高校生組がSAO入りする話【25】
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 75層の転移門広場の前、そこには今回のボス攻略に参加するプレイヤーが集まっていた。 俺は転移門に降り立ち、辺りを見回す。 どうやらまだアヤノやアスナ、キリトは来ていないようだ。
 柱の陰に身を潜めるように、シンタローは寄りかかる。 近くで飛び回る殿の頭をなでて、フードを被って周りを遮断した感じの彼に、誰もが皆話しかけては来ない。
 少し前までこんな状況だった。 独りで居るのが当たり前だった頃のあの日々を思い出して少し涙ぐんでいる中、それを慰めるように俺の側にはずっとあの日から殿が居る。
 その小さな事実に気付かされた時、救われた気がしたのはきっと気のせいじゃない。
 転移門に続々と転移してくるプレイヤー、そしてその中に愛しい影と、相棒とその相棒の愛しい人の姿があった。
「……。」
 キリトはあたりを見回し俺を探しているのだろう、しかし俺は柱の陰に居るためにあの位置からは見えない。
「ごめんな……」
 助っ人に来たエギルや、クラインそして、エネやコノハたちと話をする中、アヤノもキリトも落ち着かない様子で転移門の方を見たり、あたりを見回したりしている。
「あれ、アヤノ――アイツは?」
 エネがシンタローが居ないことに気づき、辺りを見回す。
「それが……」
 アヤノが何かを言いかけた時、一際目立つ服装である《血盟騎士団》の団長であるヒースクリフが幹部たちを引き連れて75層の転移門広場に現れた。 それを確認したシンタローは、柱の陰からフードを被ったまま出て行く。
 すたすた、とヒースクリフの方へと歩いて行くシンタローに漸く築いたキリトたちは声をかけようとするが。
「やあ、シンタロー君。 期待しているよ。」
 キリトよりも早く、シンタローに話しかけたのはヒースクリフだった。 
「――――。」
 ヒースクリフに何かを言ったシンタローは、フードを取り、指でメニューを呼び出す。 数秒後、彼の目元を覆うように表示されたそれにヒースクリフはニヤリと笑った。
「なんだよ……あれ……」
「わかんない……」
 キリトもアヤノも、何が起こったのか理解ができていない。 あの目元にある、ゴーグルのような代物は一体何なのだろう。
「《戦闘指揮者》は使いこなせているようだな。 よかったよ。」
「言ったろ、そんなに難しくなかったって。」
 そんなヒースクリフの会話を聞いているだけしか出来ないキリトやアヤノは、それが何なのかがいまいち理解できていなかった。
「……戦闘指揮者?」
「――キリト君の二刀流、私の神聖剣、そして君の戦闘指揮者がアレば恐らく戦闘も有利になるだろう。 よかった。 犠牲者は出したくはないからな。」
「え?」
 マヌケな声を上げたのはキリトだ。 今の話の流れから察するに、シンタローの持つ戦闘指揮者というものは、二刀流は神聖剣と同じユニークスキルということになる。
「では行こうか。」
 追求する暇もなく、ヒースクリフは手に持つ回廊結晶でゲートを開いた。
 シンタローは俺達の方を向くことはなく、ヒースクリフの横に立ち、ゲートをくぐっていく。
「まーた、アイツ何か隠してるわね。 まったく、嘘をつく時の癖、なんにも変わってない。」
「アヤノちゃん、ほら、そんな顔しないで笑っていこう。 キリト君もね。 僕達がシンタロー君を信じなくちゃ、彼は独りになっちゃうから。」
 コノハは慣れたように、そう言いくるめる。
「そうだね。 私がシンタローを信じてあげなくちゃ!」
 アヤノは笑顔を取り戻して、シンタローの後を追いかけていく。 
「皆は強いんだな……」
「最初から強い奴なんて居ないわ。 いろいろな経験をして、それで段々と強くなっていくの。」
「……そっか。」
「だからキリト、アンタもそんな顔しないでボス戦に集中しなさい。 死んだりなんかしたらゆるさないわよ。」
「分かってる。 死ぬつもりなんてないさ。」
 そんな会話をエネやコノハとした後、アスナと頷き合い手をつないでゲートを潜る。
 潜った先は薄暗いボス部屋の前で、アスナは当たりを見回してキリトの手をぎゅっとつないだ。
「なんかいやな感じだね。」
 そうアスナが呟いて、キリトはそれを肯定する。 アヤノは、シンタローの方へと近づいていき一方的に腕を組んでいた。
 心なしか顔が綻んでいることに安堵して、武器を鞘から抜いた。
「死ぬなよ。」
 回りにいる顔見知りに向かってキリトは呟く。 目線でシンタローにもそう伝えれば、シンタローはふっと笑って頷いた。
「キリト君は私が護る。 ――――だから、キリト君は私を護ってね。」
 耳元でそう呟かれ、ぼっと頬が赤くなる。
「ああ。 ――必ず。」
 そんなアスナとキリトの会話を耳に、シンタローとアヤノはピタリとくっついて。
「私はシンタローを信じてる。だから、シンタローも私を信じて?」
「アヤノ……」
「大丈夫! 私は死なないよ! もう二度と君を独りになんてしない。 ――行こう!」
 そんなアヤノの笑顔に、頷いてシンタローはきりっと表情を一変させ武器を構える。
「皆、準備はいいかな? 今回、ボスの攻撃パターンに関しては情報がない。 基本的には《血盟騎士団》が前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限りパターンを見切り柔軟に攻撃して欲しい。 ――今回は、シンタロー君に出来るだけボスの情報を読み取ってもらうので彼の言葉には耳を傾けて欲しい。」
 その言葉に皆頷いたのを確認して、ヒースクリフはボス部屋の扉に手をかける。
「では、行こうか。」
 大きな扉が重々しく開く。 それを合図にしたように皆、武器を構えそして。
 開ききったのを確認して、ヒースクリフは高らかに叫ぶ。
「戦闘開始!」
 その声を合図にしたように、皆一斉に走りだした。

 中はとても広く、天井も高い。 プレイヤーは一気に広がり自然な陣形をとって様子をうかがう。
 一秒―また一秒と時間が過ぎて行くが一向にボスモンスターが現れる気配はない。 しびれを切らして誰かが声を漏らしたその時。 シンタローが叫んだ。
「上だ!」
 その叫びに一同一斉に上を向けば、見えたのは。
「スカル……リーパー……?」
 上を見上げ、シンタローは名前を呟く。 《骸骨の刈り手》という名前が表示される。 不意にスカルリーパーはすべての足を広げ、そして天井から離れ真っ直ぐこっちに落下してくる。
「固まるな! 距離をとれ!」
 ヒースクリフが叫ぶ声に一同我に返り、スカルリーパーから距離を取る。 しかし、わずかに反応に遅れた二人は、そのあまりの迫力にて足がすくんでしまったその二人にキリトは叫ぶ。
「こっちだ!」
 その叫びに震える足を動かしてこちらへ走ってくる二人――だが、その背後に地響きを轟かせ、スカルリーパーが落下したその瞬間床全体が地震の様に揺れた。 足を取られた二人はたたらを踏む。 底に向かって、スカルリーパーの右腕、長大な鎌が横薙ぎに振り下ろされる。
 経った一振りだけでありえないほどに吹っ飛んだその二人は、地面に当たると同時に電子の破片になって消えていく。
「嘘だろ……たった一撃で……」
 呆然とした様子でエギルが呟く。 隣にいるクラインがめちゃくちゃだと震えながら、救いを求めるようにシンタローの方へと向いた。
「キリト! アスナ! アヤノ! 俺達であの鎌を何とか止めるぞ! 他の皆はその隙に攻撃してくれ!」
 シンタローは諦めていない、スキルをフル活用しながら勝利の方法を模索していた。
 先ほどのあの鎌、あの大きな一振りで最前線でも選りすぐりの強さを持つ攻略組プレイヤーが死んだ。 たったの一振りで。 だとしたら、あの鎌を何とかして止める事が出来たなら、勝率はグッと上がるはずだ。
「おう!」
 キリトはその言葉に素早く反応しアスナとともに鎌の方へと走って行く。 シンタローとアヤノもまた後に続き走りだした。 それに続いたのはヒースクリフだ。
 まずキリトが大きな鎌を二本の剣で受け止めるが。
「重すぎる――」
 片膝を付く。  肩には鎌が食い込みHPがじわじわと削られる。 隙かさずアスナは細剣でその鎌を弾き飛ばして、勇ましく言う。
「二人同時になら行ける! 私達になら出来るよ! シンタローさんとアヤノの二人とうまく連携して止めよう!」
「ああ!」
 キリトはシンタローに目で合図を送り、立ち上がる。
「行こう!」
 四人は一斉にかけ出した。
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