高校生組がSAO入りする話【04】
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 微妙な表情の変化にキリトは気付いたのか、場所を変えようと言いシンタローに手を差し出した。
 尻餅をついた状態であるシンタローは戸惑いがちにキリトの手を取り、そして立ち上がる。
「あ、ありがとう……その、助けてくれて……」
 フードをゆっくりと取って見えた初めての彼の素顔は、口調とは反対に大人びて見えて、悔しくなってしまう。
 だって彼の容姿は自分の其れとは違い、男らしさが感じられるからだ。
「いや、お礼なんかいいよ。」
「正直3人来るとは思ってなくて……」
「……じゃあ狙われているのは予想ついていたのか?」
「ああ。」
 シンタローは慌てもしないで冷静に答えた。
「それじゃなんで迷宮区にいたんだ?」
 キリトの疑問はもっともであり、あのラフコフに狙われているとしりながら何故一人でこんな迷宮区に来たのだろう。
「……。」
 其の問いかけにシンタローは目線をキリトから逸らして、黙りこむ。 言いにくいことなのだろうか。
「言いにくいことなのか? なら別に強制はしないけど…」
「ラフコフが出没するって言われるようになってから迷宮区は閑散としていたし、迷宮区なら誰も巻き込まないだろうなって……」
 シンタローがつぶやいた考えは、納得できるものだった。 キリト自身、恐らくそう考えていたであろう事が自分でも分かってしまった為だ。
「じゃあなんでアヤノの前から姿を消すような真似を?」
「アイツをSAOに誘ったのは俺だからだよ。」
 淡々と告げる彼は、どこか自嘲気味な表情を浮かべていた。
「……お前が?」
「ああ。俺さ、この世界に来る前いろいろゴタゴタしていたんだ。
 それがやっと終わってゆっくり出来るなぁって時にこのSAOが発売するって言うんで、アヤノと一緒にやってみようって持ちかけたんだ。
 ――その結果が此れ。
 現実の家族も、アヤノとやっとゆっくり過ごせるっていうそんな日々からまたアヤノを奪っていってしまった。 しかも他の誰でもない俺自信の手でさ。
 だから俺は、アヤノが早く家族に会えるように……そう想って……」
 
 シンタローの願いはきっとアヤノが無事に現実世界へと帰ることだったのだろう。 その願いはきっと今も同じだ。
 迷宮区からエギルの店がある層まで帰る道中で、キリトはシンタローから話を聞いていたのだが思った以上にシンタローは自分によく似ていると感じざるを得ない。
 人ごとではない考え方で、キリトは隣にいる恐らく自分よりも歳上なのであろうシンタローに親近感を覚えた。
「キリト……っていったっけ? ごめんな、こんな長々と話しちまって……」
「いや別にいいよそんなこと。 それに俺さ、お前となんか気が合うような気がするんだ。」
 そんな言葉を交わし合いながら戻ってきた50層のエギルのお店の二階で、シンタローは詳しく事情を聞かれていた。
「始まりの日、偶然会ったんだ。 ……元、クラスメイトに。」
「クラスメイトってまさか――」
 アヤノが素早くそれに反応して、それをシンタローは肯定した。
「ああ。 あの二人だよ。
 ――それからしばらくはあの2人と行動を共にしていた……と言うよりも、脅されて行動を一緒にせざるを得なかったのほうが正しいな。
 ただ、時が経つうちにあの二人が俺に何をやらせようとしていたのかが、なんとなく想像できてさ。
 ……だから怖くなって其の二人から逃げ出したんだ。」

 それからだった。 ――常に視線を感じるようになったのは。
 その視線はただの視線じゃなくて殺気の篭った視線で、俺は嫌でも分かった。
 あの二人が俺を殺そうとしているのだと。 だって、あの二人ならそこまでしかねないから。
 其れは身を持って知っていることで、俺は其れで支配されてきたんだ。
「なんで今更……。」
 アヤノはその事実を聞いてシンタローの手を握りしめて、大切なときに側に居られなかったと嘆くように彼の瞳を見つめた。
「キリト、だっけ? あの……その……お願いがあるんだけど……いいか?」
 ふと、シンタローが珍しくキリトの目を真っ直ぐ見つめた。 申し訳無さそうに、シンタローはそのお願いを呟くように吐き出す。
「これ、回廊結晶なんだけど……その二人を牢屋にぶち込んで……ほしいんだ。 本当は俺が行かなくちゃ行けないんだけど……その……一人じゃ……、怖くて……」
 トラウマまでは行かないけれど、しっかり恐怖が染み付いてしまって対抗できる気がしない。
 でも、このままだとまた自分が命を狙われかねないのだ。
 今のうちに牢屋にぶち込んで置かなければ。 あの二人は暴力をふるうことを楽しいとしている危ない奴等だから、俺意外にもきっと被害者が居るはずだ。 

 ――だから今のうちに。
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