それから数日経ち、キリトとアスナは未だに遊び足りないのか今日はキリトが聴いた噂の場所へ行くとのことで、意気揚々と出かけていった。
シンタローとアヤノは家でまったりする予定だ。
キリトとアスナが出かけていってから数時間が経った頃、二人は一人の少女を抱えて慌てて家へと帰ってきた。
話を聞けば、この子はこの22層の奥にある森に倒れていたのだそうだ。
なにより、気になったのはカーソルが出ないことである。
しかし、家まで移動させることが出来たからにはNPCではないだろう。
俺はこの件に関して、アイツに相談することを考えたが、何でもかんでもアイツに頼るのはよくないと、首をふる。
「まぁ、キリトとアスナが保護してきたんだ。 面倒もお前らが見ろよ。 出来るだけ俺達も力を貸すから。」
そんなシンタローの言葉に頷き、アスナはその子を抱えて部屋へと入っていく。 キリトは、シンタローに何やら言葉をかけ、アスナの後を追いかけていった。
「……シンタローあの子のこと、どう思ってる?」
「あるとしたら迷子か、それかNPCに近いなにかじゃねーの? あんな白いワンピースでフィールドに出ていたとは思えないし、こんなところで一人に置き去りなんてこともあるが……」
「……でもNPCなら連れて行こうとした時にハラスメントコードがでるじゃない?」
「NPCに近いなにかっつったろ? 一昔前のエネみたいにAIだったりしてな。」
「もう、シンタローったら。」
そんなシンタローの想像は見事に当たりだったのだが、それを知るのはまだ後。
その日、其の子は目覚めることはなく眠り続けていたとキリトから聴いた。 其の夜、すこし様子を見に行ったシンタローは、其の子の余りの肌の白さに、ビックリしてしまったのだ。
まるで、家の中にずっと居たような、そんな病的な白さ。 白いワンピースを着ているため、更にそれが際立っている。
「……。」
そっと部屋を出て、考える。
いくらなんでも、あの色はおかしすぎる。 まるで陽の光を浴びたことないようなそんな色だ。
「まぁ、目が覚めればいろいろ解るか……・」
そんな独り言をつぶやき、シンタローは眠りについた。
翌朝、アスナとキリトの部屋から騒がしい音が聞こえ、アヤノとともにへやを覗けば、昨日保護した子供の目が覚めたらしい。
ともかく、大人数が一気に押しかけるのはよくない。 アヤノに目配せで合図し、扉付近で静かに様子を見守る。
どうやら名前はユイと言うらしい。 しかし、その名前が紡がれた口調は幼く、赤子のようで。
「……。」
「シンタロー……」
そんな様子の赤子に涙ぐみながら、アヤノはシンタローの服をちょこんとつかむ。
キリトとアスナの名前さえ満足に言えない其の子は、どうやらキリトのことをパパ、アスナのことをママと呼ぶことにしたらしい。
ここで困ったのが俺らだ。 パパとママ、は言いやすいしいいだろう。 しかし、パパとママは一人ずつ居れば十分で。
「……とりあえず、自己紹介くらいはしておくか。」
「そうだね。」
そして、ユイに自己紹介すれば彼女は案の定俺達の名前を言うことが出来ず。 考えた結果、俺の事はにーに、アヤノのことはねーね、と呼ぶことになった。
「さて、お腹へったでしょう? ご飯にしよ。」
「うん!」
俺とアスナが並んでキッチンに立つ姿は朝の定番となっているようで、俺とアスナが手分けして朝ごはんを作っている間、アヤノとキリトはユイの相手をしいろいろ聞き出していた。
食後、ユイは寝てしまった中、アスナは涙ぐむ。
「まるで赤ちゃんみたいになって……ごめんね、どうしたらいいのか解かんないよ……」
「この子が記憶を取り戻すまで、面倒みたいと思ってるんだろ?」
「うん……」
「とにかく、記憶を取り戻せるように俺たちにできることをしよう。」
「――そうだな、始まりの街にでも行ってくれば?」
「え?」
シンタローは少し考え、寝ているユイを見ながら呟いた。
「だって、あそこ、子供結構いるし……何か解るんじゃね?」
「……そうだな。 アスナ、ユイが起きたら行ってみよう。」
「俺達はこのまま家にいるから、何かあったらメッセ飛ばせよ。 直ぐに駆けつける。 今、ユイのパパとママはお前らなんだ。 責任をもって、守ってやれよ。」
「ああ!」
「うん!」
キリトとアスナの良い返事を聴いたシンタローは満足そうに微笑む。
数十分後、二人は目覚めたユイを連れ22層を離れていった。
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