高校生組がSAO入りする話【15】
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 次の日、晴れて《血盟騎士団》の一員となったキリトはシンタローとアヤノ・アスナを引き連れ本部へと足を運んでいた。 そこで渡された団服に着替え、そして、悲鳴をあげる。
「なんじゃこりゃああ!」
 いや、わかっては居た。 ヒースクリフに負けた時に、ああいうの俺も着るのかと諦めもあった。でも、だ。
「いやだあああ、俺はこれを着て外を歩きたくない!シンタローと一緒にいるううううう!」
「……。」
 涙目になりながらシンタローに抱きついて駄々をこねるキリトに少しときめきながらアスナは気を持ち直して首を横に振る。
「これでも地味な方よキリト君。」
「黒じゃなくちゃやだー!」
「やだーってお前子供かよ。」
 ため息をつくシンタローだが、キリトの言い分は分かる。 キリトはただでさえ女顔で、それをごまかすために黒を着ているのだ。 それが黒ではなく白を着るとどうなるのかなんて分かりきっていることで。
 普段のオーラ型なしの状態でシンタローに抱きつくキリトはいつもより年下に見え、そして若干女の子に見えた。
「まぁ、諦めろ。 大丈夫だ、お前がもしも男にナンパされたら俺らが助けてやる。」
「フォローになってない!」
「安心しろって、いつものオーラで行けばお前のことを間違う奴はいねぇよ。」
「……そうか?」
「ああ。」
 まるで子供をなだめる親のようだ、とアスナとアヤノは笑い合う。
 キリトが納得し、息抜きのようにベッドに寝っ転がる。
「ギルド……か。」
 その呟きの意味を理解したのは恐らくシンタローだけだろう。
「……ねぇ、キリト君。 教えてほしいな。 なんで、ギルドを……人を避けるのか。」
 キリトはシンタローやアスナ、アヤノやエネ・コノハ意外のプレイヤーを拒絶している節があると、アスナは前々から思っていたのだ。 其の理由を知りたいと。
「……あ、アスナそれは」
「いいよシンタロー、別に、隠すようなことじゃない。」
「でも、お前」
「ありがとう。」
 気遣ってくれることに対してのお礼だろうということは察しがついた。 しかし、あの件は確実にキリトのトラウマだ。 そうやすやすと話すことで、彼がまた泣いてしまうのではないか、とそれが心配だった。 俺に話した時のように。
「あれはシンタローと出会うずっと前のことだ。」
 そう前置きをして、キリトは語った。 その話を聞いている内に、アスナやアヤノの表情は曇っていき、アヤノは目に涙をためている。
 そんな状態の彼女らを何とも言えない気持ちで見守っていたのは彼の過去を唯一聞いているシンタローだった。
「そんな……」
 キリトのギルドを、人を避ける意味を知ったアスナはこの人を守りたいと改めて思った。 守られるだけじゃなく、守りたいと。
 ふ、と立ち上がったアスナはキリトの方へと歩いて行くと俯いているキリをの頬を手で包み込んで微笑む。
「私は死なないよ。」
 出来るだけ笑顔で、そう、傷ついた彼の心を癒やすような微笑みで彼を包み込もう。
「だって、私は君を護るほうだもん。」
 一瞬、縋るようにアスナに伸ばされたキリトの手は、虚しくベッドのシーツを掴んだ。



 午後、キリトは訓練に駆り出されることになり、アスナは顰めっ面でコドフリーに詰め寄る。
「キリトくんは私が……」
「いくら副団長だからといって、規律をないがしろにされては困りますな。 ユニークスキル使いだからといって、実践に役に立つかどうかはまた別。 フォワードの指揮を預かる私に、実力を証明してもらはねば。」
 其のやりとりを、冷めた目で見つめるのはシンタローだ。 アヤノは心配そうにシンタローに寄り添い、事態を見守っている。
「見たいならいくらでも見せてやるよ。 今更こんな低層の迷宮区で時間をつぶすなんて御免だ。 一気に突破するがいいだろう?」
 うわ、またキリトの悪い癖が始まったよ。 売り言葉に買い言葉、それで後々苦労するのは身を持って知っただろうに。
「はぁ……」
 そう小さくため息を付けば、キリトはちらりとこっちを見てやってしまったという表情を浮かべる。
 コドフリーはそんなキリトの大口を不満そうに受け取り、部屋を後にした。
「なにあれ!」
 アスナの半ギレな叫びが部屋に轟き、キリトはビクビクしながらシンタローの様子をうかがっている。
「おい。」
「すいません。」
「お前もう何度目だよこれ。 何回言ったら分かるんだ? 一度きつーく説教でもするか? あ?」
 目つき悪いことで定評のあるシンタローの睨みの恐ろしさをキリトは身を持って知っている為、ひっと情けない悲鳴を上げてアスナの後ろに回り込んだ。
「し、シンタローさんもう其のへんで……」
「まぁ、続きはお前が戻ってきてからにしてやるよ。 俺は用事を思い出したから少し席を外すぞ。 アヤノ、すまないがアスナと少し此処にいてくれ。」
「あ、うん。気をつけてね!」
 それに微笑みで返し、シンタローは部屋を出て行く。
「じゃ、じゃあ俺も行ってくるよ。」
「やっと一緒に入れると思ったのに……」
「すぐ戻ってくるよ。」
「気をつけて行ってきてね。」
 寂しそうにアスナは笑い、キリトはそれにシンタローと同様に微笑みで返して部屋を出て行く。
 すると、入口付近にシンタローが待ち伏せていた。
「……用事ってなんだよ。 昨日もそう言って一人で出て行ったよな。」
「別に、ただの野暮用だ。 ――ひとつ、いい忘れたことがある。」
「言い忘れたこと?」
「クラディールに気をつけろ。」
 ぼそっとすれ違いざまに言われたのは、あの気に入らない優男の名前だ。
「え?」
 そう言って聞き返そうとした時にはもう、其処にシンタローは居なかった。
 其の時はあまり気にしなかった彼の忠告の意味を俺はこの後身を持って知ることになる。


 キリトに忠告した其の足で俺はヒースクリフにメッセージを飛ばし、会う約束を取り付けた。
 どう考えても、あの人選はおかしいと感じたからだ。 あの男も、クラディールの怪しさには気づいているだろうに。
 団長室に入り扉を閉め、そして本題を切り出す。
「何故クラディールとキリトを一緒の任務にした?」
 豪華そうな椅子に座りながら、ヒースクリフは淡々と告げる。
「……私の決定ではないよ。 コドフリーが決めたことだ。」
「アンタだって薄々感づいているんだろう? クラディールの正体に。」
「――ラフィン・コフィンか?」
 SAO屈指の殺人ギルドの名前を口にしたヒースクリフは、真面目そうな顔をしてため息をつく。
 俺がクラディールの正体に気づいたのはアイツがキリトとのデュエルに負けた後のアイツの表情だ。 殺す、殺してやるという感情が篭ったその視線に、俺は嫌な予感が止まらなかった。
「やっぱり気づいてたんじゃねぇか。 気づいていたなら何故あの男をギルドから追放しない?」
「まだ追放するほど悪いことをクラディールはしていないからだ。 その状態で私が彼を追放するのには少し無理があるというものだろう?」
 この男の言うのは最もで、確かにアイツはまだそこまで悪行を重ねては居ない。 精々、自己判断でキリトにデュエルを仕掛けて惨敗したことくらいだ。
「お前の言い分も分からなくはないが、それでキリトが死んだりしたらアンタはどうするつもりなんだよ。」
「キリト君は死なないだろう。 ――なぜならアスナ君がいるからな。」
「……アンタ、」
「そういう顔をするな、シンタロー君。 私はプレイヤーのプライベートは覗かない主義だ。」
「ならいいけどな。 まあ、俺が確かめたかったのはそれだけだ。 時間を取らせたな。」
 それだけを手短に告げ、俺はヒースクリフの部屋を後にしアヤノの元へと向かった。
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