高校生組がSAO入りする話【22】
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 安全エリアへと退避し、ユイはその中にあった黒い石に座った。
「ユイちゃん……思い出したの? 今までのこと……」
 アスナが、戸惑いがちに問いかける。 ユイはその問に、思案した後、泣き笑いのような表情を浮かべながら頷く。
「はい、全部説明します――キリトさん、アスナさん、シンタローさん、アヤノさん。」
 その丁寧な口調に、4人は息を呑む。 それは、何かが終わってしまったようなそんな寂しさがあった。
 ユイはそんな表情を受け止めながら、ぽつぽつと語りだす。 ソードアート・オンラインの真実を。
「《メンタルヘルス・カウンセリングプログラムMHCP試作一号、コードネーム・Yui》――それが、私です。」
「……プログラム、AIだって言うの?」
 かすれた声、そのぽつりと呟かれたアスナの言葉に悲しそうにユイは頷いた。
「プレイヤーに違和感を与えないよう、私には感情模倣機能が与えられています。 ――偽物なんです、全部。 この涙も……」
 両の目から、涙がこぼれ落ちそして光になって消えていく。
「……ユイちゃん、なんで記憶がなかったの?」
 シンタローの隣に居たアヤノが、シンタローの手を握りながら不安そうに呟く。
「二年前、正式サービスが始まった日……」
 昨日のことのように覚えている。 デスゲームとかしたあの日のことを。 そしてユイは、その裏側を話してくれた。
 最悪と言ってもいい状況だったプレイヤーの心理状況。 本来ならばそのプレイヤーの元へと赴き、話を聞いてあげるはずだったが、あの日カーディナルはユイにプレイヤーへの一切の干渉を禁じたのだ。
 その命令は絶対で、逆らうことは許されない。 本来の使命と、カーディナルの命令の間で翻弄されたユイは徐々にエラーを蓄積させ、そして崩壊していったのだ。
 そんなある日、他のプレイヤーとは違うメンタルパラメータを持つ4人を発見したユイは、その4人に近づきたいと感じ、22層をさまよっていたのだそう。
「……キリトさん、アスナさん、シンタローさん、アヤノさん。 私、貴方達にずっとお会いしたかった……おかしいですよね……そんなこと、想えるはずがないのに。 私、只のプログラムなのに……」
 そう言ってまたユイは涙を流す。
「なあ、ユイ。 ……プログラムだからなんでことはないんだよ。 俺は昔、お前と同じようなAIと一緒に暮らしたことがある。 まぁ、あっちは携帯の中で、液晶越しだったがな。」
 ずっと黙っていたシンタローが、ユイの目線に合わせて屈み、話しだす。
「……お前はちゃんとした知性を持ってる。 こうやって泣いたり出来るんだ。」
「シンタローさん……」
 その言葉に、キリトは微笑みながらシンタローと同じように屈み、ユイに話しかけた。
「ユイはもう、システムに操られるだけのプログラムじゃない。 だから、ちゃんと自分の望みを口に出せるはずだよ。 ――ユイの望みはなんだい?」
 その優しい言葉にユイは両手を4人に向かって精一杯伸ばして、そして言葉を紡ぐ。
「私は……ずっと一緒にいたいです……パパ、ママ、にーに、ねーね。」
 その言葉に、キリトとアスナはユイを抱きしめる。
「ずっと一緒だよ……ユイちゃん!」
「ああ、ユイはオレたちの子供だ……」
 しかし、ユイは悲しそうに首を振った。
「――もう、遅いんです。」
 ユイは、目線を据わっている黒い石へと移す。
「これはGMが緊急アクセスをするために設置したコンソールです。 これを使ってモンスターを消去したのですが、同時に今、私のプログラムがチェックされています。 カーディナルの命令に違反した私はシステムにとっての異物です。 ――消去されてしまうでしょう。」
 その言葉に、4人の顔色は真っ青になった。
「何とかならないのかよ……」
 ユイの手を握り、キリトは叫ぶ。
「皆さん、ありがとう。 これでお別れです。」
 そう笑顔で言うユイは、とても儚く。
「嫌! そんなの嫌よ! これからじゃない…… これから楽しく……一緒に仲良く暮らそうって……」
「暗い闇の中、いつ果てるかも分からない長い苦しみの中で、パパとママ、にーにとねーねの存在だけが私をつなぎとめてくれた……」
 次第に透けていくユイに、キリトは耐え切れずに叫ぶ。
「ユイ……行くな!」
「パパとママ、にーにとねーねのそばに居ると皆が笑顔になれた……。 だからお願いです。 これからも、私の代わりに皆を助けて……笑顔を、喜びを分けてあげてください……。」
 とても儚い笑顔で、ユイは言う。 足元から徐々に光の粒子となって消えていくその光景に、シンタローは拳を握りしめ、泣いているアヤノを抱きしめることしか出来ない。
「やだ……やだよ……ユイちゃんが居なくちゃ……私笑えないよ……」
 あふれる光りに包まれ、アスナの頬に触れるユイの温もりが徐々に消えていく感覚。 目を開けばもうユイは手しか残されていない。
 しかし、最後の言葉は確かに響いてきた。
 ――笑って。
 彼女は俺達に最後まで笑ってほしいと懇願し、そして、消えていった。
「うわああああああ」
 アスナがその場に崩れ落ち、泣き喚く。
「カーディナル! いや、茅場晶彦……!」
 キリトの絶叫が室内に響き渡り、そしてキリトは目の前にあるコンソールをいじり始める。
「そういつも自分の思いどおりになると思うなよ!」
 急げ、急げと言わんばかりに操作を急ぐキリトにアスナは涙を拭いながら問いかける。
「キリト君何を……」
「今ならまだGMアカウントでシステムに割り込めるかも……」
 そういいながらキーを素早く操作し続けるキリト。 数秒経ち、コンソールが青い光に包まれた後、キリトはコンソールに弾き飛ばされた。
「キリト君!」
「キリト!」
 アスナやアヤノ、シンタローが素早く駆け寄る。 キリトは起き上がりながらアスナの手に、小さな涙のような結晶を手渡した。
「こ、これは……」
「ユイが起動した管理者権限が切れる前にユイのプログラムをシステムから切り離してオブジェクト化したんだ。」
「じゃあこれは……」
「ユイの、心だよ。」
 アスナはその言葉に、泣き崩れた。 アヤノもまた涙を流しアスナの肩に手を置いて、そして抱きしめる。
「……帰るか。」
「そうだな……」
 シンタローとキリトは顔を見合わせて頷いた。
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