高校生組がSAO入りする話【21】
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 黒鉄宮――つまり、軍の本拠地にそのダンジョンの入り口はあった。 その入口を入れば、薄暗い景色が一面に広がる。
 このダンジョンのレベルは60層くらいらしく、それほど俺達にとっては強敵とは言えない。 しかし、戦闘狂であるキリトはその状況を楽しんでいる様子で、一人で二刀流を使い敵をバッサバッサとなぎ倒していく。
 そんな様子のキリトを、フード越しに見るシンタローの瞳はいつになく真剣だ。 策敵スキルの如く目を鋭くし見つめている。
 シンタローの持つユニークスキル《戦闘指揮者》は、敵やプレイヤーのステータスを調べるものなのだが、今はそれを利用してキリトの戦闘力を図っているのだ。
 きっと、もうそろそろアイツの正体はバレるだろう。 他ならぬ、キリトによって。 あのデュエルの違和感に気づいたのは俺だけではないはずだから。
 もしも、この先そういう事態になってアイツとまた戦うはめになったら、果たしてキリトに勝ち目はあるのだろうか。 アイツの持つユニークスキル《二刀流》のデザインをしたのは他ならぬアイツ。 これの意味することは即ち、ソードスキルを使った時がキリトの敗北の時だ。
 しかし、俺達は長らくスキルに頼った戦闘をしてきたせいで無意識に発動してしまうのだ。
「(……確かにキリトは強い。 二刀流も自分のものにしている……けど、それでもアイツに叶うかどうかは微妙だ。 あのデュエルを一回見ただけで分かった。 アイツはシステムのオーバーアシスト無しでも十分最強と言われるだけの技量を持ち合わせてる。)」
「シンタロー?」
「あ、いやなんでもねぇよ。」
 キリトがひと通り敵を倒したのを確認して、俺は《戦闘指揮者》のスキルを停止させる。
「難しい顔してどうしたの? 具合悪い?」
「ちげぇよ。 少し考え事してただけだ。」
「そっか。」
 隣で無邪気に笑う彼女に微笑みかけ、気を取り直して暗い道を進んでいく。
マップによれば、シンカーはとある位置から動こうとしていないらしい。
きっと安全エリアに退避しているのだろう。
「あ、ほら、安全地帯だよ!」
 そういってアヤノは指差してはしゃぐ。 ユリエールは入口付近にシンカーの姿が見えるや否や、嬉しそうに彼の名前を呼びながら走り寄る。
 ――しかし。
「ダメだっユリエールさん! 戻れ!」
 暗闇の中に、赤い目が2つ――天井付近に見えた。 それが何か認識する前に俺はユリエールに向かって叫ぶ。 それにいち早く反応したキリトは全速力でユリエールに近寄り、上から落ちてきた”モノ”から彼女を護る。
 間一髪のところ守り切れたことに安心しつつ、アスナはユリエールに向かって叫ぶ。
「この子と一緒に安全エリアに退避してください!」
 ユリエールはその言葉に頷き、ユイを連れて安全エリアに駆け込んだ。 それを確認し、キリトの隣に立つ。
 シンタローとアヤノ、アスナ、キリトの4人が並び、それを見上げると――。
《The Fatal-scythe》運命の鎌という名前、そしてシンタローのユニークスキル越しにみるそのボスモンスターは、60層レベルなんてものじゃなく。
「……アスナ、アヤノと一緒に安全エリアに言ってシンカーさんとユリエールさんと共に脱出しろ。」
 キリトはそのボスモンスター見上げ、そう呟いた。
「俺の識別スキルでもデータが見えない。 多分、90層クラスだ!」
 そいつの外見は所謂死神というもので、持っている武器である立派な鎌が、一際異彩を放つ。 あの攻撃を一発でも食らったら恐らく死ぬだろう。
「……。」
「俺はシンタローと一緒にお前らの退路を護る。 だから早く!」
 迷っている暇はない。 しかし、此処で先にダンジョンから脱出して二人が戻ってこなかったら、という考えが頭から離れなかった。
 アスナは、数秒悩んだ後ユイのいる安全エリアに目をやり、叫んだ。
「ユイを頼みます! 3人で脱出してください!」
「アスナ!」
「私達も一緒に戦う! 君たちだけ残すなんて出来ないよ!」
 アスナに続きアヤノも、武器を構えて戦う姿勢を崩さない。
「キリト、これは俺達だけじゃ手に負えない。」
「分かってるけど……」
 そのシンタローの言葉に悔しそうにするキリトの肩に手をポンと置き、目線をユリエールの方へと移す。
「早く脱出しろ!」
 そのシンタローの言葉に頷いて、ユリエールは3人分のクリスタルを用意する。
 その瞬間だった。 死神は鎌を振り上げ、真っ直ぐに振り下ろした。 4人がかりで受け止める姿勢を取り、待ち構えるが、やはり90層クラスの化け物に今の俺達が相手になるわけはなく、敢え無くふっとばされる。 見れば、シンタローとキリトのHPは半分以下まで減り、後一撃くらえば死んでしまう所まで削られている。
「キリト君!」
「シンタロー!」
 ノックバックのせいで体が動かない。 私達よりも敵に近い位置に倒れている二人を助けたいのに、手も届かない。 このままじゃ、ふたりとも――いや、4人全員が死ぬ。
 そんな時――とことこ、と可愛らしい足音が響き渡って4人を守るように立ちはだかる影、それは。
「ユイちゃん……?」
「ばか……早く逃げろ!」
 必至に体を起こしながらキリトはユイに向かって叫ぶ。
「大丈夫だよ、パパ、ママ、にーに、ねーね。」
 ふわり、とユイの躰が浮いた。 ジャンプではない、羽を使ったみたいに、躰が浮いたのだ。
「ダメ……逃げて……ユイちゃん!」
 死神が鎌を振り上げ、ユイに向かって振り下ろす。 見ていられないとアヤノは目を閉じて、アスナとキリトは目を見開くことしか出来ない。 しかし、シンタローだけは、冷静にその光景を見ていた。 なぜだかは分からないが、大丈夫だと確信していたから。
 案の定、ユイがその鎌に攻撃されることはなく、何か障壁のようなものに阻まれた。
《Immortal Object》所謂、システム的不死だ。
 ユイの周りを包むように炎が出現し、そしてユイの背丈よりも何倍も大きい大剣が表れて、ユイはそれを握って勇ましく振りかざす。
 あっという間にその死神を模したボスモンスターは居なくなり、辺りには静寂が訪れた。
「ユイちゃん……」
「パパ、ママ、にーに、、ねーね、全部思い出したよ……。」
 そう言いながら振り返り、涙を流しながらユイは笑った。
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