高校生組がSAO入りする話【24】
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 本部につき、広間で話を聞く。 それは、俄には信じられないような話で――
「偵察隊が全滅――?」
 キリトの驚いたような声が響いた。
「昨日のことだ。 75層迷宮区のマッピングも時間がかかったが犠牲者も出ずに完了した。 今までの経験から、75層は苦戦することが予想されたため、5ギルド合同のパーティを組み、偵察に向かわせた。」
 淡々と、ヒースクリフが言葉を紡ぐ。 シンタローは睨みつけるようにその話を黙って聞いていた。
「偵察は慎重を期して行われた。 十人が護衛としてボス部屋の入り口で待機し、最初の10人が部屋の中央に到着して、ボスが出現した瞬間、入口の扉が閉じてしまったのだ。 此処から先は護衛の報告だが、扉は5分以上開かず、次にその扉が開いた時中には何もなかったそうだ。 ――ボスの姿も、十人の姿もない。 転移した痕跡もなかった。 その後、1層にあるモニュメントに十人の名前を確認しにいったが……」
 その先の言葉は紡がれなかった。
「十人も……なんで……」
「結晶無効化空間…?」
 そのキリトの問いをヒースクリフは肯定した。
「そうとしか考えられない。 アスナ君の報告では74層もそうだったということだから、恐らく今後全てのボス部屋が無効化空間と想っていいだろう。」
「バカな…」
 そんなヒースクリフとキリトの言葉に何も反応を示さず、終始無言でヒースクリフを睨みつけていたシンタローだったが、その視線とヒースクリフの視線が漸く交わり、苦笑する。
「だが、攻略を諦めることはできない。 可能な限り大部隊を持って当たるしか無いだろう。」
「協力はさせてもらいますよ……だが、俺にとってはアスナの安全が最優先だ。」
「何かを守ろうとする人間は強いものだ。 期待しているよ。」
 それだけをきっぱりと告げたヒースクリフは立ち上がり、取り巻きを連れて部屋を出て行った。
「あと3時間か……どうする?」
 アスナが机にちょこんと腰掛けて呟いた。 しかし、その言葉にキリトが反応することはない。
「――俺ちょっと行くところがあるから少し席外すな。 アヤノ、ごめんちょっと此処で待っていてくれ。」
「あ、うん……」
 不安そうにアヤノが見つめる視線に苦笑しながら、シンタローは背をを向ける。 しかし、部屋から出る直前キリトに呼び止められた。
「――また、どこかへ行くつもりかよ。 俺たちに何も言わず、独りで。 この間もそうだったよな。 あの日だって……」
「……。」
 そのキリトの言葉に、シンタローは振り向かないで沈黙するだけだった。
「この間、俺とお前で74層の攻略をしていた時、お前俺の秘密にしていた《二刀流》のことを指摘した。 あの時、俺はお前には敵わないって思った。 ――その一方で、お前の事をちゃんと解っておきたいって思った。 でも結局お前は俺に心を開いてはくれないんだな。」
 少し強めの口調だ。 きっと、俺の背中を睨みつけているのだろう、その視線を感じ取りながらシンタローは拳を握る。
「――こんなに一緒に居たのに、俺は全然お前のこと分からなかった。 なぁ、シンタロー。 俺ってそんなに頼りないのか?」
 シンタローはその言葉に首を横にふる。
「じゃあ、なんで……なんで何も言ってくれないんだよ!」
「―――ごめん。」
 キリトの叫びにシンタローは何も答えずに、謝罪の言葉を述べ、部屋を出て行った。 残されたキリトとアスナ、アヤノは呆然と彼が消えていった扉の向こうを見つめる。
「ごめんって一体なんだよ……」
 悔しそうなキリトの声が響いて、アヤノは心配そうな面持ちでシンタローと、名前を呟いていた。

 メッセージを知らせるマークが浮かぶ。
 誰も居ないことを確認してシンタローはそのメッセージを開けば、案の定。 それはヒースクリフからのものだった。
《団長室で待つ。》
 素っ気に文章を読んだ後、シンタローはまた当たりを見回して団長室へと向かった。 ノックをし、中にはいればそこは武装を整えたヒースクリフの姿がある。 扉を閉めて俺は目の前に居るそいつを睨みつける。 殿は静かに俺の側を飛び回り、遊んでいた。
「……やあ、シンタロー君。」
「お前……」
「この際だ、何も弁解はしないよ。 ――シンタロー君、秘密にしておいてくれたあのスキル、今日のボス戦で使って欲しい。 正直、私もあのボスには本気で挑まざるを得ないくらい強いのだ。 犠牲者は出したくないのは私の本心だよ。」
「……偵察隊の話、あれは解った上でやったのか。」
「そうだ。 こうでもしなければ、皆に危険なことを知らせることが出来なかったからね。」
「熟アンタはいけ好かない。 ――けど、この際だ。 お前の指示に従ってやるさ。 俺も犠牲者は出したくない。」
「期待しているよ、シンタロー君。 いろいろ、とね。」
 その眼差しを受け止めシンタローは殿の頭を撫でた。
「お前のせいでキリトと喧嘩っぽいことしちまったじゃねーか。この落とし前はどう付けてくれるんだよ。」
「まぁ、その付けは追々払うよ。」
 そんな会話をして、シンタローは団長室から出て行く。 その後、あの険悪になったキリトたちの居る部屋へと戻る気にもなれずに、一人でブラブラとしていれば、心配したのかキリと本人からメッセージが届いた。
《どこにいる? アヤノが心配してるから戻ってこいよ。》
 アヤノがなんて言っているがきっと本人も心配なのだろう。 そのメッセージを読みながらクスっと笑う。
 とても嬉しいメッセージだが、でも。 今、彼らに会いたいとは思わなかった。 今会えば色々と漏れてしまうと思ったからだ。
《ごめん、ちょっと長引きそうだから直接待ち合わせ場所に行く。》
 心の中でキリトに謝罪しながらそのメッセージを送り、フードを被ってシンタローは《血盟騎士団》の本部を出て行った。
「――結局、俺は独りがお似合いってか。」
 最近はずっとキリトとか、絶えず人と一緒に居たせいで忘れていたこの感覚。 怖い、そんな考えが過り、はっとして首を振ってその考えを飛ばす。
 隠し事をするのが悪いというわけではない。 でも、罪悪感だけは消えてはくれない。 本当はこういう状況を皆で解決して行きたいのだ。 アイツが茅場晶彦だ、と大声で叫びたいという気持ちだって勿論あるのだ。
 しかし、その度に茅場晶彦からの脅しの文句が胸を過る。 アイツはきっとそんなことしないというのもなんとなく分かっていた。 ――しかし、それが真実かなんてわかりはしないのだ。
「ごめんな、結局オレはアヤノを守れない……」
 心配ばっかり掛けて、寂しい思いをさせている。 あの部屋を出るときも、俺が用事だって言って彼女をあの一人の部屋に残していく時だってアヤノは無理をして笑って俺を送り出してくれた。 ああいう面は何も変わっていない。
 そんな彼女を守りたいと願ったはずなのに、心労を掛けないって誓ったのに。
「そろそろ時間か……」
 重たい足取りで、シンタローは装備を整えて75層へ向かっていった。
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