高校生組がSAO入りする話【10】
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 時刻は午前九時。
 簡易な寝床から、強制起床アラームによって起こされたキリトは、寝ぼけ眼をこすりつつ、ベッドから這い出す。
 生憎この仮想世界ではシャワーや、浴槽に浸かるという行為が必要ないので、軽く髪の毛を撫で、メニューを呼び出し、装備を整える。
「ふぁあ……」
 今日はシンタローを迎えに行くわけではなく直接、74層の転移門広場で3人と落ち合うことになっていた―のだが。
「アスナ、遅いね……」
 時刻を見れば9時10分を超えていた。 寝坊でもしたのだろうか? あのアスナが? そんな考えを巡らせていた時、転移門が青い光を放った。
「きゃああああ、避けてー!」
 悲鳴とともに74層へと転移してきたのは、自分たちが待っている相手―アスナだ。 どういうわけか、飛び跳ねた状態で転移してきたようで。
「え?」
 逃げる間もなく、アスナはキリトの上に落ちていき鈍い音が辺りへと響き渡る。
「ちょ、アスナ!?」
「大丈夫か?」
 心配したようにシンタローとアヤノが駆け寄って、そして。
「やっやあああ!」
 アスナの羞恥に染まった声が響いた直後、キリトはアスナの裏拳でふっとばされた。 状況が良く飲み込めて居ない二人をよそにアスナは顔を真っ赤に染めて胸の前で腕を交差していた。
「……うわ、大胆。」
 呆れたようにシンタローが呟くが、直ぐ様キリトが反論する。
「ご、誤解だ! 事故だ!」
 その叫びに、アスナの殺気が強くなり悲鳴を短くあげたキリトは、盛大に顔をひきつらせていた。
 そんな時、74層の転移門にやってきたのは。
「(クラディール……)」
 そう、アスナの護衛を任されているクラディールという血盟騎士団のプレイヤーだ。
「アスナ様、勝手なことをされては困ります……さぁ、ギルド本部まで戻りましょう。」
「い、嫌よ。 大体あなた……なんで朝から家の前で張り込んでるのよ!」
 そのアスナの言葉に、一同は驚きを隠せない。 素直に言おう。 気持ち悪い。
「……うわ、キモ。」
 皆、心のなかへ留めておいたというのに口に出してしまったのはこういうことにはとことん素直なシンタローだ。
「ちょ、ちょっとシンタロー失礼だよ!」
 シンタローのつぶやきはどうやらクラディールには聞こえなかったようだった。 クラディールは、アスナに近寄りながら呟く。
「私の任務はアスナ様の護衛です。 それには当然ご自宅の監視も……」
「ふ、含まれないわよバカ!」
 うわぁ、という反応しかできない。 これは本当に気持ちが悪い。 目も合わせたくないほどだ。
「聞き分けのないことをおっしゃらないでください。 ……さぁ、ギルド本部まで戻りましょう。」
 アスナの手を掴み、強制的に連れて行こうとするクラディールの腕をふとキリトが掴んで止める。
「悪いな、アンタん所の副団長様は、今日はオレたちの貸し切りなんだ。」
 其の言葉に今まであえてシンタロー達に触れなかったクラディールが反応を示す。
「き、貴様等ァ……」
 すごい剣幕クラディールは唸る。
「アスナの安全は俺が責任をもつよ。 だから本部にはアンタ独りで行ってくれ。 ……何も今日ボス戦をやろうって訳じゃない。」
「ふ、ふざけるな! アンタ等のような雑魚プレイヤーにアスナ様の護衛が務まるか! 私は、栄光在る血盟騎士団の……」
 その高らかな宣言を遮るように強めの口調でキリトは断言する。
「アンタよりはマトモに務まるよ。」
 其のとおりだと、シンタローは頷く。 どう考えたって目の前の変態じみたやつよりキリトのほうがマトモに務まるだろう。
「が、ガキ……! そこまででかい口を叩くからには、それを証明する覚悟が在るんだろうな!」
 そう言いながらクラディールはウインドウを操作する。 どうやらキリトに1対1のデュエルを申し込んでいるらしい。
 申し込まれたキリトは、アスナの顔を見る。 すると彼女は重い表情をして、頷いた。
「いいのか?」
「大丈夫。 団長には私が報告する。」
 そういうとアスナはキリトから距離を取るように後ろへと下がった。
 シンタローとアヤノが、少し離れたところから事の顛末を見守る。
「御覧くださいアスナ様! 私以外に護衛が務まらないことを証明してみせます!」
 結構装飾のついた、一見強そうな剣を構えつつクラディールは呟く。 しかし、シンタローは知っている。 ああいう装飾の多い剣は酷く脆い。
 キリトとクラディールは、互いに構えそしてカウントは段々と0へと近づいていく。 そして辺りに戦闘開始音が鳴り響くと同時に、二人は動いた。
 キリトは下から受身の態勢だったが、迷わずにクラディールへと突っ込んでいく。 受け身だったキリトが突っ込んできたことに怯んだのか、クラディールは一泊遅れて、動き出す。
「(フェイントか。)」
 勝利を確信したかのようなクラディールの顔がこちらからは見えた。 しかし、それは直後に驚きの顔へと変化する。
「え? ……え?」
 アヤノは何が起こったのか把握してない様子だった。
 それも其のはず。 ――クラディールの剣が折れたからだ。
「すげぇ……武器破壊だ……」
 そう呟く誰かの声が聞こえた。 そう武器破壊――それは、技と技がぶつかった際にたまに起きることだ。
 だがキリトのことだ、恐らく狙っていたのだろう。
「武器を変えて仕切りなおすなら付き合うけど……もういいんじゃないかな。」
 そう呟くキリト。 しかし、クラディールは素早くウインドウを操作して同じような剣をまた装備し、剣を抜いて再びキリトの元へと走って行く。
 キリトは反射的に武器を抜こうと、剣の柄を握る。 ――が、それが抜かれることはなかった。 その前にアスナが、クラディールの剣を自身の細剣で吹き飛ばしていたからだ。
「こ、コイツが小細工を……武器破壊も何か仕掛けがあったに違いないんです! じゃなかったらこんな雑魚プレイヤーに私が負けるわけがない!」
 負け犬の遠吠えとはこの事だ。
 シンタローとキリトは互いに顔を見合わせ哀れみの視線を送ることしか出来なかった。 その視線はきっとキリトよりもシンタローのほうが威力が高かったに違いない。 シンタローはそういう表情を浮かべるとき、人一倍怖い顔をするからだ。
 クラディールは、シンタローの表情を見るや否や、怯えたように後ずさる。
「……クラディール、血盟騎士団副団長として命じます。 本日を持って護衛役を解任。別命が在るまでギルド本部にて待機、以上。」
「なっ……」
 すごい剣幕でキリトのことを、いや恐らくシンタローのことも睨んだクラディールは、何かお口走りながらこちらを憎悪の篭ったような瞳で見つめる。
 しかし彼はいろいろ自制したのか、諦めたように肩をおとし、転移網へと足を運ぶ。
「転移、グランザム。」
 そう告げると、クラディールは74層から姿を消した。
「ごめんね皆。 ……嫌なことに巻き込んじゃって。」
「い、いや俺はいいけど……」
「私も平気。 だけど…大丈夫?」
「え、えぇ。 今のギルドの息苦しさは、ゲーム攻略だけを再優先にしてメンバーに規律を押し付けた私に原因が在ると思うし……」
 気丈に振る舞う彼女だが、笑みは弱々しい。
「それは……仕方ないっていうか……逆にアスナみたいなのが居なかったら攻略ももっとずっと遅れてたよ。 だらだらとやってる俺に言えたことじゃないけど……」
 何一つ気の利いたことが言えない自分に呆れつつキリトは必死に言葉を見繕う。
「だからアンタもさ、俺達と一緒に息抜きするくらいやったって、誰にも文句言われる筋合い無い、とおもう。」
「そうだよアスナ。」
「あぁ。」
 キリトの言葉にアヤノもシンタローも微笑みながら同意する。 其の言葉にアスナは感謝しながらキリトの瞳を見据え呟いた。
「まぁ、ありがとうと言っておくわ。 じゃあお言葉に甘えて今日はらくさせてもらうわね。 フォワードよろしく。」
「え? フォワードは交代だろ!」
「明日は私がやってあげるから。」
「えぇ!?」
 そんなキリトとアスナを微笑ましく思いながらアヤノとシンタローは二人の後を追いかけていった。
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