「俺とカノ、セト、マリーはアジトでログインする。 姉さん、ヒヨリ、ヒビヤ、貴音さん、遥さん、モモは各自家でログインしてくれ。」
キドは説明書に目を落としつつ、皆にそう言いくるめる。 それに頷きながら、貴音は付け足した。
「戦闘の方は、各自無理しない程度にこなしておくようにね。 世界樹攻略となると必然的にそれなりの戦闘力は必要になってくるから。 基本的にはSAOサバイバーである私達がサポートするから。」
「ちなみに言うと、私は槍、貴音さんはダガー、遥さんは大剣をそれぞれ使うよ。」
貴音の言葉に続けたのはアヤノだった。 其の言葉に、一同は脳内で何の武器が自分に合うかを思案している。
「マリーちゃんは近接戦闘には向かないから、後方支援専門ってことで、杖でいいと思う。 ウンディーネが使う主な魔法の呪文はさっきネットで調べて来たから、マリーちゃんのスマートフォンに転送するね。」
遥が端末を操作しながら、マリーに話しかければ彼女はきりっとした表情で頷いた。
「頑張る!」
「ねぇ、アヤノさん。 お兄ちゃんはどんな武器を使っていたんですか?」
ふと疑問に思ったことをモモがアヤノへと問いかける。
「シンタローは、楯無の片手用直剣。 SAOで使っていたのは《FlameDear》っていう名前の剣だよ。 キリト君……じゃなくて、和人君も普段は楯無の片手用直剣なんだけど、後半は二刀流だったなぁ。」
「二刀流なんてあるんすか!?」
アヤノの言葉に驚いた様子でセトが目をキラキラ輝かせていれば、それにツッコミを入れるように貴音が割って入る。
「アイツ専用よ。 SAO内でも随一の反応速度を持つ者が二刀流スキルを修得するって言ってたっけ……」
「か、和人さんってすごいんすね……」
「シンタローも負けてなかったんだから!」
感心したように和人を褒めたセトにアヤノが向きになりつつ、身を乗り出して得意気に語りだした。
「キリト君とシンタローはね、攻略組の中でも1位2位を争うほどの剣士だったんだよ!」
「……え? そんなバカな……だって、あのお兄ちゃんだよ!?」
信じられない様子でモモが言うが、その思いは最もであろう。 あのシンタローがまさか凄腕の剣士だったなんて。
「それに、シンタローも専用スキル持ってたしね。 あれ、何って名前のスキルだっけ? 遥覚えてる?」
「戦闘指揮者だよ。 詳細は分からないんだけどね……」
最後の最後までシンタローはそれを誰にも言わずに秘密にしていたのだから。
戦闘指揮者がどのようなスキルかを考えていれば、運転席から先生のこえがひびいた。
「おい、如月家についたぞ。」
「あ、ありがとうございます。先生。」
お礼を言いながら、先生からアミュスフィアとソフトの入った紙袋を手に桃は家へと入っていく。 それを見送った先生は、車を発進させていく。
一方、家へと入った桃は母親に事の説明を手短に済ませた後、部屋へと入ってアミュスフィアの箱を開け、説明書を読んでいた。
「お兄ちゃん、今行くからね……」
もう、待っているだけなんて沢山だ。 2年もの間、何も出来なかった分今度は。
「えっと、此れをこうして……」
説明書を片手に、準備を済ませていく。 ログイン時間はヒビヤと相談して決めた為、一人で出しゃばる訳にはいかない。
「武器か……」
ネットでアルヴヘイム・オンラインで使える武器を探しつつ、自分が使えそうなものをピックアップしていく。
「うーん、悩むなあ。 ……あ、もうそろそろ時間か。 よしっ。」
頭にアミュスフィアを被り、ベッドに横になって桃は宣言するように呟いた。
「リンクスタート!」
どこかで、これから始まる冒険にワクワクしている自分も居た気がする。
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