高校生組がSAO入りする話【09】
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 その後、シンタローはキリトと馬が合うとのことで一緒に行動するようになった。 勿論、殿も一緒に。
 それまで他人を拒むように独りで行動しがちだったキリトに漸く気の許せる友達が出来たのだろう。
 心なしか、キリトも楽しそうに見える。
「黒の剣士、ねぇ……」
 キリトと共に迷宮区攻略に挑んでいたシンタローは、ふとキリトの二つ名を耳にする。
「言っておくけど、俺が言い出したんじゃないからな?」
「黒の剣士って、まんまだな。そのおかげで真っ先にキリトのことだってわかったし。」
「恥ずかしいから黒の剣士って呼ぶのはやめてくれ……」
「別に呼ばねぇよ。」
 確かに黒の剣士と呼ばれるのは恥ずかしいだろう。 自分も恥ずかしい。
「俺、最近どうもお前と一緒に居るせいか《赤の剣士》とか言われてるっぽいんだよな……」
「は? 何だそれ……」
 呆れ気味にキリトは呟く。 こっちが聞きたいくらいなのだ。 ただでさえ、あのダンジョンをクリアしてから目立ちまくりで、いろいろ大変なのに。 思えばあれからもう随分立つ。 その間にも、結構いろいろ合ったが語ると長くなるので割合するとして。
 現在、最前線は74層である。
「殿ー」
 温もりを求めて名前を呼べば愛らしい使い魔である殿が、近寄って頬ずりをしてくる。 その愛らしい仕草に癒やされながらキリトとシンタローは、休憩を終わりにし、再び攻略のために戦場へと舞い戻っていく。
 殿は、回復と戦闘が出来る使い魔だ。 キリトの友達であるビーストテイマーのシリカがテイムしたフェザーリドラの《ピナ》よりもHPは高く、戦闘に向いていると言える。
「そういや、キリト。 聞こうと思っていたんだけど、お前なんか俺に隠してる事あるか?」
「……は?」
「だってお前、この間リズベットに新しい剣作ってもらったって言ってただろ? でも、其の剣使ってるとこ俺見た事ないぞ? ずっとエリュシデータばっかりじゃね?」
「い、いやそれは……」
「……まぁ、俺の予想通りなら、お前なんかスキル持ってるんだろ? しかも、それを秘密にしてるということは他の人が習得できないユニークスキル。 違うか?」
「……はぁ、勝てないなやっぱり。」
 とうとう観念したのか、キリトは重い口を開いた。
「二刀流……?」
「ああ。 少し前、スキルウィンドウみたら名前があってさ…… 情報屋のスキルリストにもないし、こんなの持ってるなんて言われたらいろいろ面倒だろ? だから隠してたんだ。 ……まぁ、練習はしてるけど。」
「まぁ、ネットゲーマーはそこら辺うるさいしなぁ……仕方ないだろ。」
 聞けばその二刀流は結構難しいモノらしく、きっと頭のいいやつしか使いこなせないだろうと、キリトの二刀流を扱うのを見ながらシンタローは考える。
 ユニークスキルといえば、SAO内でもトップギルドである血盟騎士団の団長であるヒースクリフも、《神聖剣》というチートっぽいものを持っているらしいということを聴いたことがあった。
 そういうユニークスキルもちは目立つ上に嫉妬を買うことが多いので、秘密にするのは少し分かる。
「……でも、練習だけして使う機会が無いんじゃあスキルの名が泣くぞ?」
 まぁ、自分も人のことは言えないのだが。
「使わなくちゃいけない事態が来たらちゃんと使うよ……」
「まぁ、そんな事態が来なければいいけどな。」
「あぁ、そうだな……」
 二刀流を使わなくちゃ行けないようなそんな危険な事態がこれからも起こらないことを祈るのみだ。
「シンタロー、今日は帰るか。」
「そうだな……疲れたし……」
 そうして二人はきた道を帰っていく。 迷宮区から出て森を歩いていた頃、シンタローとキリトはなにかの物音に気づいて立ち止まる。
「……あれは」
「……ラグーラビット?」
 上級のレアアイテムの名前を口にするシンタローに、キリトの目が鋭くなる。
「俺が仕留める。」
 そう言うとキリトはコートをめくり、投擲用のピックを2本取り出した。
「……逃すなよ。」
「分かってる。」
  鋭い目つきでラグーラビットを見つめるキリト。 シンタローは物音を立てないように、一歩下がり、殿にしーっとジェスチャーする。 殿は、そのジェスチャーの意味を理解したように静かになった。
 一本目のピックが近くに在る木に刺さり、其の音でビックリしたラグーラビットは逃げるために飛び上がり、すかさずキリトはもう一本のピックを構えそして、ラグーラビットへめがけ一直線に投げた。
「よっしゃ! 仕留めたぞ!」
 シンタローがはしゃぐと、殿もそれがわかったのか飛び回って嬉しさを表現していた。
「シンタロー、これ料理できるか!?」
 キラキラした目でシンタローに問いかけるキリトにびっくりしつつ、頷く。
「できるけど、俺達だけで食べてもあれだしアヤノとアスナ……4人で食べようぜ?」
「お、おう!」
「今アスナ何処に居る?」
「えっと、50層にいるぞ。」
「じゃあアスナ迎えに行こうぜ。 アヤノは今日は攻略には出ずに町をぶらぶらしてるっていうし。」
「そうだな。」
 そんな会話をしながらシンタローは歩いて行く。
 74層から50層―アルゲード内をアスナを探して歩きまわる。
「あっ、キリト君、シンタローさんに殿じゃない。」
「アスナ、探してたんだ。」
 キリトが駆け寄り、シンタローも其の後を追いかける。 ふと、目に入ったのは。
「(血盟騎士団のメンバー……か?)」
 アスナの後ろに付き従うように歩いてくる男。 ぱっと見、お世辞にもそんな強そうには見えない。 防具やらで偉そうに見せているが、肝心の本人が変態じみた表情をしている。
「どうしたの?」
「いや、これ見てくれこれ。」
 そう言って、ウインドウを見せるとアスナはビックリした様子で呟くことしか出来ない。
「ラグーラビット!?」
「これ、料理してアヤノと4人で食べようぜ!」
「え、いいの!? じゃあ、何処で料理する? アヤノとシンタローさんが寝泊まりしてる部屋のキッチンじゃ少し狭いわよね。」
 確かにシンタローとアヤノの部屋じゃ、キッチンは狭い。 かと言って、俺の部屋は料理するようにできていないし……
「……そうね、素材に免じて私の部屋を提供してあげなくもないけど。」
 そういうとアスナは後ろにいる男の方を向き、冷めた声で告げた。
「今日はもう大丈夫です。 お疲れ様。」
「アスナ様、こんな素性の知れぬ奴をご自宅に伴うなど……」
 その言葉にアスナは面倒くさそうに溜息を吐いた。
「この人達は、素性はともかく腕だけは確かだわ。 多分、貴方よりも10はレベルが上よ、クラディール。」
 おい、素性はともかくってどういう意味だ。
「……私がこんな奴等に劣ると? そうか、あのビーターと、ビーストテイマーで赤の剣士の…… アスナ様、こいつら自分さえ良ければいい連中ですよ! こんな奴等と関わるとろくなことがないんです!」
 クラディールが、何とか引きとめようとしているがアスナは呆れるばかりである。 そして先程よりも強い口調で、告げた。
「ともかく、今日はここで帰りなさい! 副団長として命令します。」
 クラディールの反論も聞く暇も無く、アスナはシンタローとキリトの服を掴み歩いて行った。
「お、おい! いいのか?」
「いいんです!」
 立ち尽くすクラディールを見ながら、シンタローとキリトはその場を後にした。
 シンタローの家に寄りアヤノを迎えに行った後で4人はアスナのホームがある61層のセルムブルグへとやってきていた。
「へぇ……広いし、人は少ないし、開放感あるな。」
「本当だな……景色も綺麗だ。」
 ちょうど日が沈む時間帯のセルムブルグの夕焼けをバックに歩いて行く。 するとアスナはキリトとシンタローの言葉に答えるように振り向いて言う。
「だったらここへ引っ越せば?」
 其の言葉にキリトはうなだれた。
「金が圧倒的に足りません……」
「あはは、キリト君お金が入っても直ぐにいろいろ使っちゃうもんね…シンタローもシンタローで、いろいろ使っちゃうし……にしても、アスナすごいところに住んでいるんだね……」
 景色を見回しながら、アヤノははしゃぐ。 シンタローはそんな彼女を可愛らしいと思いながらアスナの後についていく。
「お邪魔します……」
 そうして案内された彼女の部屋は、とても可愛らしい雑貨でうめつくされていた。
「なぁ、これいくら掛かってんの?」
「えーと、部屋と内装で400万コルくらいかなぁ…着替えてくるから其処に座ってて。」
「あ、私もー!」
 そうしてアスナとアヤノは奥の部屋へと姿を消した。 それを見送り、シンタローは着替えるべく立ち上がる。
「あれ、キリトは着替えねえの?」
「あ、そうだな。」
 暫く経ち、アヤノとアスナが着替え終わったのを見計らいキッチンへ移動する。
 アスナの部屋のキッチンは、とても広くシンタローは目を輝かせた。
「す、すげぇ…… いいなぁ。」
 そんな声をあげるシンタローを見ながらキリトはすかさずウインドウを操作してラグーラビットの肉を取り出した。
「へぇ、此れがラグーラビットの肉なんだ……」
「シンタローさん、これどんな料理にする?」
 アスナが机に置かれた肉を見ながらシンタローに問いかけた。
「うーん、やっぱりラグーっていうくらいだから、シチューがいいんじゃないか?」
「ラグー?」
 アヤノが首を傾げながらシンタローに問いかけた。
「煮込むっていう意味だよ。」
「おお!」
 意味がわかったのか、アヤノはキラキラと目を輝かせこれから起こることに胸をはせている。
「さて、じゃあ料理に取り掛かりましょうか。」
 アスナの言葉が合図になったように、二人はてきぱきと料理に取り掛かった。
 キリトとアヤノはそれをただ見つめるだけ。
「……すごいね。」
「そうだな……」
 そんな事を呟くことしか出来ず、仕上がっていく料理たちに胸を躍らせそして一泊置いて二人で笑いあった。
 数十分後、食卓が整い配膳を済ませる。 目の前にはシンタローとアスナが作った料理が並び、キリトとアヤノは目の前の光景を輝かしい目で見ていた。
 ひとくち食べてみれば、それはとても美味で。 仮想世界と言えどもやはり食事は楽しいものだと改めて認識させられたような気がした。
「S級食材なんて2年も経つのに初めて食べたわ…今まで頑張って生き残っててよかった……」
 それはアスナの心からの呟きだろう。 それは彼女の向かい側に座る自分だって同意見だ。 するとアスナは途端に表情を変え真剣な眼差しで窓の外を見据えた。
「不思議ね……なんだかこの世界で生まれて、今までずっと暮らしてきたみたいな、そんな気がする。」
 其の言葉に答えたのはキリトだった。
「俺も、最近あっちの世界のことを思い出さない日がある…… 俺だけじゃないな、最近はクリアだ、脱出だって血眼になる奴が少なくなった。」
 それは自分も感じていた。 キリトと出会って1年余り、もう何度もボス攻略に参加してきた自分には分かる。 段々と、数が少なくなっていることが。 ただそれは死んだ、とかではない。
「……今最前線で戦っているプレイヤーなんて、500人居ないでしょう?」
「馴染んで来ているよな、皆。」
 シンタローは、手元にあるティーを手に取りながら呟いた。
「……でも、私は帰りたい。」
 静まり返った室内でアヤノの声が響き渡った。 其の言葉にアスナは微笑み、付け足す。
「ええ、私も。 だって、あっちの世界でやり残したこと、沢山あるから。」
「そうだよな。 俺達が頑張らなきゃ、サポートしてくれている職人クラスの連中に申し訳が立たないもんな。」
 アスナの言葉を聴いたシンタローが微笑みながら呟いた。
「ああ。」
 キリトもまたシンタローと同意見だ。 そんなキリトの表情を見たアスナは慌てたように言う。
「あ……キリト君、やめて……」
「は?」
「今までそういう顔した人から何度か結婚を申し込まれたわ。」
 そのアスナの言葉にアヤノとシンタローは顔を見合わせて笑う。 アスナは勝負に出ているのだと二人揃って気づいてしまったからだ。
「は!?」
 分かりやすく動揺した様子のキリトに安心したようにアスナは微笑む。
「其の様子じゃ、私達の他に仲のいい子とかいないでしょ。」
 返す言葉もなかった。 戦闘系のスキルの熟練度はMAXに近いが、そういう経験は俺にとっては皆無であったから。
「……い、いいんだよ!」
 慌ててそういいかえすが、説得力はあまりなく、アスナやシンタロー・アヤノはあははと笑った。 その様子にイジケたように視線を逸らす。
 するとまた、アスナは真面目な顔をし、キリトに問いかけた。
「……ねぇ、シンタローさん・アヤノ、キリト君。 ……君たちは、ギルドに入る気はないの? ベータ出身者であるキリト君が集団になじまないのも、シンタローさんが人見知りなのもわかってる。 ……でもね、70層を超えた辺りからモンスターのアルゴリズムにイレギュラー性が増してきているような気がするんだ。」
 そのアスナの言葉にアヤノもシンタローもキリトも頷く。
「想定外の事態にもしも陥った時、対処ができなかったら……待ち受けるものは死よ。 メンバーは多い方がいい。 其の面でも私は貴方達にギルドに入って欲しい。」
「……安全マージンはちゃんと取ってるよ。 それに、俺、ギルドは……」
 そのキリトの言葉にシンタローは、少しだけ反応を示した。 彼と行動を共にするようになってから数ヶ月経ったある日、話してくれたからだ。 過去に、キリトの身に起こった事を。
「そ、それに! シンタローは別だけど、他のパーティメンバーはじゃまになることが多いし。 俺の場合。」
「あら、」
 余計なことを言ってしまったと、キリトは言ってから後悔した。 次の瞬間、キリトの目の前には銀色に光るナイフがアスナの剣技、《リニアー》で出されていたのだ。 さすがは閃光、といったところか。
 技の軌道が、全く見えなかった。
 そして何よりも、アスナの隣りに座るうアヤノの顔も少しギラついていた。 俺は降参したように、呟く。
「……わかったよ、アスナと、それとアヤノも例外だ。」
「そう、良かった。」
 そう言ってアスナは得意気に持っているナイフをペン回しのごとく回し、驚きの言葉を口にする。
「じゃ、久しぶりに私とコンビ組みなさい。 アヤノはシンタローさんとね。 この4人で、明日74層の迷宮区に行きましょう。 まぁ、今週のラッキーカラー黒だし、ちょうどいいわ。」
「なっ……なんだそりゃ!」
 意味がわからない。 何故そこで占いの結果が口に出されるのか。
 確かに自分は全体的に黒いが、それはあんまりなのではないか。
「そ、それはそうと、アスナはギルドが在るだろ!?」
「私のギルドはレベル上げノルマとか無いし。」
「じゃ、じゃああの護衛は!?」
「置いてくるし。」
 そんなアスナとキリトの言い合いと、よそに諦めた様子のシンタローが呟く。
「キリト、諦めろ。」
 シンタローの言葉を耳にしつつ、諦めが悪いキリトは命取りな事を口にしてしまった。
「……最前線は危ないぞ。」
 瞬間、再び《リニアー》によって出されたナイフが目の前に突きつけられ、アスナの険しい表情が、視線が俺を射抜いていた。
「わ、分かった……」
 此れにはキリトも頷くしか出来ない。 そのやりとりをひと通り見たアヤノとシンタローはぷっと吹き出す。

 食事が終わると直ぐ様、アヤノとシンタローは帰るというのでキリトもまた彼女に別れを告げ、玄関から外へと出る。 玄関先の階段まで見送ってくれたアスナは微笑みながら呟く。
「今日は一応お礼を言っておくわ。 ありがとう。」
「こっちこそ、また頼む……と言いたいところだが、もうあんな食材アイテム手に入らないだろうな。」
 其の言葉に言い返したのはアスナではなくシンタローだ。
「おいおい、普通の食材だって腕次第だぞ?」
 そんなつぶやきが闇夜へと消えた頃、アスナを含める四人は夜空を見上げた。
「今のこの状態……この世界が、本当に茅場晶彦の作りたかったものなのかな……」
 その自問自答のような呟きに、3人は答えることが出来なかった。
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