高校生組がSAO入りする話【14】
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 結果から言えば、キリトはヒースクリフとのデュエルに敗北した。
途中まではいい感じにキリトも攻めていたが、最後の最後でヒースクリフは異常な早さでキリトの攻撃を避け、そして一発決めたのだ。
「……。」
 シンタローはキリトとヒースクリフのデュエルを観客席から見ていたが、最後にヒースクリフが見せた人間離れした異常な反応速度のことが気になっていた。
「ごめん、シンタロー……」
「さてキリト君……この層に高いレストランが有るらしいんだが……」
「……奢ります。」
 あのデュエルに敗北した哀れなキリトは、高い高いレストランを一回シンタローにおごる羽目になった。
 しかもシンタローは奢られるのをいいことに、一番高いものを頼んだのだ。
「……正直言うとな、あのデュエル俺お前が勝つと思ってた。」
「俺も勝ったと思ったよ。 最後のアレ反則だ……」
 悔しそうにキリトは呟く。 あのデュエルの前、俺がヒースクリフと相対したことは誰にも話していない。 きっと心配するのだろうし、それに、気になることもあるからだ。
 レストランを出た頃空はすっかり暗く、現実では味わえないようなきれいな星空を眺める。
「……キリト、俺これから行く所あるから。」
「え? これからか?」
「まぁな。 ――明日から頑張れよ《血盟騎士団》の《キリト》。」
「おい、やめろ。 例えギルドに入ったとしても俺の相棒はお前だけだからな。」
「恥ずかしいことを真顔で言うな。 ――じゃあな。」
 そういってキリトに一方的に別れを告げたシンタローは、血盟騎士団の本部へとその足でやってきていた。 この時間帯の本部は人が少なく、静かだ。 その分、入口付近に佇むあの男はとても目立つ。
「……よう、ヒースクリフ。」
「待っていたよ、シンタロー君。」
 メッセージが来たのはキリトとレストランで食事をしていた頃だ。 視界の端に映ったメッセージのマークに俺は一度席を立ち、確認すればそのメッセージの宛先は《ヒースクリフ》。
 デュエル前のあの会話の流れでフレンド登録したから今日あたりくるのだろうと思っていたが案の定。
「シンタロー君、話は団長室でしようではないか。」
「……ああ。」
 俺もまた、この男に確認したいことがあったから丁度いい。
 ヒースクリフに案内されやってきた団長室は広々としていて、生活感があまり無く、此処で生活しているというのが俄には信じられない。
「さて、こんな夜遅くに呼び寄せて悪かったね。」
「いや、別に。 俺もアンタに確認したいことがあったんだ。」
「ほう、なんだね?」
「それはお前の要件を聴いた後に言う。」
 俺は冷めた声でそうハッキリと告げる。 コイツより先に自分の手札を晒す気はさらさらなかった。
「……頭のいい君のことだ、粗方私の正体にも感づいるのではないかと思ってね。」
「――そうくると思った。 ああ、そうだよ。 あのデュエルで確信した。」
 最後のあり得ない反応速度はシステムのオーバーアシストだろう。 裏を返せば、そこまでそれに頼ること無く戦っていたこの《SAO最強の男》が、それを使わなくちゃいけないほどキリトは強敵だったということだ。
「アンタ、《茅場晶彦》だろ。」
 俺は《ヒースクリフ》の瞳をまっすぐ見据え、静かに告げた。
「やはり君は気づいていたのだな。 ……いかにも、私は茅場晶彦だ。」
 茅場晶彦は落ち着いた様子で俺の言葉を肯定した
「……随分あっさり肯定したな。 んで、俺が正体を見破ってアンタはこれからどうするつもりだ。 この場で俺を殺すか?」
「いや、そんな理不尽な真似はしないよ。 ただ、君には少し黙っていて欲しい。 勿論、君に何一つ不自由はさせないことを約束しよう。」
「……キリトに殺されるつもりかアンタは。」
「そこまで感づいていたとはな。 さすがだよ、シンタロー君。」
「アンタがなんでキリトとデュエルしたかったのか、今思えば単純な思考だな。 きっとあの二刀流は数あるユニークスキルの中で、もっとも意味を成すスキルなんだろう?」
 だからこそ、キリトにデュエルを持ち込み勝利して手中に収めようとしたのだ。 其のくらい、直ぐに察しがつく。
「あのスキルは最大の反応速度を持つ者に与えられるスキル。 きみの言うとおり、あのスキルは魔王に対する勇者の役割を成すものだ。 だからいつ現れるのか、私もワクワクしながら待っていたのだよ。」
「魔王に対する勇者……ねぇ。 アンタ、ラスボスにでもなるつもりかよ。」
「さぁ、どうだろうね。 ……君の答えを聞こう。」
「……嫌だ、と言ったら?」
「頭のいい君のことだ、粗方察しが付いているのだろう?」
 どうせ管理者権限を使って脅すつもりなのだろうこの男は。 でも、その脅しは本当ではないのも察しがつく。 このゲームはフェアネスを貫いているのだからそういう真似はあまりしたくはないのだ。
「……いいだろう、黙っていてやるよ。」
「ありがとう、シンタロー君。」
「礼なら要らない。 別に、此処で俺が言いふらしたところでそれを信じるプレイヤーなんてたかが知れているからな。」
 《ヒースクリフ》というSAO内でも有名なプレイヤーと、《シンタロー》というあまり有名ではない一般プレイヤー、この二人のうちどちらを信じるかとなった時、恐らくヒースクリフの方を取る奴が大多数。
 つまり、俺のことを信じる奴なんて俺を知るプレイヤーだけだ。
「君が話のわかる人間で実に助かったよ。」
 この全てを知っているかのような達観した笑みは、やはりこのSAOを現時点で唯一管理できる者だからだろうか。
「別に、ただ無駄な争いが好きじゃねぇだけだよ俺は。 何も出来ない臆病者だからな。」
「余り自分を卑下するものではないよシンタロー君。 君があのパズルを《4秒》で解いた事と、《リトル・ニーズヘッグ》をテイムしたその事実は誇ってもいいものだ。」
 俺の側に飛んでいる《殿》を撫でながら、ヒースクリフは微笑む。
「あれは俺一人の力でクリアしたんじゃねぇし、コイツをテイムしたのも偶然だ。 誇るものじゃない。」
「リトル・ニーズヘッグをテイム出来るものは《SAO内で随一の頭脳を持つ者》と設定してある。 そして、今君が隠し持っているそれも、それを使うに相応しい者が選ばれる。 偶然では無いよ。」
 やはりバレていたか、と心のなかで呟く。 それとは、俺の持っているスキルのことだろう。
「ユニークスキル《戦闘指揮者》は、優れた判断力と適応力、そして洞察力を持ち合わせた者しか使いこなせない難あるスキルだ。 使いこなせそうかね?」
「別に使いこなすこと事態は難しくなかった。 隠すのが大変だったけどな。」
 戦闘指揮者、文字通りの意味を持つスキルだ。 其のスキルを使うと、使用者はその戦闘を指揮するものになる。 故に、戦闘の勝者を決めるものと成りうるスキルだ。
 俺がそのスキルを使ったのは、対ニーズヘッグ戦だ。 フードを被って戦闘していた為、皆は気づいていなかっただろうが俺はそのスキルを使って戦闘を指揮していた。
 あの戦闘でフードを被っていたのは、このスキルを使う時には必ずゴーグルっぽいものを強制的に装着させられるためだ。
 このスキルのことはキリトにも、アヤノにも言っていない。 何故、と聞かれれば分からないと答えるだろう。 ただ、キリトが隠していた理由とは別の理由なのは確かだ。
 何故ゴーグルを装着するのかといえば、そのゴーグルにボスの情報や分析結果が表示されるためである。
「シンタロー君、そのスキルはまだ他言しないでくれないか?」
「なんでだよ?」
「なんででも、だ。 そのスキルはある意味二刀流以上に、勝ち負けを左右するものだ。 余り他言してほしくないのでね。 私がいい、と言った戦いでのみ公開で使うのを許可しよう。 それ意外では、ばれないように気おつけて使ってくれたまえ。」
「……わかった。 ――じゃあ俺はこのくらいで帰るぞ、もういいだろ?」
「ああ。」
 そうして俺は身を翻し、扉の方へと歩いていく。 ドアノブに触れた、其の瞬間のことだった。 後ろから手を引かれ強制的に振り向かされ、流れ動作のように両手をヒースクリフ……いや、茅場晶彦に上部で拘束され壁に追い込まれた。
「……どういうつもりだ?」
 内心ドキドキバクバクだった。 ビックリしたのもあるが、それよりも振り向いた瞬間のヒースクリフのマジ顔にビビってしまったのだ。
 ヒースクリフはそんな俺のセリフには答えずに、真顔且つ耳元でこうささやく。
「……君には期待しているよ、如月伸太郎君。」
「な、んで……俺の名前……」
「我々の業界でも君の名前は有名だからだよ。 テストでハズレることを知らない天才神童がいると、ね。 もしも君がこのゲームにログインしたら、あのパズルを解くのも、リトル・ニーズヘッグをテイムするのも、戦闘指揮者のスキルを習得するのも君だと信じていたからね。 実際、私は君のことを少し調べて君用にスキルを構築した部分もある。」
「……え?」
 これはさすがに予想外だ。 まさか、この男が俺を知っていたとは。
「だからこのスキルを使いこなせる者が居るとしたら君だけなのだよ。」
「フェアネス貫いたゲームじゃねーのかよ。 俺一人のためにこんなことしていいのか?」
「だからこれは私と君、二人だけの秘密にしようではないか。」
「……別に、誰かに話すつもりはねぇよ。 だから離れてくれ。 俺はホモじゃない。 SAO内だけだが、結婚もしてる身だ。」
 未だに俺は壁ドンぽいものをやられている。 これは男が女相手にするような、つまり異性に対してするものであって断じて同性にするものではない。
「別に私だってホモではないよ、現実に恋人もいる。」
「じゃあなんなんだよこの体勢。 現実に恋人居るならそいつにしてやれよ。 俺にしたって俺は喜ばない。」
「喜ばせるためにやっているわけじゃない事は君なら分かるだろう?」
「こんなことしなくたって俺は誰にも言わねぇよ。」
「ならいい。」
 そう短く告げたヒースクリフはゆっくりと俺を離した。 俺は乱れた服を整えながら、見上げる。
「じゃあ今度こそ俺は失礼するぞ。 もう何時だと思ってんだよ。」
「そこまで送ろうか?」
「要らねぇよ。」
 不機嫌そうな声で俺はそう告げ扉を開けて、帰宅の途についた。
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