高校生組がSAO入りする話【23】
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 それから何日か経ち、俺達宛にヒースクリフからメッセージが届いた。
「はぁ……」
 キリトが部屋のベッドに別れを告げるが如く、寝そべり大きな溜息を吐いた。
「ほら、シンタローさん達もう準備済ませてあるよ!」
「だって……まだ2週間なんだぜ……」
「休暇中の私達を呼び寄せるなんてよっぽどのことがあったんだよ……話だけでも聴いておこうよ。」
 そう言うと、キリトは名残惜しそうにベッドから起き上がる。
「さっさと片付けて戻ってこよう?」
「ああ。」
 手をつないで、4人で家を後にし向かうは《血盟騎士団》の本部だ。
 先程からシンタローは無表情で、何を考えているのかが全く分からずキリトは少し不安になった。
「……。」
 今の彼は俺達から一線引いた場所にいる、と感じる。
 22層の転移門の前まで迎えに来てくれたのは、この間一緒に釣りをして仲良くなった《ニシダ》というプレイヤーだ。 とても気さくで、話しやすい人である。
「お見送り、ありがとうございます。」
 キリトがニシダに微笑みながらお礼を言う。
「……正直、今までは上の階層でクリアのために戦う人たちのことをどこか遠くの世界の事のように感じておりました。 ……内心ではもう、ここからの脱出を諦めていたのかもしれませんなぁ。」
 キリトやアスナ、アヤノとシンタローはその言葉に黙って耳を傾ける。
「……ご存知かもしれませんが、電気屋の世界も日進月歩でしてね……。 私も若い頃から相当いじってきたクチですから今までなんと鍵ジュルの進歩に食らいついて来れましたが……二年も現場から半れちゃうともう無理ですわ。 此処でのんびり竿を降っていたほうがマシだと……」
 その言葉の意味を、俺達は理解できたような気がした。 SAO内でもトップクラスの年齢なのであろう《ニシダ》は、小さく笑う。
「私も……半年くらい前までは、同じこと考えて毎晩独りで泣いてました。 この世界で一日過ぎる度に、家族の事とか、友達とか、進学とか、私の現実がどんどん壊れていっちゃうような気がして気が狂いそうだった。」
 アスナは一回そこで話を切って、キリトの手をぎゅっと握る。
「――でも、半年くらい前、最前線に転移していざ迷宮に出発って思ったら、広場の芝生で昼寝をしている人が居たんです。 私、頭にきちゃって頭ごなしに怒鳴っちゃって…でも、その人は透かした顔で『今日はアインクラッドで最高の季節の、更に最高の気象設定だからこんな日に迷宮に潜っちゃもったいない アンタも寝てみれば解るよ……』なんて、失礼しちゃいますよね。 ……でも、私それを聴いてはっとしたんです。 この人はこの世界でちゃんと生きてる……現実世界で1日無くすんじゃなくて、ちゃんとこの世界で一日を積み重ねてる――こんな人も居たのか、って。」
 涙がこぼれ落ち、それでも笑いながらいとおしそうに言葉を紡ぐ彼女にアヤノもシンタローも微笑みあった。
「私、その日からその人の事を思い出しながらベッドに入った。 ……今まで見ていた悪夢も、何も見なくなって、幸せな夢でさえ見れるようになった。 明日がくるのが楽しみになった。」
 キリトに出会ったからアスナは変われた。 そして、恋をしてこの世界を楽しみだして、そうして今の彼女がある。
「……ニシダさんにも、大切な人が居るはずです。」
「そうですなぁ……本当にそうだ……」
 ニシダもまた、アスナの言葉に泣きながら微笑み返す。
「……人生、捨てたもんじゃないですなぁ。」
 アインクラッドの空を見上げながらニシダは微笑んで呟いた。 それはなにか吹っ切れたようなそんな顔で。
 転移して、見えなくなるまでニシダは微笑みながら手を振り続けてくれた。 その笑顔に、こみ上げるものを感じながら4人は《血盟騎士団》の本部へと歩き出した。
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